20 : 十二歳と貴族
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十二歳になった。
冒険者ランクは十一歳の頃にはアイアンとなり、
ネリはまだアイアンのため、同じランクになれた。
冒険者はベルトルトさんがシルバーであることからもわかる通り、
全員がプラチナやゴールドに昇れるわけではない。
それこそ、人によってはアイアンで生涯を終える冒険者もいる。
前世のスポーツ選手の全盛期が二十歳から三十歳であることと同じで、
しかも冒険者は命がかかっているから、
衰え始めたら引退か、後進育成へと携わる人も多い。
つまり、現実的には三十歳までがランクを上げられる期間となる。
成人である十八歳までにブロンズになれる冒険者は有望株である。
オークの討伐証明を持って、ギルドを訪れた僕とネリの前にルキトが立ちふさがった。
ルキトは先日十八歳になると同時にブロンズへと昇格しているから、
前評判通り順調に成長したともいえるだろう。
ルキトのネリへと誘いはいまだ尽きてはいなかった。
冒険者としても、そして一人の男としても。
ネリは十四歳となり、もうほとんど肉体は成熟しきっているようだった。
街中を歩いていても、周囲にいる女性と背丈は大差なく、
まだ、子供のような身長の僕とは段違い。
ただ、僕の方も体は成熟の気配を帯び、
前まで力負けしてたところでも、互角かたまに押しきれるようになってきていた。
二人で相手にするモンスターは、
オークを中心として北の森の中層に生息するものであり、
パーティー単位でみれば、ルキトのパーティーと同じくらいの力量であるといえる。
かといって、積極的に争いたいとも思わない。
冒険者同士の争いがご法度になっているわけではないが、
ギルド内では原則禁止であるし、罰則もある。
そうでなくても、同じ力量の相手と殺し合いをすればただでは済まない。
「どいてくれるかしら。あなたに用はないわ」
ネリはしつこく誘われ過ぎたせいか、ここ最近はルキトに対して明らかに邪魔もの扱いをしていた。
しかし、ルキトもルキトで若くしてブロンズになったことで気を大きくしたせいか、
誘うのをやめるようには見えない。
前まではベルトルトさんがいたから、まだマシだったけれど、
正式に冒険者を引退したため、もう一緒に行動はしていないから、
それもルキトがネリへのアプローチをやめない理由なのだろう。
「そうつれないこと言うなよ。昔からの知り合いだろ」
ルキトの顔は冒険者の中では整っている方であり、それなりに女性に言い寄られているのは、
僕もネリも何度も目撃していた。
しかし、そのたびに断っているのを見ているから、
ネリに対しての気持ちはそれなりに純粋だろうとわかる。
けれど、ネリは一向に振り向くこともなく受付へと足を進めた。
脇を通るとき、ルキトは僕を強く睨んだ。
仮に僕がいなかったとしても、ネリはルキトへは行かない気がするんだけど、
そんなこと言っても聞き入れるようには思えない。
そもそも、今もネリと僕は付き合ってるわけじゃないのだし。
受付嬢は、もう慣れたのか、このルキトとネリのやり取りに言及することなく、
淡々と手続きをしていった。
今、僕とネリが受けているのは、それこそベルトルトさんの後任とでも呼ぶべき仕事だった。
北の森の中層に入り、調査をして、
ゴブリンやオークなど倒せるものは倒し、そして連峰の麓、つまり森の深層の魔獣が出てきているようなら、報告する。
最初はアイアン二人で大丈夫かと言われることもあったけれど、
オークなどを定期的に討伐する様子を見せていたら、信頼されるようになった。
オークの強さは、ブロンズレベルだから、僕もネリもブロンズに上がる日はそう遠くないと、
ささやかれていた。
「いい加減にしてほしい」
ネリは帰り道、ぼそりと呟いた。
繋いだ手を少しだけ強く握りしめてくる。
あれからも、ずっと僕はネリから見たら庇護対象だった。
さすがに恥ずかしいからと、手を繋ぐのをやめようとしたら、盛大にごねられたのは、
記憶に新しい。
今でも、受付嬢などギルドの人たちからは姉弟のように見られているのも、
そういった行動が理由だろう。
ただ、僕もネリに、どう思っているのかを聞くのは怖いから聞けないし、
ということで、このような関係がなぁなぁなまま続けられていた。
「それは僕も思うけど、一度ギルドのマスターに注意してもらっても治らなかったんだから、
もうどうしようもなくない?」
ルキトがブロンズに上がった直後、強引にネリに迫ったことがあった。
ギルド内だったため、他の人にもみられていたから、そのとき受付に顔を出していた、
ギルドマスターに注意されていたのを覚えている。
そこから、手を握ってくるなどの接触は行わなくなったものの、
勧誘はいまだに続けられているのが現状だ。
そんなことがあり、またブロンズになったのを機にルキトの装備が、
アイアンだったら買えるわけもない金貨数十枚の高級品に変わったことにより、
一つの噂が囁かれるようになった。
ルキトは貴族の愛人の子供ではないか。
つまり、ブルーブラッドが流れているのではないか、という噂だ。
銀貨百枚で金貨一枚、銀貨一枚が日本円で五千円くらいだから、金貨一枚は五十万円だ。
ルキトが身に着けていた装備は合計で数百万円にも上る。
僕の家も商家だからわかる。
裕福な一般市民では説明がつかないのだ。
また、冒険者として頑張っているというのもないだろう。
オーク一体討伐してもらえる報酬は銀貨20枚くらい。
そこにお肉を売ったりなどをしても、それで銀貨50枚くらいだ。
オークは群れないから頻繁に遭遇するわけでもないし、
向こうは三人パーティーだから、ルキトに入るのは三分の一、多くても半分くらいだろう。
つまり、それで今のルキトの装備を揃えようと思ったら、
数年は貯金しないと無理だし、
それも月に何度もオーク級も魔獣と戦闘になり、かつ出費なしに勝たないと難しい。
ルキトが貴族の血が流れているかもしれない。
それが、ネリが邪険にはできても、強く出れない理由だった。
中世ヨーロッパに近い世情。
まだルキトが自身が貴族だと隠している間は別にいい。
けれど、それこそルキトのパパが出張ってくると、
もう駆け落ち同然に逃げる以外に平民ができることはなくなるのだ。
いつかは旅に出ようと話し合ってはいるけれど、
丁度いい機会、例えば護衛依頼など、もないし、
今は北の森の様子も不穏なため、ベルトルトさんの引退も重なって、
あまり王都から移動できそうになかった。
「それはそうだけど」
ネリは口を尖らせた。
ここ最近ではもう人前で滅多に顔を崩すこともなかったけれど、
二人のときは子供っぽい表情をすることも多い。
前世があるせいで、僕がネリを子供だとみるというのもあるが、
こういう態度や表情が異性を感じさせるのを阻害するというのも大きかった。
いっそ、付き合ってますと言えたなら、楽なんだろうけれど。
今のところ、その予定もなかった。
その日は、いつものようにネリをなだめて帰路についた。




