38 : 自然の迷宮
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森や山で方角を見失うと人は帰れなくなる。
自然は天然の迷宮と言っても過言ではない。
しかし、この迷宮における森林のような階層においては、本当に実態は迷路になっているのだ。
僕たちは階層を降りてからひとまず地図を開いた。
木々が乱立していて通れない、土壁が崖のようになっていて進めない。
他にも川の流れが急すぎるなどが、壁の役割を果たし、結果として迷路となっていた。
攻略するにあたって、上階との差は見てくれもあるが、それ以上に無視できない要素が二つある。
一つ目が、獣道が基本となっているせいで、道を道として認識しづらいことだ。
今まではどれだけ曲がりくねっていようが、変に蛇行していようが、しかし確実に通路と呼べるものを進んでいた。
しかし、この階層からはどこか通路で、どこが通路じゃないかが明確になっていない。
木は切り倒すことも可能であるとトルドーさんが言っていたけれど切り倒した結果出る場所がどこかもわからないようなので、基本はしない。
ならば、方角はというと方位磁石は常に下を指すため、使い物にならない。
つまり、基本的には注意して獣道を進まない限り、もはや道すらも見失うという仕様だ。
それを、夜の、迷宮石の薄明りの中でしなければならないというのだから、魔獣がいなくても難易度はほぼ変わらないだろう。
そして二つ目が、階層という区分が明確じゃなくなったことだ。
今までは下に降りる階段があった。
だから、階層を明確に分けることができた。
しかし、ここからは違う。
いや、もちろん、地図が階層分けされていることからもわかる通り、階層そのものはある。
ただ、例えば、奈落のように見える亀裂から、何階層か下に行くことができたり、
または川に流されたと思ったら、もっと深くの階層へと流れついていたなどの報告があるのだ。
一層の高さも、その距離間もあべこべで、ある場所では、その深度なら十二階層だったのに、
同じ震度の別の場所だと十三階層だったとかもある。
ならば、どうやって攻略隊が階層を区別できているかと言えば、ひとえに迷宮攻略法のおかげらしい。
つまり、魔獣が出てくる方向が正解の道というルールに沿って進んだ先により深くへ潜れる坂道なりを見つけたら、そこで一層とカウントしている。
トルドーさんによれば、違う層だとカウントしたら、同じ階層だったというミスも過去にあるらしいので、ここまでくると階層自体、あまり信じない方がいいのかもしれない。
もしかしたら、戦う魔獣の強さに幅があるから、というのもあるけれど、
ここら辺の区別が難しいというところのせいもあるのかもしれない。
「一応、地図はありますから、進めなくはないですが」
ニリアが周囲を見渡しながら言った。
天井が他の階層と比べてずっと高いように見えることで、空には満点の星空が浮かんでいると錯覚できる。
それくらい美しい光景と同時に、そんな現実感のない、かつ今までと明らかに趣の異なる階層を地図だけで進むのかという不安がにじみ出ていた。
「俺は進むに一票。どうせいつか来るのなら、ここまで来た数時間を無駄にしないためにも地図があれば、自然へと変貌した階層も進めるかを確かめておきたい。無理なら無理で、対策も立てれるし」
票は一対一。
また、僕の考えが最終決定になりそうだった。
この二人は結構、意見が割れることが多い。
まだ二日しか一緒にいないけれど、根本的な考え方がくっきり別れている。
同じ家庭と教育で育っていることもあり、知識や考える材料までは同じなのに、
なぜここまで考えが割れるのか、よくわからない。
まぁ、それが兄妹のあるべき姿なのだろうか。
前世も今世も妹がいた経験がないから、判断がつかなかった。
さて、僕はどうしたいか。
ただ、もう答えは決まっている。
ネリも、そしてニリアも、時間に猶予があるわけじゃない。
今、何か明確な不安があるならともかく、体力的にも気力的にも問題を抱えていないのなら、進む一択だ。
「僕は進みたい」
ただ、ニリアはこれだけでは説得ができない。
だから、ダメ押しだ。
「最悪、僕を囮にしていいから。後で助けに来てくれるなら、別に恨みも怒りもしない」
元々、一人で潜るつもりだったのだ。
それに、もし一人なら、崖を飛び降りるのもアリだとすら思っていた。
劇的なショートカットを踏めるのは、僕としても有難いから。
「それなら」
ニリアが頷いたので、僕たちは進むことにした。
エリア全体が薄暗く、木々によって姿も隠れるということもあり、僕たちは仮面を外した。
ただ、それは他の冒険者といつすれ違うかもわからないということを意味するので、
祭りでお面を頭に着けるような形になった。
進む足は今までよりも軽かった。
というよりも、疲れにくくなった。
迷宮の通路は全部踏みしめられた土の道くらいに固く、学校のグラウンドを思わせる。
だから、鍛えているとはいえ、長時間走れば、足の裏にじんわりとした痛みも広がっていたが、
この階層は下が土なのだ。
それも、フカフカの。
これは走るときに地面を蹴りづらいという欠点がある代わりに、足への負担は小さかった。
さすがのゴルドラン兄妹も、森での歩き方は慣れてないのか、走ることはおろか、歩くことすらペースを落とすことになった。
ゲームの世界なら、一部のデバフを除いて、アスファルトも土も、進む速度は同じだったけれど、現実となるとそうじゃなくなるのか。
まぁ、僕が仮面に慣れようとしているのと同じで、二人は森に慣れてくれればいい。
幸い、僕も歩き方については教えられるのだ。
「二人とも、普段よりも足全体を使うイメージで。踵からじゃなくて、最初から足の全部が地面につくように」
僕がそう教えると、二人はすぐに実践し始めた。
ベルトルトさんが僕やネリにしてくれたように、僕はゴルドラン兄妹へと指導をする。
ふと、最後尾を歩くグラモロスの後ろにネリの幻影が見えた。
もし、ネリがこの場所にいたら、隊列だとどこだっただろうか。
僕よりも前衛タイプだし、僕が死ぬことは良しとしないから、もしかしたら、先頭を歩くかもしれない。
あとは妹を欲しがっていたから、ニリアを可愛がって、その後ろにつくことも考えられる。
今も、ニリアへと手取り足取り教えるのだろうか。
僕は首を振った。
そんなことを今考えても仕方がない。
ネリを助けた後でいいんだ。
この世界には時計もないから、夜もわからないが、しかし、眠気と空腹から、少なくとも休憩のタイミングだけはわかる。
僕たちは迷宮の中、地図上に記されたおすすめの休憩場所まで進んだ後、
そこで一夜を明かした。
もちろん、夜が明けることはないけれど。




