3 : 五歳と家の中
読んでいただきありがとうございます!
毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。
楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
我が家であるラーロン家は、ラーロン商店を営む中堅どころの商家だ。
父は人好きな笑みを浮かべ、少しぽっちゃりとした体を愛嬌としている人で、
母は寡黙で実直、父とは対照的にやせ細っており、また経理にめっぽう強い。
そんな両親には子供が僕を含めて三人いた。
一番上の兄・ガルーダ、その下の姉・イトス、そして僕だ。
ガルーダは母に似て寡黙で、イトスは父に似て人懐っこい。
そして僕は便利な寡黙な性格を選んだ。
沈黙は金、という格言はどの世界でも通用するらしい。
生来はおしゃべりな自覚がある。
前世でも、口から出まかせを言わせるなら右に出るものはいないほどだ。
しかし、下手に喋れば精神年齢や、前世の義務教育や知識、文明レベルから来るアイデアが口からこぼれてしまいかねない。
だからこそ、笑顔を浮かべつつも喋る言葉は厳選している。
今は五歳だから、普通の日常会話でできるだけでまずまずなレベルだ。
しかし、龍を倒すにあたって、修行は避けられない。
押すべきところは押すべし、ということで、父に掛け合ってこよう。
冒険者(魔獣を倒したり、迷宮を探索したり、ときには護衛をこなしたりして生計を立てる人)になるべく、師を付けてほしい、と。
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日中、父は下の商店の方にいる。
自分でお客様と会話することが、商売を成功させる秘訣だと父は常々語っていた。
そんな中に飛び込めば、たちまち厳しい目で見られることは想像に難くない。
いくらお利巧と名高いバン君であっても、
仕事中であることを無視して邪魔をすれば誹りは免れない。
昔、姉のイトスが商店に行ったとき、父は夕食時にしっかり目に叱っていた。
末っ子は上の子を見て、小ずるく失敗を回避できるから有難い。
しかし、今までできた修行と言えば、階段を上り下りすること。
前世で覚えている限りの柔軟体操をすること。
そして、寝ているふりをしての瞑想ばかりである。
つまり、圧倒的に修行が足りていない。
ちなみに魔法の修行をしない理由は単純だ。
詳細かつ具体的な想像ができない幼子は基本的に魔法が使えない。
にも拘わらず五歳の僕が魔法を使ってしまえばたちまち目立つことになる。
神童だともてはやされて最高の教育を受けることも考えないではなかった。
しかし、現状の世界が龍を倒せないのなら、
その教育を受けても仕方がない。
むしろ社会が足枷になる可能性の方が高い。
それに魔力量は魔法を使ったところで伸びないらしい。
幼少期から魔法を使えば魔力量が莫大に!
という転生チート的なものはもちろん存在していないのだ。
だからこそ、神経系が発達しきる前の段階で肉体の鍛錬を積みたいのだ。
元の身体能力が高くないと、足切り的に詰むかもしれない。
まずは父からの印象を良くするところから始めよう。
「父上」
僕は会話が途切れた隙を見計らって父へと声をかける。
父の目は値踏みするようなものへと変わっていった。
いきなりどなり散らかさないのはいいけれど、
しかしじっと観察されるように見られるのは、結構きつい。
「どうした? バン」
お客様の前だからなのか、少し声が高い。
「何か、お手伝いすることはありますか?」
そう。
必殺「子供のお手伝い」。
よほど教育に興味のない親か、または危険なことをやっている最中でもない限り、
これを無碍にする親はいない。
子供視点で見れば忙しい両親と関われる数少ない接点ともなる。
ここでどれだけアピールできるか、がおねだりの成功率を高める。
「おぉ、さすがラーロン殿の息子ですな」
常連のお客様が父に笑みを向けた。
秘策その2。
他人様の前。
子供がいじらしくも手伝いを望む姿を見せたとき、
お客様の好感度は上がる。
商人としてもこれを逃さない手はないだろう。
「いえいえ、まだまだです」
父は謙遜しつつも、満足そうに顎を引いている。
そして申し渡されたのは母の手伝いと称して家に戻ること。
できる計算をできないと首を捻ってきたのだから、
そのまま経理を手伝わさせることなんてない。
そもそも母も含め経理のための人員はもう十分なのだ。
「わかりました」
僕は殊勝にも聞き分けよく、二階へと上がる。
そしていつも通り母のもとへ行き、そお勉強するようにと言われる。
完璧だ。
今年からやり始めて、もう数回にもなるやり取り。
僕の勉強の進捗は七歳レベル(姉のイトスが七歳の頃にやっていたもの)だから、
まだまだ余裕がある。
それなりに信用を得られている実感があった。
僕が三歳の頃までは十歳のイトスが家にいた。
イトスは僕をよくかまってくれたし、遊んでくれた。
しかし、そのせいで抜け出すことも難しかった。
それも、十二歳になったイトスが、この王都にある学園に通い始めてからなくなった。
もう少し、焦らず、けれど確実な一手を。
僕はほくそ笑みながら部屋で瞑想をしていた。
おっといけない。
瞑想は感情も考えも受け流さないと。




