45 : 二十一階層と自爆魔法
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「なぁ、さっきの階層、階層主とは出くわさなかったな」
水路が見えなくなり、また洞窟の通路にいる魔獣を倒して進むようになったことで、
先ほどよりも手が空くようになった。
そんな中、グラモロスは違和感を口にした。
それは、僕も、そしてニリアもたぶん感じていたことだった。
今まで、あのフィアーム・エイプの階層主に当たってからというもの、新しい階層に行けば必ず、その階の階層主と遭遇するようになっていた。
だからこそ、僕たちは二十階層でも警戒していた。
でも、おそらく僕たちはもう二十一階層にいる。
もちろん、冒険者にとってみれば階層主と遭遇することの方が稀であるのは確かだ。
それでも僕たちにとっては、遭遇する方が普通だった。
しかし、二十一階層においても、まだ階層主の気配はない。
もうすぐ、僕たちを待っている何かがいる。
そんな予感が強くなっていた。
「だね。でも、ここが二十一階層とは限らないよ」
思ってもないことを言ってみる。
ニリアに論理的に否定してもらうために。
「それはないでしょう。魔獣が来た方向へと進む攻略法で進んでいるわけです。単なる坂道ではなく、明らかに高度が変わる下降をしたのですから、ほぼ間違いなく二十一階層です」
まぁ、そうなるよね。
普段、僕は軽口はあまり叩かないけれど、でも何か言わないと心がそわそわし始めていた。
こんな感覚は初めてで、今の僕には持て余すものだった。
そして、何度目かの曲がり角。
出てきたのは、群れで行動する魔獣、ボム・アントだった。
薄灰色のアリの魔獣で通常は四、五匹で行動する。
群れの魔獣と聞くと、特異個体を連想するけれど、フィアーム・エイプと違って、働きアリ自体にはボスの概念はない。
この階層の階層主には検討がついたけれど、ただ今ソイツがいる気配はなかった。
そして、ボム・アントの特異性は、その獣魔法にある。
自身の魔石を爆発させて、相手を巻き添えに自爆するのだ。
爆発した際に何かを飛ばすとかではないから、相手に接近しないと発動しないけれど。
ミツバチの熱球みたいなものだ。
こういうタイプの魔獣へは通常前衛が突っ込むなんてことはできない。
しかし、僕たちのパーティーは別だった。
なにせ、僕が突っ込んで全員誘爆してしまえば、それで終わりなのだから。
まぁ、魔法士であるニリアに任せてもいいけれど、二人よりも身体能力のポテンシャルが低いから、僕もそれなりに魔獣を倒しておきたいというのもある。
僕は剣を構えて走り出した。
アリを含め虫系の魔獣もまた、蛇系と同じで目が悪いことが多い。
ボム・アントもその類であり、ただ匂いで敵の位置や味方の位置を知るすべを持っている。
微細なものでも感知するため、感知能力という意味では目が見える人とあまり差がない。
ただ、僕にとって目以外で感知する魔獣は慣れっこだった。
最初のそういう魔獣が黒のウロコヘビだったのだから。
要は匂いを誤魔化せばいいというのなら話は簡単だ。
アリの方から僕たちの方へと風送りの魔法を放つだけだった。
それだけすれば、もう匂いの物質が相手の嗅覚に届くことはない。
そのまま、自身の体を取水の魔法で覆い、一息に相手の懐に潜り込む。
自爆する隙を与えず、頭部と腹部を切断する。
死を悟ったボム・アントは魔力を練り、自爆をしようとした。
全部を自爆させるために奥に隠れていた一体を含めた五体の体を切断した。
そして、危機一髪。
飛び上がった僕に対して、ニリアが空気の膜のバリアと、風魔法を発動する。
指向性を持って空中を移動した僕は、二人の後ろまで下がらされた。
どうせなら、体験もしてみたかったけれど、仕方がない。
自爆魔法。
僕が一番欲しかった魔法かもしれなかった。
死んでも魔力は回復しいない。
けれど、生きている間にわずかに回復する。
練った魔力量によって威力が高まる自爆魔法は、死んでも生き返る僕にとっては今やうってつけの魔法とも言えた。
例えば、相手にしがみついたとき。
今までは仲間の攻撃を敵と一緒に待つだけだった。
でも、自爆魔法があれば違う。
適度に魔力を練って自爆し、相手をひるませている間に、仲間が攻撃をするというコンボができる。
これなら、ニリアも僕ごと攻撃しなくていいから、少しは気が楽になるだろうし。
「バンでギリなら、俺だと爆発に巻き込まれちまうな」
グラモロスは口惜しそうに言った。
「次は私の魔法で倒します」
ニリアも、手に静電気を放電してみせた。
ゴルドラン兄妹は二人とも戦闘意欲がやっぱり高い。
ボム・アント以外にも、柔らかい上に気持ち悪いウロコヘビと言われるブラインド・ワームなど、シルバーランクの冒険者相当の魔獣がわんさかと出てきた。
ボム・アントに関しては僕とニリアが交互に対応し、ブラインド・ワームなど体力の多い魔獣に関してはグラモロスをメインにして戦っていく。
二十一階層ともなれば、普通に進むだけでも、それこそ一階層から十階層はくだらない距離を移動しなければならなかった。
しかも、下へ降りる道は正道と呼ばれる、一切寄り道をしない最短ルートを通ってないため、
さらに時間がかかる。
でも、そのおかげで僕とニリアは自爆魔法を覚えた。
やっぱり、獣魔法の習得には近場で体験するのが一番いい。
でも、僕のニリアも魔石を体に宿していないので、魔力を魔石に流して爆発させることしかできない。
ただ、僕にとってはこれで十分だった。
もう、さっきからボム・アントの魔石に魔力を貯め始めていた。
これで、少なくともが自分の今の魔力以外で、相手への攻撃手段が一つ増える。
休憩しようと、僕たちは魔獣を倒した場所に腰を下ろした。
通常なら、地図に書かれたおすすめの休憩場所まで行くのだけれど、それはできなかった。
また、セーフティーゾーンが設定されているわけでもないから、やるとしたら地図と同じような選定基準で休憩場所を定めるという話になるが、それもできない。
選定基準の一つ目は、魔獣の通り道ではないこと。
攻略班は目ぼしいところを拠点として、数日は滞在するらしい。
そこで魔獣が出なければリポップした魔獣も通らないという意味になる。
二つ目は、正道から外れていないこと。
遠すぎてしまえば、休む度に無駄に移動することになるし、道中で魔獣と戦闘になるとしたら、もはや逆に疲れることになる。
この選定基準は一つ目は確認している時間はなく、二つ目に関しては正道もクソもない状態なのだから、どうしようもない。
僕が魔石で手遊びしていると、隣に座ったニリアが口を開いた。
「バン様、本当に自爆するつもりなのですか?」
「もちろん。必要だったらだけどね。死んだら五秒っていうのも、場合によっては隙になっちゃうから、使いどころは気を付けるよ」
そうなのだ。
いろんな階層主と戦っているとき、互いに拮抗しているときに僕が誰かをかばって死ぬと、生き返るまでの五秒が命取りになる。
グラモロスとニリアの二人が一気にピンチに陥ったことは一回や二回じゃない。
「そういうことじゃ、ありません」
ニリアはため息のような、微かに震えた声で言った。
「おい、ニリア」
グラモロスがニリアの口をふさごうとする。
でも、ニリアは止まらなかった。
「自ら積極的に死ぬのは、見ていて辛いです」




