24 : 後処理と魔石
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楽しんでいただけると幸いです。
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改めてウロコヘビの死体へと近づくと大きさに圧倒される。
戦ってる最中も大きいとは感じていたけれど、
動かなくなった途端巨大なオブジェクトだった。
全長は二十メートルはあるだろうし、直径も二メートルはありそうだ。
「こんなの、倒したんだ」
ネリがウロコに触れながらしみじみと呟いた。
空は白み始めた頃、ベルトルトさんが一人でやってきた。
「おう、二人とも」
ベルトルトさんと会うのは、今や週に一回の剣術指南のときだけになっていた。
一週間ぶりに見る姿は、また前よりも衰えているように思えた。
けれど、ウロコヘビを倒したからこそわかる。
ベルトルトさん、というかシルバーランクは化け物だと。
たぶん、ベルトルトさんなら、ウロコごと切り落とすことすらできたんじゃないか。
そう思わせる覇気があった。
「無事で何よりだ」
僕たちの怪我を見て、無事で済ますのも相変わらずだった。
欠損も戦闘に影響しないなら無傷って捉えてるふしがあるんだよな。
「それに、ふむ。なかなかに強くなったな」
身長を確認するように手でポンポンと僕たちの頭を撫でる。
久しぶりにちゃんと褒められた気がする。
まぁ、最近はほとんど今まで倒してきた魔獣の討伐と、
北の森の探索ばっかだったから、仕方がないのかもしれない。
「んで、コイツはなんだ?」
ベテランの冒険者であるベルトルトさんすら、やはりパッと見だとこの魔獣が何かは判別がつかないらしい。
「ウロコヘビっぽいが、にしては」
ぶつぶつと体を検分し始めると、もう僕たちの姿は目に入ってないようだった。
少しして、満足したのか、ベルトルトさんは顔を上げた。
「特異個体の中でもさらに特殊って感じだろうな。ただ、何由来なのかはさっぱりだな」
ひとまず、王都へ帰るということになったが、問題になったのは死体の処理だった。
容量無制限の入れ物なんてものはないし、
ウロコヘビは大きさから考えても何トンもあるのがわかる。
こういうときは、頭と魔石、そして素材だけを剥ぎ取って後は処分するらしい。
三人で手分けしてウロコを剥ぎ、落とした首を引っ張って森を後にした。
魔石は脳に近いところにあるのがわかったので、そのままにしておく。
北門から入ると門番がギョッとした。
もう顔なじみとなった人たちだから、素性を疑われるとかはない。
顔には心配と、そして驚愕が浮かんでいる。
そのままギルドへと直行する。
ベルトルトさんが受付嬢に話を通して待つこと数分、出てきたのはギルドマスターだった。
「ベルトルト、これはお主が?」
老いて小さくなった体に見合わない鋭い眼光は白髪の頭と相まって一角の人に見える。
「いや、俺の弟子たちだ」
「ほぉ」と呟いたギルドマスターは僕たちを観察するように目を走らせた。
「よく育っとるな。しっかし、コイツは」
ギルドマスターは難しい顔をして顎に手をやった。
そのとき、ルキトのパーティーがギルドへと入ってきた。
ボロボロの姿のネリを見て、一目散に駆け寄ってくる。
「ネリ、なんだ、その傷」
次いで僕、そしてウロコヘビの頭へと視線を動かした。
「俺の家には回復薬がある。すぐに治療を」
そう言って、ネリの手を取ろうとするがパッと避けられる。
いつもなら、僕は割って入らないけど、告白した今、その限りじゃない。
「ルキトさん、止めてください。”僕”の彼女です」
確かに僕もネリも治療は必要だけれど、
でも見た目以上に重傷を負ってるわけじゃない。
レベルアップの効能とまで言うつもりはないし、実際体がボロボロなのも嘘じゃない。
けれど、少なくとも、この傷で死んだり行動不能になったりするわけじゃないのは、
僕たち自身が一番わかってる。
ベルトルトさんもそれを見抜いたから、素材を持って帰るなんていう悠長ともとれる選択をしたのだ。
それに、ミツミ商会にもポーションはある。
あそこまでネリに執着していたのだから、知らないわけでもないだろう。
「なっ」
その目に映るのは、怒りと痛み。
でも、こればかりは譲れない。
「ちっ、そうか」
それだけ言うと、ルキトは特に依頼を受けるわけでもなくギルドから出ていった。
同じパーティーの二人も慌てて後を追った。
さすがにギルドマスターに会釈はしていったけど。
「ほぉ、若いのぉ。なぁ、ベルトルト」
ベルトルトさんの過去を思い出して揶揄っているのか、
ギルドマスターはベルトルトさんの方を向いてにやにやと笑う。
「うるせぇ」
鬱陶しそうに手をひらひらとさせたベルトルトさんは今度は僕たちをニヤニヤとしながら見る。
「俺としては、やっとか、って思いだな」
そして、僕たちに柔らかな瞳を向ける。
僕もネリも照れや恥ずかしさはあったけど、ベルトルトさんへと笑い返した。
その後、ギルドマスターの計らいで裏庭へと頭を運んだ。
コイツの魔石を取り出してみるか、ということになり、
代表してネリが口の中から剣を突き刺した。
やっぱり、動物は内部からの攻撃には弱いよな。
死んでいるからウロコもそれなりに簡単に剝ぐことはできたけど、
ベルトルトさんにコツを教わらなかったら、ウロコを叩き割れても、綺麗に取ることはできなかったはずだ。
けれど、粘膜からなら、多少剣が入りにくい場所であっても、すんなりと切れる。
もう血や泥で汚れているからと、ネリは気にもせず切れ目から手を突っ込んで魔石を取り出した。
大きさはネリが両手で抱えられるくらいであり僕が今まで見たものの中でも一番大きい。
魔石の大きさは魔獣の大きさにおおむね比例する。
理由は解明されていないけれど、有力な説は巨体を動かすのに魔力を使っているから、らしい。
また、大きく成長するには、歳月が必要であり、他の魔獣を食らっているから、というのもある。
色は黄金色で、中は宝石のように煌めている。
僕たちは魔に取りつかれたみたいにその魔石を眺めていた。
宝玉と呼んでも差し支えないその輝きは、率直に言って危険だった。
「まぁ、王族に献上するのがいいだろうな」
ギルドマスターは魔石に触れながら言った。
魔石は主に魔法の触媒に使う。
魔獣が死ぬと魔石に貯められているはずの魔力は跡形もなく消え去る。
代わりに、魔力を貯めることができ、またそこから魔法を発動することで威力を向上させられる。
だからこそ、弱い魔獣の魔石にも用途があり、
それこそ、今回のような巨大な魔石の価値は途方もないものになる。
僕もネリも異論はなかった。
面倒ごとに巻き込まれるのもごめんだったから。
ただ、ウロコは持ち帰りたかった。
「かまわんよ。それにウロコは大量にあるようだからな。うちに卸すのはベルトルトが持っとる分だけでいい。まぁ、もし売りたくなったら歓迎するがな。何せウロコヘビのウロコは良質な防具になるからのう」
ギルドマスターはそう言って笑うと、受付嬢の何人かを呼び、そして指示を出した。
僕たちはもう帰ってもいいということだったので帰らさせてもらった。
いつものように手を繋いで帰る道は、いつもよりも短かかった。
両親にウロコヘビの素材を全部投げわたし、僕はそのまま寝た。




