52 : 十五歳と修行その弐
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十五歳になった。
僕たちは、ネリを加えた新・仮面舞踏会として活動していた。
主な活動場所は迷宮で、目的は全員のレベル上げと連携力を上げることだった。
特に、僕がしていた死にタンクをネリ、そして自身の再生力を自覚したニリアの二人が却下したため、
新たにパーティーとしての形を模索する必要があった。
この一年で、ネリ以外は全員がシルバーランクに上がった。
成人である十八歳までにブロンズに上がれるだけでも有望株の冒険者界隈。
そんな中、僕とグラモロスは十五歳、ニリアに関しては十三歳でのシルバーは、
迷宮都市リビランにおいても覚えが良かった。
しかも、仮面で顔を隠し、また各階層をランニングで踏破し、さらには特異個体と必ずといっていいほど戦闘になる上に、誰も欠けていない。
そんな異様さも相まって、僕たちは攻略隊のスカウトの人たちにすら声をかけられた。
でも、ネリとニリアの龍化はこの一年でさらに進んでしまったし、ゴルドラン兄妹は皇族。
そして、龍を倒す目的のためには迷宮を探索している時間はなかった。
今僕たちがいるのは二十九階層。
攻略隊がいるのは三十六階層。
だんだんと攻略隊との階層差も縮まってきていた。
僕はあれから、水光線の魔法と蜘蛛糸の魔法。
そして武具類によって上昇した速度を用いた遊撃手へと役割を変えた。
ネリは、最初に宣言した通り、前線でのタンクを張っている。
龍化の影響で出せるようになった黒の龍鱗は敵の攻撃を簡単にはじき、魔獣を倒すごとにその硬さは増していっている。
僕の水光線の魔法だと、相当魔力を込めない限りはそもそも傷すらつけられないレベルだ。
ゴルドラン兄妹はどちらも敵へとダメージを与える役割になっていた。
グラモロスは圧倒的な力で切り伏せ、ニリアは膨大な魔力で敵を蹴散らす。
そうして、互いの連携や、得意を伸ばして終わった二十九階層。
特異個体は倒し終わり、今は帰路についていた。
迷宮を出たら、パディ王都に戻り、そして連峰へと足を運ぶ。
数年前から、龍はパディ―王国の北側にある連邦から動いていないらしかった。
トルドーさんへと挨拶をすます。
「しかし、本当に四人だけで行くのですか?」
迷宮とは違い、別に神から誰かを頼ってはいけないと言われているわけではなかった。
だから、それこそプラチナ冒険者やゴールド冒険者を、僕たちが迷宮で稼いだお金で雇ってもいい。
けれど、相談してやめた。
理由は、ネリが放った一言だった。
「はい。私たちは口憚らずに言えば『神に選ばれている』ので」
ネリは僕たちに言ったみたいにトルドーさんへと告げる。
もう何度も話し合いを重ねている。
それでも、僕たちの結論は変らなかった。
僕は死んでも生き返る能力が。
ネリ、そしてニリアは龍に届きうる龍化が。
そして、グラモロスは神の子と言うべき圧倒的なパワーと身体能力がある。
これは、プラチナの冒険者に匹敵しうる特性だ。
二十九階層の特異個体を倒せた時点で僕たちは、前の周期の攻略隊が断念した三十四階層の魔獣も倒せる実力があるということだ。
もちろん、それが通常個体として出てきて連戦するだけのものはまだないけれど。
自惚れを自覚して言うのなら、ゴールド冒険者くらいの強さはある。
「わかりました。それでもお気をつけて。両殿下、必ず私の元に戻ってきてくださいね」
ゴルドラン兄妹を見るトルドーさんの目は親が子を心配するような優し気なものだった。
「当たり前だ。俺はまだ死ぬつもりはない」
「もちろんです、トルドー様。それと兄様、この中で死ぬ可能性が高いのは兄様なのを自覚してくださいね」
そんな二人に笑みをこぼしたトルドーさんを背に、僕たちは迷宮都市リビランを出た。
去り際に僕にしてきた目くばせは、おそらく、頼みます、ということなのだろう。
迷宮に初めて三人で潜るときに言われたのと同じ気配を感じる。
そしてパディ王国まで走った後に向かったのはベルトルトさんのところだった。
「あんときにこんな小さかった二人がなぁ」
懐かしそうに手を自分の太ももくらいまで下げて言うベルトルトさんに、僕もネリも気恥ずかしくなる。
今や、僕もネリもほとんどベルトルトさんを見上げていない。
子供の頃、大きく感じられた体は今はどこかしぼんでいるようにも見える。
その背中が少し物悲しかった。
「それに、もうバンに至っては俺と同じシルバーだ。しかも俺より十年早くシルバーになってやがる。まったく、生意気になったもんだ。まぁ、昔から小生意気なところはあったけどな」
「えっ、僕はいい子でしたよ」
「何言ってやがる。もちろん聞き分けはよかったが、いい子というよりもませたガキだったな、あれは」
「うん、バンはませてた」
今言わなくても。
上手くやれていたと思っていた子供自体に周りからそんな風に思われていたとは。
「ネリも、バンと同じくらいの強さがあるのはわかってる。よく頑張ったな」
ネリの頭を撫でるベルトルトさんの手つきは、ガラスのグラスを触るくらいに繊細だった。
やっぱり、意識のないネリをずっと見ていたからだろうか。
ネリもくすぐったそうに、でも嫌がらずに頭を差し出していた。
さすがに、僕も、というのは恥ずかしい。
「それじゃ、頑張れよ。応援することしかできねぇのが、心苦しいが」
送り出すとき、僕も乱暴に頭を撫でられた。
手の大きさは小さかったころとほとんど変わらない、頼りたくなってしまうようなものだった。
そのまま、北門へと向かう。
グラモロスに両親の元に行かなくていいかと聞かれたけど、僕もネリも首を振った。
心配させたくない。
それに、今まで龍を倒すことは伏せてきたのだ。
仮に龍を倒しても、僕たちはその話は伏せるつもりでいる。
だから、言わない。
僕たちが迷宮に行っている間にネリに弟ができたらしく、見たい気持ちを抑えるのも大変だったけど。
北門には衛兵が立っていた。
前とは違う人だった。
だから、僕たちのことも知らない。
北門に来るのは久しぶりですごく懐かしかった。
王都から外に出たのも、この門だった。
冒険に胸を躍らせていた記憶がないでもないけど、不安だった気もしなくもない。
ちゃんと覚えられていないほど、年月が経った。
でも、成長したと胸を張れる。
だから、まぁ、スライムに殺された過去のことは恥ずかしく思う必要もないだろう。
あれがなければ、最弱の魔獣であるスライムにすら勝てないという経験がなければ、幼いころから真剣に龍を倒すために修行することもなかったのだろうし。
さぁ、龍は連峰の頂にいる。
それまでに出てくる魔獣も弱くない。
僕たちは、仮面の奥にある目で互いに頷きあって、”外”へ出た。




