32 : 迷宮講習会と兄妹
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楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
講習会の面々は迷宮前に集められていた。
参加者は迷宮への入場資格があるアイアン以上の冒険者で、僕以外にはブロンズはいない。
それでも、年齢はみんなぼくより年上だった。
肩身の狭い思いで回りを見渡していると、仮面の兄妹が談笑していた。
他の人は誰も喋りかけようとしておらず、また関わろうともしていなかったため、
そこだけぽっかりと空間ができているようだった。
まぁ、僕も下手に関わるつもりはないけれど。
「さて、これで全員ですね。今回講習に初参加の皆さまは初めまして。以前も参加されていた方は一週間ぶりです。元ゴールド冒険者のトルドーと申します」
丁寧な口調で挨拶をしたのは、僕の泊っている宿屋の主人だった。
あんたかよっと心の中で突っ込んだ。
装備はまったくつけておらず、ただの鉄剣一本をぶら下げているラフな格好は、
しかし、立ち居振る舞いの自然さのせいで警戒してしまう。
そして、始まった講習会は和やかに進んだ。
向かった先は四階層。
北の森の中層くらいの魔獣が出始める階層で、日によってはオークが出ることもあるそうだった。
しかし、全体的にはゴブリン程度の魔獣しかいないため、低階層ほど魔獣が少ないわけではなく、
かといってアイアンには強すぎる魔獣もいないため都合がいいのだとか。
それでも魔獣はいる。
和やかさの原因は間違いなくトルドーさんだった。
先ほどから、迷宮のうんちくを喋り倒しており、ときおり出てくる魔獣は一瞬で切り捨てるから、
もはや歩きながらの講義でしかない。
トルドーさんは講師も慣れているのか滑らかに語っており、
重要な点になれば話す速度を落とし声を大きくして強調していた。
すごくわかりやすかった。
ベルトルトさんの指導を受けているときも思ったけれど、高位の、しかも講師をやろうとする冒険者は要点を端的に話すのがうまい。
キーワードがすんなりと頭に入ってくるし、論理も簡単で自然に理解できる。
そして、それによると迷宮というのは、とかく耐久勝負らしい。
トルドーさんに言わせれば、どれだけ迷宮との我慢比べに勝てるかどうか、が生きて帰るか、死んで終わるかを分けるのだとか。
早く進みたいという思いで焦れば迷路にやられ、
かといって遅く進みすぎれば食料の問題や、また魔獣との戦闘回数の増加でじり貧になる。
だから、一にも二にも冷静さを保つことが重要だ。
そんな話を手を変え品を変え、何度も繰り返してきた。
森の中での生き残り方に似ている気がする。
そんななかオークが出てきた。
僕たち参加者はみんな、トルドーさんが倒すものだと思って油断していた。
「さて、君たちも話を聞いてばかりではつまらないでしょう。皆でオークを倒しましょう」
そう言っている間にも、オークは硬化の魔法で体を固めて突進してきた。
ここは迷宮だから、地面に穴を掘るのは使えない。
ただ、今の僕はそんなことする必要がなかった。
幸いにも通路は狭いから、壁と天井を使えば、たんに躱すよるもずっと簡単にオークの背後へ回り込める。
僕は鋼鉄の剣を抜き去り、トルドーさんの右側を抜けてオークの首を切り落とした。
やっぱり、全身を硬化させないオークは魔力の使い方としては効率的だけれど、
隙も多い。
僕が首を切り落とした瞬間、オークの体が通路の奥へと吹き飛んだ。
なにが、起きたのか。
着地と同時に確認すると、仮面のうち兄の方が鉄剣を振りぬいていた。
オークの体重は数トンはある。
それを吹き飛ばしたのか、腕力だけで。
そんなの僕と同年代の人間にできるだろうか。
いや、もっと言うのなら、ネリやルキトでも無理だろう。
ベルトルトさんならできそうではあるけれど。
僕が驚愕を覚えているとき、仮面の兄の方も僕の方へと顔を向けていた。
「お疲れ様です、兄様」
妹の方が杖を持って、近寄ってきた。
「ああ、まぁオーク程度、大したことないな。なぁ、お前もそう思うだろ?」
兄の方が僕を見たまま、聞いてきた。
あんまり、関わりあいたくない。
貴族が面倒なのは、その身分もだけれど、それ以上に何を持っているかわからないところもある。
ルキトのことで身に染みて知った。
謙遜してみるか、それとも楽勝だったと言ってみるか。
人によって好意的に取られる方向が異なるけれど、一般的には否定されない方が好意的だ。
つまりは、謙遜して否定すれば、あまり関わりたくない旨を暗に伝えられはしないだろうか。
「いいや、君がいなかったら、僕も危なかった」
さすがに首を落としておいて、この謙遜はやりすぎかもしれない。
伝われ、僕の想い。
「そうかっ。なら、今後は互いに支えあっていきたいな」
竹を割ったように言われる。
「僕はまだ人を支えられるほどの人間じゃないから」
「支えあっていこうと言ったのだ。別に一方的に支えられるつもりはない」
話通じないなー。
こういう場合、同行している人はまともであるだろう。
実際、この妹の方は前に冒険者ギルドで兄を諫めていた。
期待を込めて妹の方を見る。
「兄様、回りくどいです。不躾で申し訳ないのですがパーティーを組みませんか」
アンタもかい。
そんな気に入られる素振りなんてなかったはずなのに、どうしてだろうか。
でも、ここでさらに固辞すると、それはそれで話がこじれそうなんだよな。
少なくとも兄の方は強さは申し分ない、どころか僕よりも強いように見えるし。
僕が返事をできないでいると、トルドーさんが拍手をしながら近づいてきた。
「お見事です。さすがは若干十二歳にしてブロンズに昇格しただけはありますね」
「ああ、まったくだ。お前は一体どうやってそんなに強くなったんだ」
どうやってと聞かれれば死線を潜り抜けたというのと、あとは修行でしかない。
それでも剣に至っては才能を褒められたこともない。
ただ、修行です、と答えてもスカシテいるように見えるからなぁ。
「頑張りました」
言って気づく。
それだと、他の人がまるで頑張ってないように聞こえてしまう。
何人かは皮肉として受け取ったのか、僕への視線が冷たいモノへと変わった。
「そうか、そうか。頑張ったか。それはいい」
しかし、対照的に仮面の兄の方は笑うだけだった。
「まだ講習会の途中ですので、お二方。パーティーの話は後程していただいてもよろしいでしょうか」
トルドーさんの助け舟のおかげでこの場は切り抜けられた。
でも、講習会後の約束もまた取り付けられたようなものだった。
オークからドロップしたのは、オーク肉だけだった。
弱い魔獣を倒していたときはひたすら小さな魔石ドロップだったけれど、ここからは魔石以外もドロップするということだろうか。
そこからの講習会は一段階、緊張感が増した。
トルドーさんが、今まで倒していた魔獣を倒さなくなり、僕たちへと振ってくるようになったからだ。
オークの他には、ホブゴブリンが単体で一回出た切り、あとは弱い魔獣ばかりだったので負傷者はいなかった。
さすがにアイアンともなれば、この程度で取り乱す人も出ない。
そして、第五階層へと降りる道の前までくると、トルドーさんは振り返って言った。
「ここからが一番大事なことです。迷宮は地図がないと攻略できない。人海戦術でないと正しい道がわからない。皆さんはそう考えていませんか」




