36 : パーティー名
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僕がネリの話をし終えると、ゴルドラン兄妹は露骨に顔が歪んだ。
それが神が絡んでいそうだからなのか、それとも旅立ちの日に起きた悲劇だからなのかはわからない。
ただ、別に僕は同情を買いたいから、この話をしたわけじゃない。
「ということで、僕は奇しくもグラモロスやニリアと同じで、龍を倒すという目標がある。
それに、迷宮にも宝玉を探しに来た。二人と一緒に行動しないことなんて、話を聞いた今ではもうありえない。だからこそ、死んでも生き返る能力すら明かした」
僕は両の手を片方はグラモロスに、もう片方をニリアへと差し出した。
「よろしく。これからさ」
「おう、よろしくな。バン」
「バン様、私の方こそ、よろしくお願いしますね」
僕たちの様子を見ていたトルドーさんが微笑んで言った。
「今日はもう遅いから具体的な話は明日にしましょう。バン君は今いる部屋でもいいけれど、良ければ家に来ませんか。お二人とも同じ場所の方が何かと都合がよいのですが」
家、というのは、トルドーさん夫妻が住んでいる場所で、ゴルドラン兄妹も余った部屋を借りて住んでいる。
どの道、表の宿屋に泊るのだから、別に裏に来たところで何の問題もない。
そもそも、話す必要のない前世のこと以外、僕にもう秘密はないのだ。
「お願いします」
頷いたトルドーさんは僕の部屋を紹介するためにと、僕を部屋から連れ出した。
ゴルドラン兄妹は後ろについてきたが、二人の寝る部屋、僕が泊る部屋の隣の部屋に来ると、
「おやすみ」とあいさつをして中へと入っていった。
用意された部屋は明らかに客用であり、親族などを泊める気安いものではなかった。
もしかしたら、この部屋、というよりも階層は VIP 専用なのかもしれない。
調度品は商家の僕をして、安くないものが揃っており、一人サイズと聞いていたベッドはキングサイズだ。
表の宿屋も落ち着いていてよい感じだったが、こっちはお金の匂いがする。
「あの、代金は」
今の僕の有り金からすれば、このランクの宿に泊まるのは無理だった。
「さすがに取りませんよ。以前頂いた宿代も必要であればお返ししますよ」
良かった。
まぁ、トルドーさんがお金に困ってるとも思えなかったから、そこまで心配していなかったけれど。
しかし、宿代の返却かぁ。
「いえ、そこまでお返しされますと、居心地が悪いので結構です」
大変、日本人的な断り方になってしまったが、性分はどこまで言っても出身国になるのは仕方がないだろう。
「それでは、明日の朝、食事のタイミングで起こします。他に何か聞きたいことはありますか?」
「大丈夫です」
「承知しました」
トルドーさんは部屋から出るとき、僕の方を振り返って言った。
「どうか、あの二人をよろしくお願いします」
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次の日の朝、朝食に呼ばれた。
朝食前に HIT だけはしておきたかったので、一階のリビングスペースを借りてると、
ゴルドラン兄妹が入ってきた。
軽く挨拶を交わすが、インターバル中だったので僕の息は絶え絶えで、
正直言葉にはなってなかったと思う。
頭の中で休憩のカウントが終わったので、話しかけてきたグラモロスを無視して、
運動を再開した。
今の僕の HIT はもはや倍速のような感じになっているだろう。
傍から見ても、気持ち悪いかもしれない。
全部が終わる頃には汗が噴き出しており、それを取水の魔法で洗い流す。
そのまま外に出て、水を捨てる。
風を出す魔法で髪を乾かすところまでくると、もう頭も体もさっぱりしていた。
「なぁ、それがバンが強くなった秘訣なのか?」
「体力はついたけど、どうなんだろ。秘訣と言えば秘訣かもね」
実際、基礎トレーニングの意味合いが大きいから、確かにやらないよりはやった方が強くなるだろうけど、魔獣を倒したことによる身体能力の向上も考えると、むしろある程度魔獣を倒す前の段階の方で必要になるトレーニングのようにも思う。
「おっしゃ。なら明日からは俺もやる。教えてくれ。もちろん、ニリアもやるからな」
グラモロスがそう言うと、ニリアは少し嫌そうな顔で言った。
「私は魔法があるから、そんな体を鍛えなくても」
「何言ってるんだ、ニリア。魔法は魔力が尽きれば使えんのだぞ。体力があるのに越したことはないだろうに」
そこで朝食の準備ができたと呼びに来たトルドーさんも会話に加わった。
「ニリア様。私もやることをお勧めしますよ。どこでバン君がこの動きを覚えたのかはわかりませんが、とてもよく出来ています。短時間に高負荷というのは、運動がお嫌いなニリア様にとっても相性が良いです」
「むー、師匠が言うのなら仕方がありませんね。バン様、よろしくお願いします」
師匠、という言葉に驚いた。
いや、おかしくはない、のか。
しかし、ゴールドランクとはいえ、冒険者が皇族の師匠とは。
どういう繋がりだろうか。
少し気になるけど、あまり深入りしてもいいことはないだろう。
その後、朝食にしてはかなりがっつりとお肉などを食べたのち、
僕たちは迷宮へ行く準備をして、宿の裏手側へと出ていた。
トルドーさんは、昨日言った通りで何が手助けになるかわからないため、
講習会を除いては僕たちと一緒に迷宮に来ることはなかった。
すごく心配そうに二人を見ていたのは、師匠というよりも親戚のおじさんのようだった。
外に出るときはゴルドラン兄妹は仮面をつけていた。
それで視界が制限されないか、と聞いたら、普通に見づらくなるらしい。
ちょっと試したいと言ったら、予備の仮面を一つもらった。
さすがに皇族がつけるものだけあって、付け心地は悪くない。
けれど、手で筒をつくって、目の周りに接地させたときのような見づらさがある。
一緒にパーティーを組んでいる間は貸してもらえるらしいので、そのままつけることにした。
これは、修行になる気がした。
人の視界は、草食動物に比べればずっと狭い。
なにせ、目が前についているせいで、カバーできる範囲が狭いのだ。
けれど、その代わりに奥行き、つまり前後の距離感覚を掴むのには優れている。
しかし、仮面をつけると被った視界が仮面の部分で遮られるために奥行きの把握が難しくなる。
これは敵との間合いを目で測れなくなることを意味した。
二人は訓練である程度解消したらしい。
そこまでしないとダメとは、皇族にも皇族の苦労はやはりあるのだろう。
三人で話し合った結果、ギルドに冒険者登録をすますことになったが、
問題になったのはパーティー名だった。
皇族とバレてはいけない。
しかし、皇族とバレたときに品位を落とすような名前もいけないという、なんとも面倒くさい制約のせいで、なかなかいい名前が思いつかなかった。
基本、パーティー名は目指す方向性とか、掲げる目標、またはメンバーに由来のある名前をつけるらしい。
それで言うのなら、僕たちはドラゴンスレイヤーとかドラゴンバスターとかになるけれど、
それは倒した後に名乗るか、もしくは最低でもワイバーンなどの竜種を倒したときにつけないと、
恥ずかしい。
前世で言うのなら『俺はいずれビックになる』くらいにはイタイのだ。
散々、議論を交わした挙句、ニリアの案で決まった。
改めて僕たちは『仮面舞踏会』となった。
意味は、貴族などが身分を隠して行う夜会のことらしい。




