21 : 中層のナニカ
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楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
ランクアップするには、大きく分けて二つの条件を満たさないといけない。
一つ目が、依頼を一定数受けること。
力を個人が持つことが許されるのが冒険者だからこそ、ルールを守り、
他の職業とある程度同じように仕事へ向かう信頼度を示す必要がある。
二つ目が、次のランクに見合う魔獣を討伐すること。
例えば、ストーンからアイアンなら、ゴブリンがその代表格になる。
これは、もともと冒険者が魔獣の討伐を是として社会から許容されている職業であるというのが、
大きい。
要は、専門家として十分な戦闘力があることを示すためのものだ。
では、アイアンからブロンズならどんな魔物がいるのか。
これも、一体とは限らない。
地域によっては生息していない魔獣もいるうえ、
たまたまその魔獣と出会えないだけでランクアップができなくなるなんて欠陥制度もいいところだ。
そんな中で北の森に生息する魔獣は、ホブゴブリン、ポイズン・タランチュラ、そしてウロコヘビだ。
ホブゴブリンはゴブリンよりも一回り体が大きく、そのため膂力は大の男でも、
柔な鍛え方なら捻りつぶせるほどになる。
さらに知能はゴブリンよりも高いため、自然魔法や獣魔法など、人が使う魔法形態に近い形で、
魔法を使ってくる。
ポイズン・タランチュラはオークと同じくらいの体躯であり、
巣を張らない徘徊性の蜘蛛で動きは俊敏。
オークよりも素早く動き、またオーク以上に組みふされたときの力は強い。
また、その牙は動物を動けなくさせる毒が入っており、一度噛みつかれたら死ぬとまで言われる。
最後がウロコヘビだ。
身体が魚のウロコに覆われた蛇で、特徴は何と言っても、体が硬いことだ。
オークが硬化の魔法を使ったくらいの装甲が全身を覆っている。
大きさは全長十メートルから二十メートルで他の魔獣よりも一段とでかい。
ウロコのせいで移動速度は遅いが、
バネのように体を縮ませてから跳ねる尻尾や、噛みついてくる頭はその限りではない。
ホブゴブリンは多様な手札と、人の上位互換と呼ぶべき二足歩行の身体能力。
ポイズン・タランチュラは、俊敏性と毒。
そして、ウロコヘビは、硬さと攻撃速度。
どれも、突破できれば、いっぱしの能力があるとされるに十分な特性を持っており、
また、ホブゴブリンを除けば、二体とも死体が明確に素材としての価値を帯びる。
ルキトが倒したのはホブゴブリンで、パーティーで北の森の中層域から深層域にあった、
ホブゴブリンの集落を殲滅したらしい。
僕とネリは、その日、いつも通りの巡回路プラス少し範囲を広げて北の森を探索していた。
いよいよ、オークが浅い層にも出現するようになり、
ギルドも護衛依頼などで外部に出ることの多い高ランクの冒険者を集め始めていた。
ベルトルトさんも、たまにギルドに顔を出していたが、
『俺がもっと若ければ』と苦い顔をしている。
「ねぇ、何か一段と不穏な空気になってない?」
ネリが前を歩きながら、小声でつぶやく。
この世界の生き物は何も魔獣だけではなく、普通の動物もいる。
特に鳥などの生息域から多くの魔獣の脅威を逃げ切れる動物や、
虫などの数が多すぎて魔獣に食べられたところで絶滅しない動物などだ。
だから、森は魔獣が生息していても、そういった鳥や虫の声が聞こえる。
しかし、今日はそういった音が一切していない。
今までになかったことだ。
そして、ベルトルトさんの教えによれば、そういうときは『やばい奴』が潜んでいる、らしい。
ただ、僕とネリの仕事は自分たちが倒せなくても、場所と魔獣の特徴を報告すること。
引き返すべきかを迷いながらも、足は止めない。
遭難したとき、むやみやたらと歩き回るのは厳禁だが、
反対に、襲われるかもしれない状態で立ち止まるのもまた厳禁だ。
中層へと入ると、その気配はいっそう濃くなっていた。
もはや、他の魔獣の気配すらいない。
強く色濃い何かが、奥で静かにうごめいている。
ネリがハンドサインに切替えて逃げるかどうかを聞いてきた。
僕たちの強さはアイアンとしては十分なものだろうと思っている。
何せ、この二年でオークくらいなら一人でも倒せるくらいになっていたから。
僕は魔法を使って隙を作る戦法で。
ネリは柔軟な身体と瞬発力でベルトルトさんみたいに相手の攻撃の合間に切り込む戦法で。
それもコンスタントに繰り返していると、僕たちの肉体も強化されていく。
今ではスライムなら消化液を噴射させずに倒すこともできる。
そんな、より鋭敏になった感覚だからこそ言える。
目の前の敵は、こちらも死ぬことを前提にしないと倒せない。
相打ち覚悟で、二人とも、だ。
二年前にベルトルトさんが言った言葉が頭をよぎる。
『死んでもいいって行動するな。一緒に戦う者を危険にさらす』
でも、強い魔獣から逃げていたら、一生強くなれないのも、また事実で。
強くなるためには何度でも敵に挑戦できるこの『死んでも生き返るだけ』の能力は有用だった。
ただ、ネリが死んでもいいかと聞かれれば答えは否だ。
もし仮に挑むとしても、一人で挑もう。
僕は、帰ろうというハンドサインを返した。
ネリが頷き、前方に注意を払いながら、後ろ歩きで逃げようとしたときだった。
黒い鱗を持ったウロコヘビの顔がネリの眼前まで迫っている。
僕はネリを突き飛ばして、そのまま一息にかみ砕かれて死んだ。




