42 : 階層ボスのドロップ品
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フィアームエイプを倒しきった結果、さらに追加されるなんてことはなかった。
ゴルドラン兄妹も自衛はできたから、守りながらの戦いにならなかった。
そのおかげで、早く終わらせることができた。
あたりに散らばるのは、フィアーム・エイプの魔石、そしてその他のドロップ品だった。
フィアーム・エイプがドロップするのは魔石、毛皮、そして籠手などの徒手空拳で戦う人用の武具類だ。
今回はドロップ率の低い武具類は落ちておらず、毛皮と魔石だけだった。
そんな中、ひと際目を引くものが落ちていた。
階層主である特異個体のドロップ品だった。
階層主のドロップ品は他のドロップとはルールが異なる。
魔石、毛皮、そして武具が必ず全部ドロップするのだ。
武具だけはセットではなく、籠手なら籠手だけなど一つしかないけれど。
また、迷宮でドロップする武具類はいわゆるステータスを上げてくれる。
装備したら早く動けるようになるだとか、また力が強くなるだとか。
ただ、装備を鑑定するだとか、そういった手段はないので、
実際に使った場合と使ってない場合で比較してみて判断することになる。
ただ、まったく見当がつかないかと言われれば、そうではない。
例えば、フィアーム・エイプの武具は魔獣自体がインファイターなのもあって力が強くなったりするものが多い。
呪われている装備なんてものもないから、基本的には普通に装備することになる。
装備品は売ると高い、フィアーム・エイプの武具なら、ゴルドラン銀貨五十枚からゴルドラン金貨一枚くらいの値段だ。
魔獣を倒せば、身体能力は上がるけれど、それでも倒し続けられるわけじゃないし、
年齢的な問題もある。
そんなとき、迷宮さんの武具類さへ、あれば鍛えずとも、魔獣を倒さずとも、強くなれるとなれば需要は大きい。
もし、売る人がいるとすれば、全身を迷宮産の武具で固めた人だけだ。
今回、ドロップしたのはフィアーム・エイプでも最もドロップ率のいい籠手だった。
僕たちのパーティーで一番パワーに寄っているのはグラモロスなので、満場一致でグラモロスが装備する。
ただ、いくら、特異個体を倒したばかりだとは言え、疲れ切っている状態では何かが増減しただとかはわからない。
無くしても困るからということでグラモロスに装備してもらったまんまにする。
落ちている魔石を広い、リュックに入らない量はフィアーム・エイプの毛皮でくるんで持てるだけ持った。
このまま迷宮に残っても危険ということで、そのまま迷宮の外を目指す。
布陣は変化なく、僕が先頭だったけれど、この後二人に戦わせる気はない。
幸いにも、僕はフィアーム・エイプをたくさん倒したうえ、ボス個体との戦闘にも絡んだので身体能力はまた目に見えて向上している。
ただ、油断はできない。
その結果が、今回のフィアーム・エイプ戦なのだ。
九階層以下でも、階層主と当たれば、どうなるかはわからない。
僕が偵察し、問題なければ二人を先導すること二日。
やっと迷宮から出ることができた。
帰りは行く時以上に時間がかかった。
そもそも、行くときは走っていた道も全部歩いたうえ、階層主と当たらないように注意を払っていたから、進行速度が落ちていた。
ドロップ品をギルドに届け、報酬の話は今度にしてもらい、僕たちはトルドーさんの宿へと戻ってきた。
僕たちの中での反省会も、今後のことも、全部後回しにして、その日はそのまま寝た。
次の日、目が覚めたのは昼だった。
ゴルドラン兄妹はまだ寝ているらしく、リビングに降りると僕以外に人はいなかった。
トルドーさんの奥さんに軽い食事を作ってもらい、食べていると、トルドーさんがリビングに顔を出した。
「随分と無茶をしたようですね」
怒ってる感じではなかったけれど、それでもゴルドラン兄妹への心配が勝っているのか、声には棘があった。
僕への心配は特にない。
まぁ、死ぬことがないのだから、それもそうか。
「何が起きたのか、聞かせてください」
断る理由もなかったので、僕の覚えている限りで伝える。
「よく生きて帰ってこれましたね。それに、まさか十階層で階層主に出会うなんて」
『まさか』という言葉に引っかかりを覚える。
別に、ランダムで徘徊する階層主に会ったところで別におかしくないんじゃないのか。
僕が首を傾げたのを見たトルドーさんは、手元に用意してある水を飲んだ。
「バン君は、階層主の討伐の話をあまり聞かないことについて、おかしいと思ったことはありませんか?」
「ないです。まだ、迷宮について知って日が浅いので」
「そうですか。でも、今回階層主を倒したのなら、魔石と素材、そして武具類が全部ドロップすることは知っていますよね」
僕は頷く。
「階層主は特異個体です。その階層よりも五階層分は強いと考えても過剰ではありません。しかし、例えば一階層の階層主にバン君は苦戦しますか?」
答えはノーだった。
ゴブリンやスライム程度の特異個体に今更苦戦はしない。
「ゴブリンやスライムの武具類の値段はゴルドラン銀貨十枚もいけばいいところですが、特異個体ともなれば、その二倍、三倍の値で取引されます」
そこで言葉を区切ったトルドーさんは、言いたいことはですね、と続けた。
「お金を目的とした冒険者が階層主狩りをしないのはなぜなのでしょうか。また、しようとしているとして、どうして討伐できたという話をあまり聞かないのでしょうか」
確かに、言われてみればその通りだった。
ゴブリンの魔石なんてたかが知れている。
フィアーム・エイプの魔石の値段は知らないけれど、階層や魔石の大きさから考えると、
だいたいゴルドラン銀貨数枚ってところではないだろうか。
だったら、群れで戦ってくる上に強いフィアーム・エイプより、より低階層で階層主を倒した方がいい。
あれ、でもさっきトルドーさんは十階層より下の階層で、と言っていた。
それについて聞くと、トルドーさんは、簡単な話です、と答え始めた。
「十階層より上の階層は基本的には通路がハッキリしているうえに、階層の広さもそこまでです。また、階層ごとにも明確に区切られています。また低階層は潜っている冒険者も多いので、結果として階層主と出会う確率も高くなるんです」
そして、本題へと戻ってきた。
「だからこそ、逆に十階層以下で階層主と出会うことはごくまれで、それこそ迷宮内にひたすら潜り続けても、一生に一度会うかどうか、となっています。私ですら、まだ一度も出会ったことがありません」
もちろん、偶然ということもあるだろう。
しかし、ここまで来て、偶然と言うつもりもない。
今回、僕が死んだ以外、損害らしい損害はない。
それに、僕自身は生き返るから、実質的には疲弊しているものの損害無しと言ってもいい。
僕たちを強くするために神が階層主をぶつけたと考えることに何も違和感はなかった。
「偶然、ではないのでしょうね」
トルドーさんも同じ結論なのか、薄く笑った。
それは、諦めにも、安堵にも見える。
「それでも、君たちは迷宮へ潜り続けなければいけません。グラモロス様はニリア様の、ニリア様は自分自身のために。そしてバン君はネリさんのために」
「ネリも、そしてニリアも、絶対に助けます」
僕はあえて言い切った。
別に、トルドーさんの不安を払拭したかったわけじゃない。
ただ、僕自身が改めて自分の目的を見つめなおしたかったのだ。
龍を倒すという目的を。
トルドーさんが何かを言う前に、ゴルドラン兄妹が部屋に入ってきた。
「俺も、バンにだけ背負わせるつもりはねぇよ」
「私も、自分だけ守られているなんてのはごめんです」
どこから話を聞いていたのかは、気配でなんとなくわかっていた。
別に聞かれて困るものでもない。
「ああ、そうだ。師匠。俺らのパーティー名は『仮面舞踏会』だ。ピッタリだろ」
グラモロスが、取り出した仮面をかぶって笑った。
ニリアも真似をして、仮面をかぶった。
僕もリュックから仮面を取り出す。
ごっこ遊びのようにも思えるから、少し恥ずかしかったけど、でもそうしたくなった。
トルドーさんは何を思ったのか涙を流す。
「ええ、本当に。かっこいいですよ。お二人とも」




