51 : 宝玉とネリ
読んでいただきありがとうございます!
毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。
楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
迷宮から戻った僕たちはトルドーさんに行く先を伝えて、三人でパディ王都へ向けて出発した。
一緒に迷宮に潜って二年たったせいか、二人が皇族であることを忘れていた僕は、走りでの帰宅を提案した。
二人とも、僕が何を言っているか一瞬理解が遅れたけど、面白そうにして受けてくれる。
僕も、そしてゴルドラン兄妹も、もうブロンズの中でも上位。
実力だけならシルバーはあるとされるレベル。
それに迷宮も一度階層主を倒した層に関しては走って進んでいたうえ、HIT は全員で毎朝二年間続けていたから、体力も十分。
正直、馬に乗ってるよりも、軽くランニングした方が早い。
ブルー・ホーンからドロップした短刀は、短刀らしく速さが上昇するものだった。
上昇幅が大きいせいで、まだ完全には使いこなせていない。
そして、一つ。
短刀を手に入れてから獣魔法を使えるようになった。
水光線の魔法。
やってみて、思ったがだいぶん燃費のいい魔法で、しかも威力は高い。
僕の創作魔法である蜘蛛糸の魔法と同じくらいの魔力量であの威力を出していたんだから、驚きだ。
前は数か月かかったパディ王都から迷宮都市リビランへの道を、僕たちはものの二週間で踏破した。
仮面をかぶった三人組がほとんど音もたてずに疾走する姿は道行く人にギョッとされたけれど、
迷宮でも似たようなことは何度もあったから気にならない。
王都に入る門では衛兵が立っている。
今の二人、というか僕もだけれど、フード付きの外套を着ていたから、ものすごく不審ではあったものの、僕のことを覚えてくれていた衛兵は、またブロンズの冒険者パーティーともあってすんなりと入れてくれた。
二人の身分は明かさずに去りたい。
友好国とはいえ、皇族が王都にお忍びで来ました、はさすがに外交上まずいらしいから。
すぐに、僕はベルトルトさんの家へと向かった。
実家に顔を出したい思いもあるけれど、二人がいる分、パディ王都に長居するつもりもない。
後で持ってきたブルー・ホーンのドロップ品を渡すついでに少し寄ろう。
「おう、バン。まぁ、入れよ」
ベルトルトさんは何も言わずに僕たちを中に入れてくれる。
僕の迷宮攻略の進度や、パーティーメンバーのことは二人にも言ってあったから、突然戻ってきたことで大方察したらしかった。
「宝玉、手に入ったんだな」
「はい。さっそく、ネリに使おうと思います」
「そうか」
ベルトルトさんはそれだけ言うと、ネリの部屋へと案内してくれる。
久しぶりに会ったのだから、積る話もある。
でも、今はそんなことどうでもよかった。
ベッドで眠るネリは、静かに寝息を立てていた。
あの頃と変わらない十四歳のままの姿。
今でも、ルキアとの決闘の日を思い出すと、自分の迂闊さに胸を掻きむしりたくなる。
「ネリ」
僕は呼びかけながら、宝玉をかざした。
実は、僕も、ゴルドラン兄妹も宝玉の正しい使い方は知らない。
伝承では近づけたとしかなく、何か特別な儀式をしたみたいな話は残ってなかったそうだ。
でも、さすがに宝玉を得るまでが試練なのだから、そこまで複雑な過程は用意されていなかったらしい。
淡く妖しい白光を放つ宝玉はみるみるネリから黒い靄を吸い出していった。
額の紋章も黒から灰色と薄れていき、そのあとを完全に消した。
ネリの瞼がピクリと動く。
息をのんだ。
目を開けて、周りを見たネリは一番近くにいる僕に視線を定めると怒ったような目つきになった。
「死なないでって言ったよね」
いきなりの言葉を理解できなかった。
そもそも、二年で僕の見た目も大人に大きく近づいている。
どうして、すぐに僕だと気づけたのか。
「私、神様のそばでずっと見てたんだから」
最悪だった。
僕が死を前提に戦うようになったことを、ゴルドラン兄妹には言わないようにと言い含めていたのに。
怒った顔から、今度はすぐに目に涙を潤ませた。
「私のために、何度も死ぬバンを」
そう言って泣き出したネリにつられて僕の泣いてしまった。
今まで我慢してきたものが、溶けて流れ出すように。
抱き合って、泣き止むまでに日が傾いた。
僕が泣くのを初めて見たゴルドラン兄妹は、驚いた顔をしていた。
「私が言えた義理じゃないのはわかってる。でも、もうバンは死なせない。呪いになんかもやられない。私だって、神様に鍛えてもらったんだから」
その話はその話で訳がわからなかった。
それでもネリは畳みかける。
「それに、龍の場所がわかるようにもしてもらったから」
だから、今すぐにでも戦いにいける、と。
「ちょっと、待ってください。あぁ、先に自己紹介でしたね。私はニリア。で、ネリさん。その、神様に会ったというのは本当なのでしょうか」
ニリアは少し動転しながらも、僕たちが一番聞きたいことを聞いてくれた。
「本当よ・・・えっと、なんて呼べばいいかしら」
見ていたというのなら、二人がゴルドラン帝国の皇子皇女であることは知っているのだろう。
「ニリアで結構です。バン様にもそう呼んでいただいているので」
ニリアが僕へと視線を投げかけてきたのを、ネリがつまらなそうに見ていた。
「へぇ、バン様。それでニリア、私が本当のことを言っているかどうか、私から出せる確証はないわ。強いて言うのなら、バンの二年間のこと、二人のことを私が知っているのが証拠かしら」
蚊帳の外になったグラモロスが口を開いた。
「俺はグラモロスだ。身分は隠しているから、グラモロスでいい。見ていたなら知ってると思うが、このパーティーでは攻撃役を務めている。それで、ニリアは神様にどのポジションとして鍛えてもらったんだ?」
「前衛よ。皆を守るわ」
しかし、ブロンズに上がりたてのニリアの身体能力は、おそらくそこまで高くない。
僕たちについてこれるのか、そんな不安を僕たちが持ったとき、ネリは笑った。
「こうやってね」
掲げた腕に黒い龍鱗をびっしりと生えさせた。
「龍化が進んでるわけではないわよ。これ、龍の呪いの一部を引き出しているの。ニリアも似たようなこと、しているわよね。魔法を使う時」
「それはそうですけど、でも、私の場合は龍化が進んだ結果できるようになったたけです。眠っている間は龍化は進まないはずのネリさんがどうして?」
「簡単よ。進めてもらったもの」
「はぁ?!」
「ネリ、何考えてるの?」
僕が詰め寄ると、ネリはこともなげに言う。
「大丈夫よ。私の期限はニリアと同じくらい。だから、あと短くて一年、長くて二年。それまでに龍を倒すのでしょう?」
そう言われれば、そうだけれど。
ただ、死んできた僕が言えることじゃない。
不安にさせるな、なんて口が裂けても言えない。
この振り回される感覚に懐かしむより、困惑の方が大きい。
「ははっ、面白いな」
グラモロスは愉快そうに笑った。
「そういう奴は嫌いじゃない」
ニリアは呆れたように言う。
「バン様に聞いていましたけれど、結構無茶な人なんですね」
再開できた喜びは、もうさっき済ませた。
ならば、ここからは、今後のことを考えよう。
どうせ、龍は倒すのだ。
「ネリ、ただいま」




