27 : 呪いと迷宮の秘宝
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依頼が無理そうだと話した後、向かったのはベルトルトさんの家だった。
幸いにも、家にいたベルトルトさんは僕が背負うネリを見て、非常事態が起きたことを察した。
事の顛末を話すと、待っていろとだけ言ってベルトルトさんは外に出ていった。
しばらくして、ギルドマスターを連れて戻ってきた。
ネリの額の紋章を見たギルドマスターはため息を吐いた。
「これは、龍の呪いだ。まさか、まだ使う阿呆がいるとは」
深く刻まれた皺は事態が相当に厄介なことを物語っている。
そして何よりも聞き捨てならないのは”龍”の呪いだということだ。
この世界で龍と呼んで指すのは一体だけ。
僕が神に倒すように言われた存在だ。
「直せるんですか?」
僕が聞くと、ギルドマスターは気難しい顔で首を振った。
「これは直すとか、直さないとかそういうモノじゃない。龍が死なない限り、永遠に残り続けるものじゃ。ただ、目覚めさせる方法はある。お主も『龍と姫』というおとぎ話は知っておるじゃろ」
『龍と姫』はこの国どころかこの世界において有名な童話、おとぎ話だった。
昔々あるところに、とっても悪い龍と、そして国中から好かれる美しい姫がおりました。
ある日、姫が隣国へと向かう途中、空を大きな影が覆いました。
そこには、とっても悪い龍がいたのです。
龍は姫へと一目ぼれしましたが、姫は龍の誘いを断ります。
怒った龍は姫に一つの呪いをかけました。
それが目覚めない呪いです。
国中が悲しみに暮れる中、敬虔なる僧侶のもとへ神が降臨しました。
「汝、試練を潜り抜ければ姫は助かるだろう」
しかし、皆が困り果てました。
神は肝心の試練の内容を伝えていなかったのです。
どうしようもなくなったとき、王に一つの報告が届きます。
以前まではなかった建物が地下にできている。
そして、それは果てが見えぬと。
これしかないと向かった建物は道の複雑さと、
立ちはだかる魔獣から、迷宮と呼ばれるようになりました。
ある日、敬虔なる僧侶は迷宮の中で一つのお宝を発見しました。
欠けることも、歪むこともない、完全な球体のお宝から、
神の気配を感じとった僧侶はこれが試練を突破した結果だと考え、
国へと持ち帰ります。
姫の元へと運ばれたお宝は姫から黒い靄を吸い出していき、
みるみるその透明さを濁らせていきます。
お宝が砕け散るとともに姫は目を覚ましました。
姫が目覚めたことに喜んだ王様は、僧侶と姫の結婚を許し、
いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
どこか生々しいおとぎ話は子供を一度は冒険者になることを夢見させるものだった。
「儂の師匠のさらに師匠から聞いた話だそうだが、このおとぎ話は史実を元に作られておってな。
このときに砕け散ったお宝こそ、龍の残滓と呼ばれ、忌み嫌われる呪物なんじゃが・・・」
「そのお宝は迷宮に行けばあるんですね?」
「いや、それがのぉ、迷宮は同じ場所に同じ宝があったり、同じ階層には何度倒しても同じタイプの魔獣が出るなどしておる不思議な場所じゃが、僧侶が伝えたお宝、宝玉と呼ばれておるが、宝玉の場所をどれだけ探しても、同じものは見つからなかったらしいんじゃ。それに、迷宮は一定期間でその形が変わる。十年前がその日で、もうそのときの地図も今では役に立たん。絶対にあるとは言えんのじゃ」
「それでもいいです」
何とかすることができるというのなら、それに縋るだけだ。
「バン。ネリのことは俺に任せていけ。貴族が相手だろうが、俺が守っておいてやる。だから、”死なずに”戻って来いよ」
死なずに、を強調した意味はギルドマスターにはわからなかっただろう。
でも、ちゃんと僕には届いた。
死んでもいいと思って行動するな。
前にも言われたことを再度釘を刺してきた。
でも、今は違う意味にも聞こえる。
自暴自棄になるんじゃなくて、適切に死ね、とも。
ただ、口に出して聞くには憚られた。
仮に、二人だけしかいなくとも、聞くことはなかっただろう。
「今回ばかりは、儂にも責任の一端はあるからな。安心せい」
一度家に戻るか、それともミツミ商会へと話を通すか。
迷ったあげく止めた。
論理的な理由はない。
二つの商会のバックアップがあったほうがいいこともわかってる。
でも、たぶん、一人になりたかったのだ。
自分の行動が、自分の考えが、間違ってなかったのか、と。
失敗したことに理由をつけても仕方がない。
起こってしまったことは変えられないし、悩んでも意味がない。
でも、そこまで論理的に割り切れるなら、感情を無視するのなら、
僕は生きている意味がない。
もし、一人でどうしようもなくなったら、師匠を、両親を頼りにこよう。
でも、できるだけ一人でやろう。
改めて南門を出て、空を見上げる。
空は何事もなかったように快晴で、これだけを見れば絶好の旅日和だった。
いつも隣にいたネリはもういない。
別に死んだわけじゃないけれど、ここから挑む迷宮にはついてきてくれない。
そこでハッとする。
ベルトルトさんは、死んでいいと思って行動するな、とは言った。
でも、続きがある。
一緒に戦う者を危険にさらす、と。
もし一人で戦うのなら。
もしかしたらベルトルトさんの想いとは離れているかもしれないけど、
ネリが見たら怒るだろうけど、でも、これなら。
僕は試しに整備された道から外れて、全力疾走をした。
息を切らし、もう進めないとなってから、短刀を握りしめる。
体力は回復するのだ。




