34 : ゴルドラン兄妹の目的
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僕の放ったタメ口は特に気にされることもなく、グラモロスは返答する。
「俺とパーティを組んでくれ」
もう腹をくくったのだ。
普通に嫌なことは嫌と言おう。
「他をあたってほしいんだけど。それに僕はブロンズだよ。皇族ならゴールド冒険者だって雇えるでしょ」
「いや、俺はお前を気に入った。同い年だから気楽にやろう」
論理じゃない。
それは議論であれば、突き放題の裸一貫と変わらない。
けれど、駆引きの場では強い。
なにせ、こちらがどれだけ論理を持ち出しても、相手は動かない。
さらには、いくら腹をくくったからと言っても、僕の方には皇族の不興を買うかもしれないという不安が消えるわけじゃない。
「兄様、それだけだと頷いてくれませんよ。バン様、私たちがパーティーを組める相手というのは限られているというのを知っていただきたいのです」
二リアの方はなにやら芝居がかった口調で説明をしはじめた。
いわく、皇族であるから、死体が消える迷宮に誰とでも潜れるわけではない。
いざってときに自分たちの力だけでも逃げれる相手でないといけないうえに、弱くて足手まといになるような相手もいけない。
まだ迷宮へと本格的に潜る前のアイアンだとゴルドラン兄妹としては弱すぎる。
かといって、現在ブロンズの人間はもう誰かしらとパーティーを組んでいる人がほとんだ。
今あるパーティーに入るのでは、皇族という立場を明かさないといけない相手も増える。
それは、かえって危険になるかもしれない。
そんな中現れたのは、ブロンズにも関わらず一人で迷宮へと潜っている僕だったそうだ。
オークを一人で難なく倒しきる実力は申し分なく、さらには年齢も自分たちと近いとなれば、
天啓なのだと。
そんなことを話されれば、確かに、と納得しかけたけれど、一つ疑問がわく。
「トルドーさんに頼めばいいんじゃない?」
最初から強い人と一緒に行けばいい。
頼める身分で、頼める相手がいるのだから。
僕がそこまで言うと、二人よりも先に部屋に料理を運んできたトルドーさんが口を開いた。
「そこら辺の話は私の方からさせていただきます」
料理はシンプルなオーク肉のステーキに、付け合わせだった。
シェフかと思える見事な盛り付けは、明らかに皇族の二人を意識している。
栄養バランスも考えられており、野菜が食卓を色鮮やかにしていた。
「私は、殿下方のお力にはなれないのです。経緯をご説明させていただきます」
トルドーさんが語りはじめたのはゴルドラン帝国の皇族を取り巻く、政治上の話だった。
グラモロスは第二子の第二皇子であり、ニリアは第三子の第一皇女。
グラモロスの上には第一皇子がおり、その母親がニリアの母親でもある。
問題になっているのは第一皇子とニリアの母親が側妃であり、
対してグラモロスの母が正妃であることらしい。
しかも、グラモロスと第一皇子の間は一歳しか年が離れていない。
つまり、皇太子をどちらにするか、で貴族間での暗闘が始まったしまったようなのだ。
さらに、事態をややこしくしているのは当の皇子二人は仲が悪くなく、
しかしどちらも皇太子をやりたくないことだった。
そして、そんな中でのニリアの抱える問題こそが本題だった。
トルドーさんがニリアに視線を向けると、ニリアは自分で言うからと頷いた。
「私は特殊な先祖返りなのです。このままだと龍になってしまいます」
何を言ってるのか、頭が追いつかなくなった。
新しい情報も多いせいで、ごちゃごちゃしてきた。
しかし、そんな僕の様子などお構いなしにニリアは続ける。
「もちろん、先祖が龍だったなどということはありません。ときにバン様、『龍と姫』という童話はご存じですか?」
僕はとりあえず首肯する。
「姫は、童話では目覚めてめでたしとなっていましたが実際は違います。彼女は子供を産んですぐ、当時、入り婿となった皇太子の手によって討伐されているのです」
は?
いや、なんかまずい気がする。
これはつまり、ゴルドラン帝国の皇族に伝わるお家話。
世の中には知らない方がいいことなんて山ほどあるのだ。
「龍の呪いは完全には宝玉をもってしても完全には取りきれませんでした。目覚めて、子を宿すまで数年。そのときには姫の体には黒の龍鱗が生えていたと伝わっています。姫も、宝玉を持ち帰り皇太子となった僧侶も行く末を悟りました。そして姫を人として死なせることにしたのです」
待ってほしい。
それならネリは、宝玉を使っても助からないということか。
「私の目を見ていただけませんか」
ニリアは椅子から降りて、僕の方へと回ってきた。
そして、まつげが触れ合うくらいの距離に顔を寄せてきた。
普通ならどぎまぎするかもしれない状況だったけれど、ネリの瞳、正確にはその奥のものに目が奪われた。
グラモロスもニリアも、目の色は灰色だと思っていた。
実際、遠くから見れば、それは間違いない。
しかし、よくよく見ればニリアの目の色は金色だった。
それこそ、黒のウロコヘビのような、もしくはネリを襲った靄のような、
毒毒しい黄金が灰の海に散りばめられている。
「皇族は瞳の色が灰色の者が多い。俺や、俺の兄もそうだな。もちろん、妃の目の色が遺伝することもあるから、別に瞳の色そのものは問題にならない。ただ、金の瞳は違う。この世界では龍と龍にまつわるもの以外、すべての魔獣も動物も金の瞳を持つものはいないとされる」
ニリアが席に戻る間にグラモロスが言い切った。
「童話の姫が目に金色を宿したのは目覚めてすぐだったとされる。ニリアに残された時間がどれだけあるかはわからない。だが、少なくとも大人になるまでの余裕はないだろう」
椅子に座ったニリアが僕の方に顔を向けた。
「そんなとき、兄様が夢で神にお会いになったそうです。二人で迷宮へ行けば龍を倒す何かが得られる。ただし、自らよりも強い者の手を借りてはいけない。それでは試練にならない、と」
普通なら、夢だろ、で終わる話も僕にはそうは思えなかった。
なにせ、この世界にくるときに神に会っているのだから。
「情勢のこともあったから、俺らは父上と母上たちにだけ訳を話して出てきたんだ。
さっきバンのことを天啓だとニリアが言ったよな。俺たちは本当に天啓だと思ってるんだ。
信じてくれるかはバン次第だが・・・」
つまり、僕と同じ目的を持っている二人というわけか。
なんだか作為の臭いを感じた。
僕だって、迷宮へと連れてこられているし、あの靄がネリの方へ行ったというのも今思えば都合がいい気がする。
でも、乗らない手はない。
少なくとも、僕は宝玉が手に入るまで迷宮にいることになる。
神の言う龍を倒す算段が、僕なのか、それともまた迷宮に何かを用意しているのかはわからない。
けれど、どのみち龍を倒さないとネリが本当の意味で助からないのなら、龍を倒す算段は僕もほしい。
「信じるよ」
今まで組むつもりはないだとか、散々嫌そうな態度をとった僕がすんなり信じたことに、
かえって二人、トルドーさんも含めれば三人の顔が不審そうに曇った。
「僕が迷宮に来た理由も、どうして信じたのかも、話すよ」
僕は今手に持ってないはずの短刀を空で握りしめた。




