19 : 警告と生きる意味
読んでいただきありがとうございます!
毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。
楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
オークの肉は解体して、全部売ることができる。
柔らかく、そして旨味にあふれているのだ。
討伐証明部位はオークの蹄、そして小さな牙であり、
その他の部位は冒険者が好きにしていい。
切り分けた肉を持って僕たちは、最初の講習会の日に拠点にしていたスペースへと戻ってきていた。
そこで、ベルトルトさんが持ってきた塩を振りかけて、オーク肉のステーキを楽しむ。
今までの魔獣はどれも自分たちと同じか、それより小さな体だったが、
オークは間違いなく人全体と比べても体が大きい。
魔獣という脅威を強く感じさせる相手に対して勝ったというのは僕とネリに高揚感を与えていた。
いつものようにベルトルトさんから、問題点や良かった点を指摘され、
残ったオーク肉を包んで帰ろうとしたとき、
ベルトルトさんから呼び止められた。
ネリも残ると言ったけれど、しかしベルトルトさんは帰らした。
前世の経験から言えば、この状態で言われることに良いことなんてない。
ベルトルトさんの顔は怒っているわけではなかったが、
しかし楽観的なものでもなかった。
「なぁ、バン」
「はい」
少し前から、僕やネリはベルトルトさんに敬語を使い始めた。
弟子としてするべきだろう、と。
それが、前ほど気軽に話せなくなった原因だと思う。
呼び止められて、少しだけ萎縮してしまう。
「今さら、お前さんの能力にケチをつける気はねぇよ、俺だって」
月は夜風を運び、それが僕へと吹き付ける。
「だがな、だからって死んでもいいって行動するな。
それは一緒に戦う者を危険にさらす」
いまだに、死んでも生き返ることをベルトルトさんに明言していない。
けれど、初めて会った日に感づかれているし、高位の冒険者特有の感の鋭さもあって、
ベルトルトさんの中ではもう確定事項であることは明確だった。
そんなベルトルトさんが、経験から、僕の行動を非難していた。
おそらく間違ってないだろう。
でも、いつもなら素直に頷けるはずの指摘に、僕は返事ができなかった。
ベルトルトさんは頭を掻いて、深く息を吐いた。
「バンが焦ってるのは俺もわかっているつもりだ。
ネリやルキトの成長度合いと比べて、バンは相対的には弱くなってるってのもな。
年齢のせいで追いてかれる感覚もあるんだろう。
それに、今でも食い下がれるなら、同じ年齢になれば勝てるというのも気休めにはならんだろうから、
より強くなるためにってのは否定しない。
けど、その能力の特異性だけを強調して行動するのはやめろ」
そこまで言うとベルトルトさんは、僕の返事を聞かず、
いつもより優しく頭を撫でてくると、そのまま帰っていった。
南門は夜でも空いている。
だから、僕はその日、月が高く上るまで外にいた。
帰った時、両親にこっぴどく叱られたけど。
********************************
次の日はいつもなら修行に充ててるけど、
遅く帰ったバツとしてお店の手伝いと勉強をさせられていた。
家には一番上の兄であるガルーダが昨年に十八歳となり学園を卒業して、帰ってきていた。
父は、いずれ商会を任せることを前提に、商会長の仕事に兄を連れていくことが増えた。
今日は、特にそういったこともなく、
母の指令で二人して倉庫の片付けと備品のチェックをしているところだった。
「聞いたぞ、バン。オークを倒したんだってな」
昨日は夕食を伴にしなかったため、兄は先に寝ていたから今朝父か母から聞いたのだろう。
「まだ冒険者になったばっかってのにすごいな」
純粋に褒めてくれる兄は、いつもより口数が多かった。
たぶん、昨日怒られた僕を気遣ってくれているのだろう。
「死にかけたけどね」
どうして、そんなことを言ってしまったのかわからなかった。
そんな僕の胸中を知ってか知らずか、兄は気に留めることもなく会話を続けた。
「やっぱり、冒険者って大変なんだな。実は私も冒険者になろうって思ってた時期があってな」
「えっ、兄上が?」
「ああ。まぁ、読み聞かせてくれる童話は、冒険者になってどうこうって話が多いから、
そこに憧れたんだと思う。
けど、結局俺は冒険者にはならなかった。いや、なれなかったって言った方が近いな」
「どうして?」
確かに長兄ということは大きいだろう。
跡継ぎ候補として、両親が見ていたということも子供ながらにわかったのかもしれない。
でも、子供が真剣にやりたいと言って止めるような両親でもないはずだ。
「単純な話でな、子供の私にとってすれば、毎日走りこむことができなかった。
楽しい、かっこいい冒険には憧れても、それを支える地道な努力までしたいとは思えなかった」
母から同じ課題を出されていたことにも驚いたが、
それを兄が達成できなかったことにも驚く。
「だからな、バン。私は兄としてバンを尊敬しているんだ」
そこまで話した兄の耳は少し赤くなっていた。
そして、目線を手元の資料へ落とし、黙々とペンを走らせ始める。
そういえば、今まで尊敬なんて言われたことなかったな。
前世も今世も。
そうか。
よくよく考えれば、今も変わらずに朝走っているし、HIT も含めて体力トレーニングに余念はない。
寝る前の瞑想と、魔法を本格的に使うようになってからのイメージトレーニングもかかしていない。
大人でも三日坊主はあるのだから、僕は頑張っているほうではないか。
今世だけを考えれば、まだ十歳だ。
そこで、考えが止まる。
人並みに頑張っているというのは確かに素晴らしいことかもしれない。
でも、僕は龍を倒さないといけないのだ、と。
なのに、”人並み”でいいはずがない。
そもそも、何のために死んでも生き返る能力をもらったのか。
いや、そもそも、別に龍を倒さないといけない理由ってなんだ。
神に言われたから。
反故にしたら後が怖いから。
それは確かにある。
他にも、生きる意味が神から与えられたのだから、というのもある。
それが生きる意味だと超常存在から言われたのだから、もはや疑う余地もない。
けれど、僕は本当に龍を倒したいのか。
龍を倒さないといけない。
そこの部分を取っ払えば、間違いなく僕は気軽になれる。
なにせベルトルトさんに言われた通り、
十歳のルキトやネリに負ける気はしない。
かけた修行の時間分だけ僕の方が強いと思える。
もちろん、十歳のベルトルトさんに勝てたかと言われれば、
勝てる想像はつかないけれど。
今日だって、オークを二人係で倒せたんだし。
仮に、十歳とネリと十二歳のネリの二人だったら、オークに勝てたかは怪しい。
ただ、気軽にはなるけれど、同時になら何のために生きるのかも正直わからなくなる。
家族のために魔獣の素材を取って、そのまま安寧と商家の息子として生きるのか。
こんなこと考え始めても意味がないことはわかっているのに、
僕の頭はその日中、考えることをやめられなかった。




