18 : vs オーク
読んでいただきありがとうございます!
毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。
楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
冒険者に必要な装備は実はそう多くない。
山、森、海、そして迷宮。
環境的にも人死にが出かねてない過酷な環境において、
生き残るための術は魔法で集約されるからだ。
つまり、装備として必要になるのは、魔法だと効率が悪い。
または、魔法だと実現が難しい部類に限られてくる。
そもそも、いつ魔獣に襲われ、尻尾を巻いて逃げるかもわからないときに、
持ち歩くだけで一苦労な荷物を抱える人はいない。
まずは短刀だ。
着火の魔法で火を付けられるとはいえ、木くずがある方が火を付けるのに必要な魔力量は少なくなる。
短刀は一本あれば、木の枝を削って木くずを作ることができる。
また、食用の魔獣を解体するときなどにも重宝するし、
いざってときの自決用や、または隠し武器としても使えるとなれば、
用意しない手はない。
次が水筒だ。
飲み水は魔法でいいじゃないかとなるが、
環境によっては取水の魔法は水を作り出せないことで知られている。
そういう場所で出した水は一定期間で消失し、またそれを飲んだ人が急激に体調を悪くしたという報告もある。
だからこそ、取水の魔法が発動できる場所であらかじめ水を出しておくというのは、
サバイバルをするうえでも基本となっている。
そして最後が小さなリュック。
体を覆う背嚢レベルの大きさのものではなく、
もっとコンパクトな背中に密着させるタイプのものだ。
問った魔石を保管したり、都市間を移動する際に配達を依頼された手紙を入れたり、
または魔獣の討伐証明を入れたいもする。
大きなリュックを背負えばいいという意見もあるし、
実際にそうしている人もいないではないが、
基本的にそのリュックに収まる量よりも荷物を持つな、とは冒険者の金言の一つとなっている。
これらをベルトルトさんの勧めで僕たちは購入した。
いよいよ、本格的に冒険者活動が始まることを僕たちは予感していた。
装備を整えて、森へと入る。
スライムに出会ったが、危なげなく僕たちで倒す。
そうして、今までの散策範囲よりもより深いところへと足を踏み入れた。
ここ最近の陣形はネリが先頭で、僕は真ん中、ベルトルトさんが一番後ろで進んでいる。
森に浅い深いで明確な境界があるわけではない。
しかし、北の森に関しては深いところからは獣道以外がなくなるし、
また、木々の高さは浅いところに比べて二倍から三倍ほどになり、
周囲の土壌が生命力が溢れていることがわかる。
また木々の高さから森は開放的でありながらも、
しかし、日の光が木漏れ日以外で通らないことにより、
昼間にもかかわらず一段暗い。
肌をピリピリ指すような緊張感が僕たちに漂っていた。
森に入る前、ベルトルトさんは場合によってはシルバーランクでも簡単には倒せない魔獣も出る。
一瞬の油断が命取りになると語っていた。
そも、北の森の中層以降における最低推奨ランクはアイアンからだ。
最低推奨というのは、逃げるのに徹し、魔獣との戦闘も避ければ生き残ることができるラインのことだ。
間違っても、僕が立ち入って安全な場所ではない。
ただ、ベルトルトさんのお守りつきならば、全くもって危険ということでもないのは確かだ。
今回は、あくまでも少し散策をして、帰る予定だった。
予定はときとして、成立しないことも冒険者であれば知らなければならない。
雰囲気に吞まれながらも進んでいた僕たちにベルトルトさんが「避けろっ」と叫んだ。
咄嗟に横へと転がる。
灌木がクッションとなり、そこで体が止まった。
してはいけないのは、そのまま寝転がり続けること。
そして、しなければならないのは体制を立て直すとともに敵を確認すること。
起き上がりざま振り返ると、そこに立っていたのはオークだった。
豚のような顔に、お相撲さんのような筋肉の塊を感じさせる放漫な身体。
身体は猪のような毛皮をびっしりとはやしており、手や足には蹄が黒々と輝いている。
ブロンズランクに討伐依頼が出されるレベルの魔獣だ。
そして、オークの獣魔法は硬化。
身体の一部、または全身を硬くするシンプルな獣魔法。
ベルトルトさんは使えたほうがいいと教えてくれたけど、いまいち要領が掴めないでいる魔法だ。
硬くすることはできても、そうしたら動きが鈍るし、
逆に動けるようにすれば、硬さが足りなくなる。
これは前世の知識があることが仇となっている自覚があった。
ネリは比較的簡単にマスターしたから。
僕は保健体育の授業や、理科室の人体模型、そういったもので、
人の体の解剖図というのも義務教育課程で自然と見たことがある。
そのせいで、肉や皮膚が動かせるのに固くなるというのがピンとこないのだ。
オークの獣魔法はシンプルながらも、その肉体と突進という行動から強力なものになっていた。
単なる猪ですら人を殺すことができるのだ。
それが二メートルほどの体に、筋肉の塊の生き物が、
しかも体を硬化させて突進してくるのなら、それはもう軽自動車にはねられるのと変わらない。
硬化の魔法を使えるネリやベルトルトさんはともかく、僕はもう逃げに徹する以外にやれることがなかった。
試しに蜘蛛糸の魔法を放ってみるが、蜘蛛の糸が顔に当たった人のように、
少し煩わしそうにするだけで特に何の効果もない。
ベルトルトさんは、一応剣は抜いているが、しかし臨戦態勢には入っておらず、
あくまでも様子見を姿勢だった。
意味するところは一つ。
『お前らだけでやれ』
そもそも、ここまで足を踏み入れたのは、より強くなるためだ。
いま手だてがないからと言って、逃げてては話にならない。
オークは四股を踏むように姿勢を低くして、また突進してくる。
それを同じように躱そうとした瞬間、進路が曲がり僕の逃げる先へとオークが入る。
このままではぶつかる。
そう思った瞬間、手を引っ張られてしりもちをついた。
ネリが飛び出した僕を止めたのだ。
「大丈夫」
大丈夫かと聞くのじゃない。
大丈夫だと僕を安心させるようにネリは言った。
何もできないと消極的になって、
そして同じような攻撃だと油断して逃げたら捕まりそうになる。
これじゃあ、まるでオーク以下の知能しかないと言ってるようなものではないか。
考えろ。
最悪死んでも大丈夫なのだ。
あのオークを倒す算段を。
オーク自体を攻撃する魔法はない。
いや、まだ教えてもらってないだけで、硬化したオークをも荼毘にふす強力な魔法はあるだろうけれど、
しかし、僕は知らない。
なら、周辺の環境を。
そこで、二年前にゴブリンの集落を僕とネリが落とした際に、ベルトルトさんが死体の処理で使っていた魔法が頭をよぎった。
僕の一人での修行のときに行う魔法の練習はベルトルトさんが教えてくれはしなかったが、
しかし、使っていた魔法を使えるようにすることも含まれている。
だからこそ、穴掘りの魔法は今の僕は使える。
それも、砂遊びには日本人なら誰しもが格言を持っているのだ。
つまり、砂を固める想像なら、体を硬化させるよりもずっと容易に、強力に行える。
何も、落とし穴を作って、オークを罠にはめる必要はないのだ。
あれだけの運動量で移動する物体が、そのバランスを大きく崩す状況になれば、
勝手に自滅する。
それだけで大けがにはならないだろうけれど、それでも確実に隙ができる。
僕は立ち上がって、剣をしまった。
オークは僕が避ける先だった場所を通り過ぎて、獣道を横切る。
そして、また姿勢を低くした。
突進一辺倒に見えて、機動を柔軟に変えるほどにはオークは冷静だった。
だからこそ、今度は僕が他の人の助けを借りて避けるのも想定しているだろう。
ちょうどいい。
ここ最近、フラストレーションが溜まっていたんだ。
どうしてか縮こまってしまった頭と心をほぐすためにも、一か八か。
剣をしまった僕をネリは不信そうな顔つきで見た。
「僕が隙を作る。そしたら攻撃をして」
オークは喋り終わるのを待ってはくれない。
次の突進が来た。
魔法を発動できるギリギリのところまで引き付けて、
僕は地面に這いつくばる勢いでしゃがみ込む。
そして、オークの蹄くらいの深さの小さくて硬い窪みを作った。
下手すれば、蹴り上げられてる。
しかし、上手くいけばオークはその速度によって、盛大に転げまわる。
攻撃から目を逸らすなというベルトルトさんの教え通り、
僕は意地でも目を開けていた。
結果は、成功。
オークは前のめりになり、そのまま前方方向へと吹っ飛び、転がる。
木の太い幹をきしませて、止まるが、すぐには起き上がってこない。
ネリが最初にオークへと剣を突き立てた。
僕も剣を引き抜き、追撃する。
硬化魔法も発動後の持続時間があるが、
解けているかはわからないから、突進に使ったであろう正面以外のところに刃を入れる。
柔らかくはなかったが、それでも、修行し始めてから五年たった剣戟は、
無防備にさらされたオークの肉体へと浅くない傷をつけた。
オークが起き上がる前にと、二人でやたらめったら攻撃を加えたから、
どれが致命傷になったのかはわからない。
動かなくなったオークのまわりは血で水たまりができていた。
僕とネリは肩で息をしていた。
一歩間違えれば、ぺしゃんこになって死ぬかもしれない。
そんな中で振るう剣は、気安く振れるほど軽くて、くたびれるほど重かった。




