40 : vs フィアーム・エイプ
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楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
猿だと石を投げたりなどの投擲を思い浮かべるが、
フィアーム・エイプはゴリゴリのインファイターだと聞いている。
四本の腕を危ういバランスで巧みに繰り出し、場合によっては二本、三本で敵を捕まえ残りの拳で殴るなど、戦った人は死んでも生きていても打撲痕がつかないことはない。
一体の脅威度がブロンズ昇格レベル、さらには特殊個体がリーダー格となっているとなれば、
そのレベルはシルバー昇格レベルと言ってもいい。
さらに厄介なのが、知能が高いことだ。
獣魔法は使わないが、しかし群れを為し、大物を狩るのは、人やゴブリンと同じであり、
もし僕が死んでも生き返ることがバレれば、監禁なりされて一生をこいつらの餌として生きることになるのかもしれなかった。
トルドーさんなら、一人でもなんとかなるだろうか。
そうでなくとも他の冒険者の助けがあれば、最悪僕が死に切ることはない。
つまり、僕が必ず守らなければならない引き分け条件はゴルドラン兄妹を逃がすこと。
なんとかして突破口を作ろう。
ただ、森での戦闘はフィアーム・エイプにとってホームである一方で、今までずっと北の森で修行してきた僕にとってもまた、この階層はホームで戦うのに近しい条件だ。
「バン様、ボスは私たちでなんとかします。その隙に、周りを倒してください」
ニリアが言うが早いが、グラモロスがボス個体へと突っ込んだ。
その後ろから援護射撃とばかりに、氷柱落としの魔法をニリアが放つ。
地面に刺さった氷は、しかし、ボス個体には避けられていた。
それもグラモロスにとっては想定通りなのか、木ほどの高さのある氷柱を影にして、ボス個体へと切りかかった。
ニリアは木の隙間を埋めるようにどんどんと氷柱落としの魔法を使い、ボス個体とゴルドラン兄妹は氷柱の壁に囲われて見えなくなった。
一瞬の合間に、自分たちの群れのリーダーと話されたフィアーム・エイプは怒ったように叫び、氷柱の壁を壊そうと向かってきた。
一対一。
僕が意識するのは、それだけだった。
蜘蛛糸の魔法は応用性が大きい。
そして、この場合もっとも適しているのは粘着性の高いものだ。
フィアーム・エイプは空を飛べない。
つまり、地面さへ進みにくくするだけで、群れとしての集団戦術が使えなくなる。
僕は氷柱の壁を背にして、前方に蜘蛛糸の魔法を放った。
ゴブリンと違って、やみくもに突っ込んできてはくれないが、それはそれでいい。
これだけでも時間稼ぎになるのだ。
ただ、ニリアが周りを倒せと言っていたから、今時間稼ぎをしているのはゴルドラン兄妹の方で、
その間に僕はフィアーム・エイプの群れを倒しきらないといけない。
ざっと数えても七体はいる。
反対方向から迫ってきている奴らも併せれば十四体だろうか。
でも、やるしかない。
個人的には僕を氷柱の中に、そして兄妹を外にしてくれた方が良かったけど、
僕が死んでその間にボス個体が外に出てきたら、二人が挟撃される形になるから、これがベストかもしれない。
ひとまず、反対側の敵を確認する目的も混みで、僕はぐるりと氷柱の壁を回る。
そして蜘蛛糸の魔法を放ちながら数を確認すると十三体だった。
こいつら、僕がいない方面への数を厚くしたのか。
死んでも生き返るとなったとき、最も効率がいいのは自爆攻撃のように思えるが、
命を代償にどうこうする魔法は開発されておらず、また死んでも魔法は回復しないため、
それはできない。
今の僕にできるのは剣で切り伏せることだけだ。
蜘蛛糸の魔法を床に敷いた場合、人だったらケンケンパの要領で糸に引っかからないようにできる。
しかし、人よりも足が大きいフィアーム・エイプではそうはいかない。
この魔法の持続時間は練った魔力量から考えても五分くらい。
切った手応えも知りたかったので、また反対側へと回って数が少ない方を叩きに走った。
フィアーム・エイプは直接触らなくてもいいように小枝を折って蜘蛛糸を突っついている。
それを、飛び掛かりざま一切。
ギリギリで腕で防がれたが、それでも一本は切り落とせた。
ウロコヘビほど硬くはない。
せいぜいがオークレベルだ。
ただ、力を入れられて耐えようとされたらわからない。
硬化の魔法は使える魔獣が限られているが、魔力が意識に乗って体の一部に集まり、そこを硬くすることはある。
この数に攻撃をはじかれ続けると僕の方がじり貧になる。
弱った個体を狙うのが定石。
しかし、相手が少し賢いのなら、その逆をつけばいい。
しょせんは猿知恵だ。
腕を一本失って血を吹き出すフィアームエイプを盾にする形で、隣にいた方へと切りかかる。
ただ、単に切りかかるだけではまた防がれかねないので、その前に蜘蛛糸の魔法を顔へと噴射した。
よく使う、目くらまし用途の蜘蛛糸だ。
顔に張り付いた糸を取り除こうと腕二本を使っている。
がら空きになった心臓を目掛けて剣を突き刺した。
魔獣は生命力が高いので、心臓を潰しても即死はしない。
だからこそ、刺したものをすぐに抜いて、今度は首を狙う。
心臓からも溢れる血をなんとか抑えようと残りの二本の腕で圧迫し始めているせいで、
もはや僕の方に意識を向けれていない。
チャンスだと、剣を振るうと、少し硬かったが首を刎ねることができた。
そのままの勢いで、最初に腕を落とした個体を狙おうとするが、近くにはいない。
どこに行ったのかと周りへ視線をやった瞬間、やられたことに気が付く。
こいつら、仲間を囮にして、僕一人を包囲しやがった。
一体一体は脅威ではない。
実際、今さっきの一体は普通に倒せた。
でも、これが群れとなるとわからない。
僕が出した蜘蛛糸の魔法へと対策として土を掘っては糸へと投げている。
そして、だんだんと近づいてきた。
早くも対策されていた。
残りは十九体。
本当に倒せるのかもわからなくなるが、それでもやらないわけにはいかない。
じわじわと包囲を狭められる。
僕はリュックから煙玉を取り出した。
多対一の戦闘の基本は、一対一に持ち込むこと。
これが原則だ。
だからこそ、今度は煙幕で視界を奪う。
僕は「煙幕っ」と避けんでから、地面へと煙玉を放った。
予めゴルドラン兄妹には教えてあるから、二人は二人で上手く対応するだろう。
突然発生した煙に、フィアーム・エイプはうろたえる。
でも、煙にふれても害がないとわかると、気にせずまた僕との距離を縮め始めた。
僕は姿勢を低くして煙にまぎれた。
僕の足の速さはポイズン・スパイダーと同じくらいだ。
フィアーム・エイプ一体一体よりもずっと速い。
まずは包囲から抜け出さないといけない。
火矢の魔法を包囲網の隙間を縫うように打っていく。。
一部は氷柱の壁を溶かし、一部は木へとぶつかる。
迷宮の木は切り倒すことはできても燃えることはない。
だからこそ安心して火矢の魔法を放てた。
薄暗い迷宮の中、さらに煙幕で視界が遮られたところに火矢が通れば、
いやでも視線をそちらに向けてしまう。
火矢の中の一本に隠れるようにして、僕はフィアーム・エイプへと近づく。
そして、ソイツの心臓もすれ違いざま、刺し潰した。
これで二体。
気が遠くなるような数に、されど包囲網を抜け出せた安堵が正気を保たせる。
ただ、このときはまだ気づいていなかった。
迷宮そのものの厄介な性質に。




