33 : 迷宮の探索法
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人海戦術でもなければ、しらみつぶしでもない。
そんな方法があるとトルドーさんは自慢げに言った。
今までの話は、何度も講習会を受けているらしい面々は特に驚くこともなかったが、
ことここにきて、全員が驚愕をあらわにした。
この反応で、もう一般的に探索方法が知られていなかったことがわかる。
なぜ、このタイミングで教える気になったのかはわからなかったが、僕にとっては都合が良かった。
「簡単な話です。魔獣が来た道が下へと続く道につながっています」
そう言われて思い出すのは、今日進む道を先導していたのはトルドーさんだったが、
トルドーさんは毎回魔獣を倒しては、魔獣が来た道へと進んだことだ。
僕はてっきりトルドーさんが道筋を覚えているのだと思っていたけれど、
もしかしたら、全部今の探索法で見つけた道なのだろうか。
いや、間違えたら全員遭難することになるから、さすがにそれはないか。
「今日はもう講習会はお終いですので、このまま帰りますが、明日以降、気になった人は地図の道から少し外れてみて確認するといいでしょう。地図の道ですと他の冒険者が魔獣を倒してしまっているので、魔獣が復活した状態でその道を通れるかはわかりませんからね」
そして、帰りは魔獣に合うことはなく、そのまま迷宮を出た。
迷宮を出たところで、トルドーさんに呼び止められる。
その後ろには、仮面の兄妹の二人がいた。
「やぁ、バン君。それでは宿に戻ろうか。夕食は私がごちそうするよ」
行きたくないというのが本音だけれど、宿も何日分かお金を払ってしまっているし、いくしかないだろう。それに見方を変えれば元ゴールドランクが主人をやっている宿屋なのだ。
安全性は確保されたようなものだろう。
途中でギルドへと寄り、倒した魔獣の魔石を換金する。
オーク肉は相談の結果、僕と仮面の兄で分けることになったが、なぜかそれはトルドーさんが持っていた。
換金しないのか、と尋ねると、これは夕食にする、と返ってくる。
オーク肉はお肉の中ではそれなりの値が張る。
前世でいうなら、ブランドでない和牛くらいの値段だ。
王都にいたときも食べていたから、懐かしい。
案外オークの遭遇率はそこまで高くないからなぁ。
「喜んでもらえそうで良かったです」
さて、あれから仮面の兄妹は僕へと話しかけてはこなかったけれど、視線だけはずっと感じていた。
一体何が目的なのかはこの後に聞けるだろう。
宿屋へ戻ると妙齢の女性が出迎えてくれる。
彼女は、トルドーさんの奥さんでトルドーさんが留守のときは主人の代りをしていた。
今朝、出るときに送ってくれたのは彼女だった。
これでも元ブロンズらしく、冒険者の中ではいっぱしであると言える実力者らしい。
通されたのは宿屋の裏手の個人用のスペースだった。
明らかにトルドーさん夫妻の居住空間のため落ち着かない。
食卓のような場所でそわそわとしていると、仮面の兄妹は、その仮面を外した。
背丈が同じくらいだから、年齢も同じくらいだろうと予想したのは間違ってなかったらしい。
どちらも、まだ幼かった。
髪色は金髪で肌の色は白い。
目は灰色と珍しい色だったが、特筆すべきは顔立ちだろう。
造形から高貴さがにじみ出ていた。
単に整っているという話なら、ネリと変わらない。
しかし、違う。
表情や顔つきが上に立つものとしての風格を備えている。
「改めえて名を名乗ろう。俺の名はグラモロス・ゴルドラン」
この世界は平民にも家名があるのだが、紋所をつけることは許されておらず、
また諸外国も含めて他の貴族家と被るような名も禁止されている。
だからこそ、よく聞く家名は平民のものだとすぐにわかる。
商家である僕もそこら辺は厳しく教えられてきた。
だからこそ、すぐにゴルドランという家名に引っかかった。
国の名を関する家名の意味するところは一つしかない。
つまり・・・皇子かよ!
この二人が兄妹なのだとしら、当然妹の方は。
「私の名前は、二リア・ゴルドランです」
まぁ、皇女だよね。
あー、いや、納得がいく。
トルドーさんの丁寧な口調は素でもあるのだろうけれど、
教える相手の中に皇族がいることを知っているのなら、丁寧な口調であることそのものはこれ以上ないくらいに自然だ。
僕の名前はおそらくトルドーさんから聞いているだろうけれど、でも名乗らないわけにはいかない。
上から名乗られるというのは、下の者が名乗ることを許されるという意味ではない。
名乗ることを要求されているのだ。
「バン・ラーロンと申します」
貴族相手の礼儀は、母からもみっちり教わっている。
前世の精神年齢加算もあって、吸収は早かった。
できる方かと言われればできるだろう。
けれど、こういう細やかな気配り的なものは向いていない。
疲れるのだ。
「よろしくな、バン」
今度は軽く手を差し出される。
これも、両手で握る以外の選択肢は最初から用意されていない。
もし、今すぐにでも迷宮都市、ひいては帝国から逃げていいのなら、拒否する選択もある。
でも僕は、ネリを目覚めさせるために宝玉が必要なのだ。
もし、この二人が邪魔になるようなら僕はもう迷宮に籠ることにしよう。
「よろしくお願いします。皇子殿下」
僕は椅子から降りて両手を握り、平服する。
あー、しんど。
貴族なんて関わらない方が平民のためだ。
ましてや皇族なんて、貴族の人たちからしても下手に関わるとろくなことにならないというのに。
「やめろ。俺はバンに膝を折ってほしいわけではない。そも、敬われることが好きなら迷宮ではなく、ずっと皇城にいる」
ここで、それもそうですね、と顔を上げることはできない。
やめろ、と言われて、ケロっと態度を崩した結果、敬っていないと切り捨てられた事例は過去にも存在する。
日本でもある食い下がりは、貴族社会では必須スキルだ。
「皇子殿下の御前にて非礼を働くわけには参りません」
だから、この場は辞していいでしょうか、とまで言いたい。
「バン、年はいくつだ?」
「十二歳になります」
何で、改めて確認したのだろうか。
「ほぉ、それなりにいい家の出のようだな」
しまった。
十二歳の冒険者。
いくら、ブロンズになっているからといって、貴族への対応まで学んでいるわけがない。
それができるというのがむしろ高評価になってしまっている。
「いえいえ、私の家など、しがない商家ですので」
「出身はどこだ?」
「隣国のパディ王国でございます」
ゴルドラン帝国とパディ王国は友好国だ。
そも、パディ王国が接するのはゴルドラン帝国だけであるので、敵対する旨味はなく、
ゴルドラン帝国にとってもパディ王国が見方なら連峰側からの敵襲を考えなくて済む。
つまり、ここで出身国を明かすのは問題ない、はずだ。
「兄様、パディ王国で商家のラーロンといえば、ラーロン商会ではございませんか?」
この短い間だけで、もう僕の素性まで割れてしまった。
もちろん、隠しているわけではないのだけれど。
でも、もはや逃げることすら叶わなくなった。
ゴルドラン帝国の皇子の不興を買ったとなれば、僕の家族も、そして親類でもあるネリとその一家も、
どちらも危険に晒されるのだ。
少なくとも商会は続けられない。
これは、もう腹をくくるしかない。
なるようになれ、と思いながら、グラモロスに目を合わせた。
「それで、僕に何の用?」




