47 : 二十二階層とゴルドラン兄妹
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楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
「ニリア、お前」
グラモロスが何かを言いかけたが、ニリアが睨んで黙らせた。
「バン様、よろしいですか」
それは確認ではなかった。
ほとんど命令に近い語気でニリアは僕を見つめてくる。
「わかったよ」
僕は手にある魔石を床へと捨てた。
「それ、だけじゃありませんからね。今後、一度も、自爆魔法を使わない、ですから」
今までにないほどに強硬な態度をとるニリアを僕は測りかねていた。
まぁ、あとでグラモロスに聞けばいいか。
その日の休憩はそれで終わった。
以降、同じ話が出ることはなくなったけれど、ニリアも、そしてグラモロスも普段よりもより積極的に動くようになった。
そのせいで、今まで作ってきた連携が崩れる場面がチラホラと見られ始めたけれど、おそらく原因であろう僕が何を言っても仕方がない。
できるだけ、フォローに回ることを意識して、二十一階層は幕を下ろした。
ついに二十二階層。
二十階層い続いて二十一階層も階層主に出会わなかった。
次の二十二層も出会わない可能性はある。
単に宝玉をドロップする魔獣が都合よく目の前に現れてくれるだけかもしれない。
そんな都合のいい妄想をしながらも、どんどんと進んで行く。
ある曲がり角を進んだとき、周囲の空気が一層冷えた。
肌寒さに鳥肌が立つ。
今まで何度も迷宮で感じてきたその気配はまごうことなき階層主のものだった。
前に注意をしながらも、僕はグラモロスとニリアの二人へ視線を投げかける。
つまり、まずは一人で突貫しにいくという合図だ。
グラモロスがニリアの方を見る。
「気を付けて」
ニリアがそんなことを言うのは初めてだった。
なにせ、今まで気を付けるも何もなかったから。
僕が重傷を負った場合、合図を出して自害というのが今までのルールだ。
死ぬかもしれない突撃も、ほとんど念のための確認くらいしかしなかった。
でも、今のニリアの目に浮かぶのは、まぎれもない心配だった。
でも、自爆攻撃はともかくとして、死ぬことをためらうことはしないよ。
悪いけど。
僕は進む度に肌を刺す濃密な気配に気づかないフリをして、足を速める。
まず確認しないといけないのは、魔獣のタイプだ。
スライムなどの不定形、ゴブリンやオークなどの人型、ウロコヘビのような蛇型、ボム・アントのような虫型など。
もちろん、ゴブリンとオークに同じ戦法は通じないけれど、それでも人型なら目は前方についているから死角が多いが、知能は高い傾向にあるだとか、何かしらこの先の攻め方を考えるのに役立つ。
どんな魔獣が出てくるのか。
なるべく相手に見つからないように壁際を走った僕の目に映ったのは、四足歩行にどっしりとした肉体、僕の二倍はあるだろう背丈を持った魔獣だった。
近しい魔獣を頭から引っ張り出す。
ブルー・ホーン。
前世で言うところのサイのような風貌の魔獣だ。
ただ、サイとトリケラトプスを足して二で割ったうえに、軽自動車を混ぜたようなごつさを持っている。
通常はメタリックなブルーのはずだけれど、なぜか、体の端々に宗教芸術を思わせる白いラインが入っていた。
特異個体。
間違いなく階層主だ。
四足歩行、かつ草食動物系の魔獣は視野は広いが、距離感の把握には優れていない。
また、総じて体力が高く、また体は頑丈で、パワーは強い。
特に、ブルー・ホーンはウロコヘビと比べられるほどに肉体が硬く、またウロコヘビとは違い、ウロコの隙間や、大きく開けられた口など、弱点らしい弱点もない。
これに傷をつけられるのは、それこそグラモロスか、ニリアの全力の一撃くらいだろうか。
もう僕は相手に気づかれている。
「ブルー・ホーン。来るぞっ!」
少し後ろにいる二人に聞こえるように大声を出し、僕はブルー・ホーンへと接近した。
走る速度に強弱をつけて、距離感覚を惑わせる。
そして、視線を切った隙を見て飛び上がれば、体の構造上上を見ることができない魔獣からは僕が消えたように見える。
間合いを測りながらも、近づいていくとマーマンのような壁を穿つ高圧の水が一本、僕を目掛けて射出される。
今、この状態のパーティーにとって一番会いたくない魔獣。
マーマンの攻撃は僕が身代わりになることで今まで避けて進んできたのだ。
それも、ずっと昔の話ではなく、昨日や一昨日の話だ。
そこからさらに、マーマンよりも速いとわかるブルー・ホーンの魔法は、身代わりになるしかない。
僕は避けることができる魔法を、全身で受け止めた。
こういうとき硬化の魔法は便利だった。
いくら肉壁と言っても人の体程度だと柔だったから。
「死ぬっ」
そう叫んだのを最後に僕は真っ暗な部屋へと来ていた。
スクリーンにはゴルドラン兄妹がブルー・ホーンへと接近する様子が映し出されていた。
ただ、やみくもに突っ込むわけではなく、ニリアが氷柱落としの魔法で相手の視線を切る障害物を作り、またグラモロスが僕が教えた方法で煙玉をあたりに充満させていく。
スクリーンはその場に僕がいたら見れる光景を見るだけだから、煙が充満すれば、もう中で何が起きているのかわからない。
カウントダウンはもうじきゼロへとなる。
とりあえず、次に僕がすべきなのは、「戻ったっ」、だ。
グラモロスから「おうっ」と、ニリアからも「はい」と返事がくる。
僕が死んでいる間に何か離脱が必要な、それこそ僕がしんがりとなった方が良い怪我を負った場合のための、やり取りだった。
単に返事をするだけなのは、つまり二人とも負傷なし、または軽微ってことになる。
なら、僕はグラモロスの援護に回ろう。
感覚を研ぎ澄ませて、ブルー・ホーンの、そしてグラモロスの動向を追う。
まだ衝突はない。
いやっ、突進が来る。
僕はその場に飛び上がった。
オークもそうだけれど、突進するタイプの魔獣は飛んで避けられることが多い。
魔獣の知能が人よりも低くて本当に良かったと、迷宮に来てから何度も思う。
もし、これだけのポテンシャルを秘めていて、それでいて人と同等の知能でも持っていれば、もう人間に勝ち目なんてなかったかもしれない。
ブルー・ホーンもまた嗅覚を知覚に使える魔獣だ。
だから、僕は匂い玉を煙玉に被せる形で放つ。
匂いは僕たちは何度も嗅いだことのあるものだった。
だからこそ、これに関しては合図はなしだ。
これで相手は、煙玉と匂い玉をずっと残す限りは僕たちを見つけれないはずだ。
既視感に僕の足が止まる。
前にも一度、同じような状況になったはずだ。
そこで思い出した。
黒のウロコヘビの暴風だ。
でも、気づくのが遅かった。
ランダムに放たれたであろう、サファイアの光線は僕の足をえぐり飛ばした。
地面へと倒れこむ最中、他にも倒れた人の音がする。
気を失い、気づいたらまた真っ暗な部屋にいた。
死んだのはわかっている。
でも、僕はいい。
もし、二人のうちどちらかが。
そう思うだけで肝が冷える。
スクリーンを舐めるように見ても、煙玉のせいで何も映らない。
能天気なカウントが、今は煩わしい。
「戻ったっ」
僕の声には誰も反応しなかった。
グラモロスも、そしてニリアも、どちらの声も聞こえない。
周囲へと拡散し、薄くなる煙の中で見えたのは倒れこむ二人だった。




