46 : 見ている側と生き返り
読んでいただきありがとうございます!
毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。
楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
一度言ってしまった言葉は元には戻らない。
グラモロスも、ニリアも、僕が死にに行くことに対して思うところがあるのは感じていた。
最初は、必要だから、便利だからと割り切っていた二人も、仲を深めれば深めるほどに僕がなるべく死なないようにと行動するようになった。
けれど、表情に出すことはあっても、面と向かって言われることはなかったから。
それに必要だったから。
だから、僕は今まで気づかないフリをできていた。
でも、言われてしまったら、もう僕は『辛いと言われているのに死ぬ行動を取るのか』という問いを毎回投げないといけなくなってしまう。
「私を助けるためだけでないのは知っています。お話に聞くネリさんのためだということも。でも、その中にわずかでも私のためというのが入っていると思うだけで、苦しいんです」
ニリアは賢い。
だから、言わない方が目的に適うことは理解しているはずだった。
悲痛で、弱弱しい声は普段の気丈な話し方とはまったく違った。
受け止めるべき仲間の声。
だからこそ、僕も言わないといけない。
「ごめん。でも、やめるつもりはないよ」
グラモロスのため息が聞こえた。
少なくともネリを助けるまでは、僕は止まるつもりはない。
そして、それは龍を殺すまで、という意味だ。
「そう、ですか」
いつものように聞き分けよく引き下がると思っていた。
僕もグラモロスも。
「この前、ネリさんの様子を手紙で伝えられた、と言っていましたよね」
話が急に変わったことに混乱するけど、ニリアは気にせず続けた。
「呪われたときから、姿は変ってない。違いますか?」
なぜそれを、とは驚かない。
『龍と姫』の元となった一族の末裔であり、その真実を僕に教えてくれたのも二人だったから。
「急がなければならない理由は、私のせい、ですよね」
「ニリア、やめろ」
普段はニリアに甘いグラモロスが、威圧を伴った声をニリアに発した。
それでも、ニリアは止まらなかった。
「宝玉を手に入れても、別にすぐにネリさんを起こす必要はありません。むしろ、龍化の進行速度を考えれば、龍を倒してから宝玉を使った方がネリさんのためになります。もちろん、バン様としては早くお会いになりたいのでしょう。でも、頭のいいバン様がこの道筋に気づかないはず、ありませんよね」
「お前、自分が何を言っているのか、わかってるのか」
グラモロスがニリアへと、冷たい声を投げかける。
「兄様、私はそこまで愚かではありませんよ」
苛立ったようなグラモロスが、声を荒げる。
「愚かじゃない、だと? 俺らが最初にバンに死んでくれと頼んだんだ。それを今さらやめさせるなんて、何様のつもりだ」
「兄様こそ、間違っています。最初に私たちがそう願ったことこそが愚かだったのです。それを、目的を達成するまで都合がいいから、バン様にとっても利があるから、そのままにしておくと?」
「なら、なんだと言うんだ。今まで、してくれていたことをしてもらっていた俺らが否定するのか」
「違います!」
ニリアがここに来て、初めて大声を出した。
今まで戦闘中ですら、冷静でいたニリアの荒げた声はグラモロスすら驚いていた。
「私は、バン様に自爆なんて行動、取ってほしくありません」
「俺だってそうだ。だがな、俺らがバンがいなくても龍を倒せると? それこそ迷宮攻略すら、俺ら二人のままだったら、どちらも死んでいたんだ」
「なら、どうしてまだ私たちは死んでいないのですか」
「お前っ」
グラモロスが我慢ならないと言った形で立ち上がる。
けれど、ニリアが続けた言葉に黙ることになった。
「私と兄様は、本当の意味で命を懸けていると言えるのでしょうか」
それは、返答を期待しての問いではなかった。
この世界には、体を再生したり、千切れた指をくっつけるなどの便利な魔法は存在していない。
医療技術もマチマチだ。
仮面舞踏会は確かに、十階層以降の階層主を全て倒していることで有名だった。
でも、有名な理由はもう一つある。
それは、誰も死んでいないどころか、誰も部位の欠損すらしていないことだ。
僕たちが隠しているのは顔だけだから、見る者が見れば体の一部を失っているかどうかはわかる。
もしくは、怪我で変な癖がついているかどうかも。
でも、僕たちはまだ全員が成人前の子供であるにも関わらず、死者はおろか、怪我すらほとんど負っていない。
そんな、ある意味では空恐ろしい事実もまた、仮面舞踏会が有名になった理由の一つだった。
蓋を開ければ簡単で、誰かが致命傷や、冒険者を引退しないといけなくなるような怪我を全て僕が身代わりになっているだけの話だった。
素の速度ならグラモロスとほとんど変わらない僕がどうして、速度を上げる系の武具を優先的に身に着けているのか。
それは、グラモロスのビルドがパワー型であること、また僕の方が感覚が少し優れていることも理由ではある。
けれど、それ以上に、いざってとき、誰よりも早く身代わりになるためだった。
「兄様、バン様は一人でもいずれ迷宮は攻略できるでしょう。でも、私たち二人でそれができますか?」
グラモロスは答えなかった。
「パーティーだと、胸を張って言えますか」
ニリアの問いにグラモロスは口をつぐんだ。
死を見せられる側の気持ちは、ネリが教えてくれた。
それでも、僕にはそれしかなかった。
そうでもしなければ、いずれ足手まといになる。
さっき、ニリアは自分たちでは迷宮攻略は無理だと言っていた。
でも、僕の考えは違った。
二人だけでも迷宮攻略は可能だ。
グラモロスに至っては、明らかに人の身では過ぎるほどのポテンシャルがある。
ニリアも、龍化自体は悩みの種ではあっても、龍のポテンシャルの一部を引き出せるとなれば、弱いわけがない。
僕とは違う意味で、二人もまた神の調整を受けているのは、死んでも生き返る能力を持っている僕だからこそ確信している。
ただ、それを今の二人に正直に話したところで受け取ってもらえるとは思えなかった。
僕にとっても二人は必要なのだ。
だからこそ、僕は二人を全力で守るし、どうせ生き返るのだからと自分の死を軽んじている。
ネリを助けるために、僕はもう何かを出し惜しみするつもりはない。
「なので、バン様。せめて、自爆魔法だけは、やめてください」
僕が断ろうとする隙も与えず、ニリアは続けた。
「もし、使ったら、私も使います」




