28 : 迷宮都市
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楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
何度か死んでみた。
死ぬ度に死に対する恐怖が薄れていくのを感じる。
頸動脈へと刃を引き切れば、数秒で死ぬ。
だんだんと体から大事なものが零れ落ちる感覚があるが、
その先が本当の意味での死ではないと思うと、そこまで恐れることもないと思った。
真っ暗な空間に入るごとに、頭は冷静になるし、体力も回復する。
馬一頭で走るのと同じくらいの速度だから、馬車などを使うよりもずっと速い。
人が使う道からそれている分、魔獣と出会うがウロコヘビはおろか、オークより強い魔獣にも出会わない。
魔石だけを抜き取って、すぐにまた走り出す。
何度も生き返って気づいたことがある。
まず、体力は回復するが、代わりに走ることによるトレーニング効果はなさそうだということ。
通常、人が運動をして、筋力をつけたり、心肺機能を高めたりできるのは、
破壊された筋肉がより強く再生するからだ。
それを、死ぬことで回復されると、成長はない。
逆に、走り方自体はどんどんと安定してきた。
おそらく、走っている瞬間にもう発達する神経に関しては、死んだらリセットということもないのだろう。
また、死体は残らず、魔力を除いて万全の状態で生き返ることがわかった。
魔力に関しては使わなければ、そのままだが、使った状態で死んだら、生き返っても戻らない。
ちなみに空腹も戻らなかった。
お腹が空いた状態で死ぬと、生き返ってもお腹が空いている。
これは結構厄介だった。
なにせ、もし食事を与えられない状態になれば、肉体はどんどんと衰えることになる。
いずれ、餓死が復活を、復活を餓死が呼ぶという最悪のループにすら入ってしまうかもしれない。
こうなってしまっては、誰かに助けてもらわない限り、抜け出すことができなくなる。
バックに入れていた食料などは、一度食べるともう元には戻らなかった。
食べてすぐ死ぬとどうなるのか、については試してないけれど、
魔力が回復していないことを考えればおそらく胃の中は空っぽにされて復活なのだろうと予想がつく。
迷宮に行ったとき、僕の死ぬ可能性は、餓死が一番になりそうだった。
次いで、部屋に隔離されて二度と出られないこと。
今のように死を使うことはしても、死んでもいいからとゾンビ特攻するのはやめたほうがいいかもしれない。
死んでも生き返る能力を試しながら走り続けること一か月。
ついに隣国の迷宮都市リビランへと到着した。
隣国がそもそも覇権国家とでも呼ぶべき大国であるため、
リビランはとても発展していて、また多くの人で賑わっていた。
なんとこの街は外に糞尿を投げ捨てないのだ。
管理されている肥溜めが点在しており、街中に投げ捨てれば犯罪になる。
そして、着火の魔法を使える人が雇われて、定期的に燃やしている。
糞尿が臭いのは、そこから立ち上る蒸気に臭いの成分が混じっているからだ。
それを燃やしてしまうことで臭いを防ぐ仕組みだ。
簡素ながらもそれなりに臭いは改善されており、
前世日本人からしても、まぁすごい田舎に行けば、と我慢ができる程度にはなっていた。
もし、ネリが一緒にいたら、目を輝かせてはしゃいだと思う。
二人して来たかったと思ってみても、そうならなかったのだからどうしようもない。
ネリを目覚めさせたら、一緒に来よう。
なるべく早く、宝玉を手に入れないとな。
まずは、迷宮に入る前に食料を買おう。
迷宮とは不思議な場所らしく、魔獣の死体は残らず、魔石、その魔獣で作られた武器や防具、または食べられる魔獣なら肉などが出現するそうだ。
基本的に、この世界にあの神は干渉しない。
それは僕が最初に会ったときの言いぐさからも、スタンスは理解できる。
実際、神から祝福を得たという話は数百年は起きていないらしい。
もちろん、中には神の声を聞いたという僧侶はいるけれど、どこまで本当かはわからない。
にも関わらず、神の存在が信じられているのは、この迷宮のせいだろう。
明らかに非現実的な構造物は、世界を創った存在が法則を捻じ曲げたのだとしてもすんなり納得ができる。
早速、様子見だと迷宮へ足を向けた。
街の中心部にあるパルテノン神殿を思わせる壮大な建造物の中に入ると、
その中は冒険者の長蛇の列ができあがっていた。
最後尾にいる四人組の冒険者パーティーへと声をかける。
ルキトと同じか少し上くらいの人たちはアイアンのプレートを首から下げていた。
「あの、なんで並んでいるですか?」
今思えば頓珍漢な質問だったのだろう。
四人組は全員が一斉に首を傾げ、そして、僕の旅装束を見て納得したように頷いた。
「僕は、他の街から来たのかな?」
一番年上そうなお姉さんが腰をかがませながら、聞いてきた。
そして、僕の首にかかっているブロンズのプレートをチラリとみる。
「はい。今日来ました」
そういえば、王都ではブロンズになったばっかで出てきたから、こういう他の冒険者に見定められる感覚は初めてかもしれない。
お姉さんはやっかむことなどはなく、訳を教えてくれた。
なんと迷宮に入る前に、リビランの冒険者ギルドで入場手続きを踏まないといけないらしい。
理由を聞くと納得ができる話だった。
迷宮内で死ぬと死体は消える。
これを悪用している人達がいたらしい。
これには教会は神への冒涜だと怒り、国としても犯罪を超常なる力で消されてしまっては法が立ち行かないとなった。
そこで二つの入場制限と一つのルールが設けられた。
そのルールが、冒険者ギルドに入場者として登録することだった。
これにより、パーティーメンバーが死んだ場合は報告義務を発生させることができ、
また、登録時に最低でも一人の受付嬢が同じパーティーかをチェックすることで、
殺したい相手をパーティーメンバーとして偽る行為も減らすことができる。
ちなみに入場制限は、許可の下りた教会の者、もしくはアイアン以上の冒険者のみ、だ。
つまり、教会を除けば、ストーンからアイアンへランクアップするまでの一年から二年くらいは、
問題行動も起こしていない、かつ、適切に依頼をこなし続けた人に限定される。
僕はお礼を言って、いくつか道中で狩った魔石を渡し、冒険者ギルドへと向かった。
ギルド内の様子は王都と同じようなものだったが、その規模は三倍くらいもあった。
王都では受付のレーンは三レーンだったが、ここでは十レーンもある。
並ぶ冒険者も多くいて、レーンのうち七レーンが迷宮関係、三レーンが迷宮以外で分かれているようだった。
登録はどのレーンでもできるらしいとのことなので、空いている迷宮以外のレーンへと足を運ぶ。
それでも、数人は前に人がいたため、待たされることになった。
まわりを見渡していると、仮面で顔を隠した、僕と同じくらいの背丈の冒険者が後ろに並んできた。
「兄様、冒険者がいっぱいですね」
一人は女の子の声で、まだ幼いことがわかる。
「ああ、しっかし、こんなに冒険者がいるのに迷宮を踏破できないとは。木偶の坊の集まりなのかもしれんな」
あまりに尊大な物言い。
しかも、この場にいる全員を敵に回すような発言を少年はした。
その妹らしき人物は持っている杖で兄らしき人物の頭を殴った。
「アイアンになったばっかの兄様が言っても説得力ありません」
「それもそうかっ」
少年は「皆の者。すまなかった」と快活に笑う。
その様子になんだか毒気を抜かれた。
それに、この場にいる全員が思ったことだろう。
絶対に身分が上の人物だと。
いかに仮面で顔を隠していようとも、持っている装備、そして喋り方だけである程度の位はわかってしまう。
誰も関わらないことを決めたのか、一瞬だけピリッとした空気はどこかへ霧散していった。
僕はサクッと登録を済ませた。
受付嬢の人に、後ろの二人組と同じパーティーじゃないかと聞かれたが全力で首を横に振った。
正直、僕も関わりたくなかった。
この迷宮は一人で潜り、なるべく早く宝玉を見つけるつもりだったから。




