37 : 迷宮ランニング
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地図は僕が買っている三階層までに加えて、ゴルドラン兄妹が買った十階層までのがあった。
別に冒険者ランクによって入れる階層が決まっているわけでもないから、どの階層に行ってもいい。
けれど、推奨ランクはあり、地図を作製した攻略隊が作っている。
アイアンランクは第五階層まで、ブロンズは十五階層まで、シルバーは現在の最新階層である二十四階層までが推奨で、それ以上のゴールドとプラチナに関しては攻略隊への参加を求む、となっている。
ランクが上がるほど推奨階層が増えるのは、何も魔獣の強さが何階層も変わらないというわけではない。
ただ、同じランクでも強さの幅が大きくなっているだけだ。
これは、依頼達成量と目安となる魔獣討伐がランクアップの条件なことに由来していた。
困難な依頼も、強力な魔獣も数は少なくなる。
すると当然だけれど、上が詰まり始めるのだ。
冒険者という職業が登場して少なくとも数百年と経っている大陸において、
上の冒険者がいなくなるのは事故死や戦死、そうでなければ引退だけだ。
対して、下の、ストーンやアイアンは死ぬ確率はすごく高い。
どれだけ講習会をやろうが受けない人は受けないし、弱いからこそ突発的な事態にあっさりと死ぬ。
実際、僕は初めて入った森でスライムに食べられて死んだわけだし。
そんな中、僕たちはどの階層へ行くのかを迷っていた。
なにせ、僕はブロンズだけど、死んでも生き返れるし、ニリアはともかく、グラモロスに関してはたぶん今の僕と同じか、場合によってはそれ以上の実力がある。
ランクがアイアンだからといって、この二人の特殊な事情を考えれば、強さもアイアンとは限らない。
トルドーさんが十階層までの地図を二人に渡したことを考えれば、最低でも十階層までは軽く行ける実力はあるだろう。
でも、同時に迷宮は何が起こるかわからない。
そこで、出た結論が、迷宮ランニングだった。
話は簡単で、地図を見ながらとりあえず十階層まで走って行ってみようということだった。
ついでに迷宮の攻略法である、魔獣が来た方が下の階層へと続く道、に対して調べるつもりで。
ニリアは走ることに少し渋っていたけれど、僕もグラモロスも走る気しかなかったから、泣く泣く頷いた。
隊列は僕が先頭、ニリアが真ん中、グラモロスが一番後ろだ。
戦いになれば、僕が遊撃と死にタンク、ニリアが中後衛での援護、グラモロスが相手を仕留める役割になる。
ベルトルトさんとネリは、僕が死ぬ前提で動くことをよしとはしなかったけれど、
ゴルドラン兄妹は、能力なのだから使うのが自然とばかりに隊列を組んだ。
ココはやはり小さいころから知っているかどうか、が絡んでくるのだろうか。
まぁ、僕も今さら死ぬことに躊躇したりしない。
僕にはこれしかないのだ。
ゴルドラン兄妹が黙っていれば、ネリの耳に入ることもない。
自分のせいで、と泣かれたら心が折れる。
逆に、怒られても、開き直るだけだけど。
地図を持っているとはいえ、慎重に進むのが定石の迷宮。
なにせ、出会いがしらに階層ボスとでも呼ぶべき特殊個体と出会う可能性もあるのだから。
特殊個体はそこれそ、五から十階層は上の敵が出てくると思った方がいいレベル。
けれど、僕が死ぬこと前提で組まれた隊列は、敵の初撃で僕がやられても問題ない、となる。
よって、仮面舞踏会という冒険者としてはお高くとまったパーティーは、
仮面をつけているにも関わらず、迷宮を走っていた。
仮面は左右を見るにも首を小刻みに振る必要がある。
また距離感覚は、グラモロスによると慣れ、らしいのであきらめて進む。
ダッシュとまではいかないまでもランニングレベルで走る僕たちは、
すれ違う冒険者に戦闘態勢を取られることもあった。
数時間で六階層に入る。
さすがは皇族と呼ぶべきなのか、それともゴルドラン兄妹が優れているだけなのか。
二人との連携はパーティーを組んで初日とは思えないほどにやりやすかった。
たまに、声掛けすることはあれど、互いが互いに相手のしたいことを把握して動けている。
ネリのように阿吽の呼吸とまではいかないけれど、ストレスはない。
六階層以降はブロンズランクが推奨となる理由は、出てくる魔獣がオークレベルが基本になるからだ。
それこそ、ゴブリンやスライム程度の気軽さでオークが出てくる。
僕やグラモロスがオークに苦戦しないのはもう互いにわかっていたけれど、
ニリアもまたオークは瞬殺した。
使ったのは風刃の魔法で、これはハーピーが使う獣魔法だった。
風をひたすら細かく薄くして、勢いをつけて放つことで相手を一刀両断する魔法。
冒険者の中でも使える者はほとんどいない魔法だった。
使えない理由は、言ってしまえば頭がそこまでよくないこと、だ。
もちろん、自然魔法である風を出す魔法を進化版とも言えるから、高位の冒険者であれば鍛えた魔力量で強引に同じようなことができる。
しかし、魔力もサバイバル面で重要であるうえ、武器で攻撃した方が早いとなる人も多くなるため、使わなくなる。
冒険者における魔法使いの割合は案外数が少ない。
そんな風にして迷宮を進む中で、僕は一つ気がかりがあった。
それは、ドロップの大半を捨てて進むことだ。
この世界にはマジックバックはない。
そして、荷物を抱えれば、戦闘の邪魔になる。
だから、迷宮で生計を立てようとする冒険者ならば、荷物持ちを雇うことになる。
けれど、僕も、ゴルドラン兄妹も、事情的に他の人を、それも仲間ではなく外部の人を雇うことはあまりしたくなかった。
だからこそ、今落ちたオーク肉も全部基本ポイ捨てだ。
迷宮は不思議なことに回収されなかったドロップ品に関しては死体と同じで一定時間が経てば消える。
ちなみに何か落とし物をしても、一定時間で消えるらしい。
なので、別にドロップ品を無視することはマナー的に問題があるわけじゃない。
人が捨てたドロップ品を回収することを目的とする冒険者もいるくらいだし。
けど、商家の生まれだからこそ、思う。
もったいない、と。
持ち帰れば、何か商品にできそうなものも落ちていくのに。
拾うのは魔石くらいだ。魔石は運搬の労力に対して得られる報酬が大きい。
オークの魔石すら野球ボールくらいなのだ。
しかも、ゴルドラン銀貨一枚。
つまり、一個一万五千円。
さらに、高位の冒険者なら、どれくらい強いのか、慣れている人がみれば何の魔獣かまでわかっている。
つまり、ドロップ品が一つだけの迷宮においては、最も簡単に、そして、どんな魔獣でも討伐証明が行える。
僕たちのリュックも魔石でそれなりの重さになる頃、十階層まで来た。
ここまでくると、相手はそれこそブロンズへのランクアップの目安となる魔獣が一般的になる。
そして何より、ここからは地形が迷宮ではなく、自然へと変化する。
階層に足を踏み入れた瞬間に感じたのは、北の森と同じ、肥沃な土地の匂いだった。
しかし、されど迷宮。
この一見するとオープンワールドのように感じる階層もまた、迷路のようになっているのだ。




