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26 : 龍の残滓

読んでいただきありがとうございます!

毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。

楽しんでいただけると幸いです。

評価の方もよろしくお願いいたします。

突然挑まれた決闘は、しかし唐突(とうとつ)ではなかった。

以前会ったときから、この展開は予想できる。


ただ、今から護衛依頼をこなそうってときに決闘を受けるほど、僕は考えなしじゃないつもりだ。


「お断りします」


「ああ、お利巧(りこう)なお前ならそうくるだろうと思ってな」


ルキトは焦ったりもせず、懐から一本の首飾りを取り出した。


それは、シフタッド男爵家の紋章がかたどられたもので、ひと目で高価なものであり、

かつ本物であるとわかる。


そもそも、ルキトが貴族の愛人の子供だと噂されていた家の中にシフタッド男爵家がある。


シフタッド男爵家を一言で言い表すなら、古い小物。


建国当初から存在するにも拘わらず、ずっと男爵に収まっている家だ。

要職につくわけでもなく、特殊な役割を背負うわけでもない。

それでも、開拓にはそれなりに貢献したとかで保有する資産は男爵家にしては多く、

今でも、ほそぼそと貴族を続けている。


悪い噂は聞かないがいい噂も聞かない。

普通に嫌な貴族というのが平民全体の印象だった。


この国では決闘は対等なもの同士でしか成立しない。

それは、法典にも明記されている。


しかし、下の者が上の者に対して決闘を申し込むならともかく、

その逆は禁止されているわけでもない。


また、貴族の命令を一平民が断ることも禁止されている。

いわく、いざというときに指揮系統が混乱しては困るため、だそうだ。


もちろん、すべての貴族が平民を好き勝手しようとしているわけではない。

階級差はあるが、それでも人間同士であるし、貴族家からしても民の評判は治世を行ううえで大事になってくる。


ただ、それでも法は法。

貴族の紋章を出すということは、その家、その場における代表者であることを意味する。


対して、僕は平民だ。


「改めて言う。俺とネリを賭けて決闘しろ」


ここで、ネリに結婚を強要しないのは意地なのだろうか。


そも、僕は別にルキトが嫌いなわけではない。

ブロンズになったのも実力であるのは明白だったし、

受付嬢や他の人に強く当たるのも見たことがないから、根が悪い人間でもないと思っている。


僕もここまでされたら断れないし、貴族から決闘を申し込まれたのなら、

護衛依頼の前だということにも言い訳が立つ。


プルトット商会の会長も許してくれた。


「承知しました」


いつも、ネリと剣を打ち合っている開けた場所に移動する。

立ち合い人はネリが務めることになり、他に見物人はいない。


さすがに商会の会長を務める人は聡い。

理由がない限り貴族に関わらないのを鉄則として動いている。


互いに剣を抜いて向き合う。


ルキトの装備を改めてみると、やはり金がかかっている。

でも、ウロコヘビを倒した僕やネリからすると、どこか見劣りする。


それに、人が防具に身を包んだところで魔獣と比べて限度がある。

元々が柔いから、関節などの弱点を狙われたら、どうしたって防具だけでは防ぎきれない。


僕やネリが剣士として前衛に立つにも拘わらず、軽装なのはベルトルトさんの教えが理由だ。

ベルトルトさんの経験上、いわゆる敵の攻撃を正面から受けて耐えきるような戦い方にしない限り、

ゴッテゴテの防具は邪魔にしかならないらしい。


ネリは僕が負けると思ってないのか、今まで溜まっていた鬱憤を晴らせるときがきたことによろこんでいるのか、すました顔のまま、決闘を取り仕切る。


「ルールは?」


ネリがルキトへ聞いた。

決闘は申し込まれた側がルールを決めてるのが様式だ。

でも、貴族から平民へ、なら貴族の意向が最優先される。


「なんでもありだ。戦闘不能か、もしくは降参するまで」


「わかった。それでは」


ネリは剣を抜いて、天へと振り上げる。


「始め!」


先手は僕がとった。

今のルキトにスピード勝負で負けることはない。

気をつけるべきは、相手の一撃だ。


もともと筋力では勝てていないし、ウロコヘビを倒したことで力の差は多少埋まってはいるだろうけど、

でもまだたぶんルキトの方が上だ。


そのうえ、ルキトはミスリルの剣で、こっちは移動を重視した軽装。

無防備に食らえば、そのまま死ぬかもしれない。


すれ違いざま、鋼鉄の剣を相手の防具にめがけて横に振り払う。

軽く振った剣は、防具にはじかれてカンと綺麗な音を立てた。


やっぱり、防具の上から叩き潰すなんてことは無理そうだな。


ルキトはチャンスを待っているのか、じっと僕の様子を確認している。


僕の方も手待ちをしてしまっては時間だけが過ぎていく。


次は関節を狙って斜めに切り込む。

ルキトは関節を曲げて防具を密集させ、関節部分の露出を消した。


さすがにブロンズ冒険者。

防具なら防具で、その戦い方は熟達していた。


甘くない。


でも、これで手がなくなるほど僕は戦闘経験が浅いつもりはない。

そもそも、戦闘においては自分で流れを作れる攻め手が有利なのだ。


まずは、手始めに蜘蛛糸の魔法を射出する。

魔力を練り上げて、範囲を広げたものだ。


もちろん、程度なら簡単に切り落とされる。

けれど、それは目くらましだ。


僕はルキトが剣を持つ方と反対方向の左手側、僕から見て右手側へと体を滑り込ませた。


そして、振りぬきざま一発。

まずは下段から上段へと一息に切り上げる。


間一髪で避けたルキトだったが、燕(つばめ)返しの要領で振り下ろされる第二撃には、

対処が遅れて防具ではじいてきた。


至近距離で粘度を高めた蜘蛛糸の魔法を射出する。


今度は剣を振る余裕がないせいで、ルキトは左手で顔をかばった。


顔を自身の手で覆うということは、その手側の視界をふさぐことに等しい。


がら空きの胴体に向かって回し蹴りを行うと、ルキトは後ろへと後ずさり、バランスを崩した。


次に関節を狙った攻撃には、ルキトはもう対処ができない。


さすがに切断するのは気が引けるから、刃を立てないようにして殴るように関節を攻撃する。


肘、膝、そして手首。


次第によろけ始めるルキトは、僕の最後の一押しに、ついにしりもちをついた。


その首に向けて剣をはわせたことで、僕とルキトは互いに動くのをやめた。


ルキトの顔は屈辱と怒りに満ちていた。


こういう敵は何をしてくるかわからない。

けれど、魔獣と違って切り伏せることもできない。


「まだ続けますか?」


僕の言葉に、ルキトは初めて醜悪な笑みを向けた。


「死ねよ」


子供じみている、そう僕が思った瞬間、ルキトは懐に手を入れた。


嫌な予感がした。


僕はすぐに組み伏せるために動く。


けれど、僕はルキトとの腕力の差を失念していた。


抑えようとした腕は軽く振り払われ、殴られそうになるのを回避するために、一度離れる。


ルキトが懐から取り出したのは、魔石のような黒くよどんでおり、禍々(まがまが)しさを集めたような代物だった。


既視感に記憶を探る。


黒のウロコヘビを最初に見たときと同じ感じ。


決闘のルールは何でもアリだ。


何かされる前に降参するか。


いや、それはできない。


かといって、貴族の愛人の子供なら殺すこともできない。


この隙が、致命的だった。


ルキトはそれを掲げて剣で叩き割る。

中から出てきたのはウロコヘビなんて目じゃないくらいの威圧感のある靄(もや)だった。


二つの金色の光は目のようにぎょろぎょろとし、そしてネリの方へと飛び去った。


ルキトは「違うっ。そっちじゃない」と叫ぶ。

ネリは応戦しようと鋼鉄の剣を靄(もや)に向けて振るが空を切ったように何にもならない。


その靄は次の瞬間、ネリの体へと染み込んでいく。


「バン」


僕の方へと伸ばされた手は力なく地面と向かう。

ネリはそのまま崩れ落ちた。


「ネリっ!」


決闘の最中だということも忘れて、僕はネリへと駆け寄る。

息はしている。

けれど、呼びかけても返事がない。


そして額には何かわからないが黒い紋章が刻まれていた。


「おい、ルキトっ。お前、何をした」


僕が振り返ってルキトを見るが、ルキトは茫然自失となり、「そんな」と呟くだけだった。


とりあえず、いや、まずは何から、すれば。

頭の中はごちゃごちゃになり動き出せない。


ルキトはダメだ。

今何かを聞いてもどうにもならないだろう。


落ち着け。

まずは護衛依頼が受けられなくなったことを伝えないと。


でも、ネリをその場に置いていくなんてできない。

僕はネリを背負って、馬車へと近づいた。

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