16 : レベルとリザルト
読んでいただきありがとうございます!
毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。
楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
ゴブリンから魔石を取り出し、
そして討伐の照明として、その耳を切り落とした。
魔獣の死体は死んでも残る。
だからこそ、使える部位を剥ぎ取り、武具にしたりもできる。
しかし、ゴブリンの体は人と組成が似ているところから、
武具にできるような場所はない。
骨は人の子供程度だから、やはりそこまで使い道がない。
そのため、基本的には火をくべて燃やすことが自然らしい。
ベルトルトさんはゴブリンの死体をできるだけ、細かくして火をつけた。
火を眺めながら、僕たちは一息ついていた。
「いい動きだった」
ベルトルトさんは、一言だけ僕たちを褒めてくれた。
これでいて、ベルトルトさんは人を褒めることはあまりない。
本人が独力でシルバーランクまで上り詰めたせいか、
『できるだろう』の水準が高いのだ。
僕とネリは思わず顔を見合わせた。
この嬉しさは同じ師の弟子である二人でしか共有できないから。
「ただ、反省点もある。まずはネリ。
最初のゴブリンを倒すとき、正面から突っ込んだのは減点だ。
いつも言っているが、正面は相手が武器を持っている側面から攻撃するよりも反撃を受けやすい。
バンが槍を持たせないようにしなければ、手酷いしっぺ返しを食らった可能性がある」
「はい」
ネリは静かに頷いた。
「まぁ、そのあと、バンの目の前にいる敵への攻撃ではできていたから、
今後は意識しないでも自然できるようにな」
「精進します」
「次にバン。まず質問なんだが、あの白いモヤモヤは魔法か?」
「はい。蜘蛛の糸を魔力で創造して、スライムの獣魔法で噴射してます」
「見事なもんだ。魔法は自然魔法と獣魔法が一般的だが、自然にあるものと獣魔法を組み合わせるなどは、している冒険者もいる。八歳であることも考えれば、十分だと言える」
「ありがというございます」
「ただ、魔法を前提に組み立てすぎて、剣士としての動きに精細さがない。
もし相手が魔法を放つよりも前に突進してきたら、どうするつもりだったんだ」
何も答えられないでいる僕に、ベルトルトさんは優しく諭すように続ける。
「魔法職が後衛と言われるのは、発動までのラグがどうしても発生してしまうからだ。
つまり、初手に魔法を選ぶと、必ず一手遅れる。
今回は相手がそれ以上に遅かったから問題なかったが、外れ値のようなゴブリンもたまにいる。
いわゆる特異魔獣って奴だな。
見た目で判断できないこともある以上、先手をむざむざと手放すな」
「わかりました」
話が終わる頃には、ゴブリンの体は炭化しており、僕たちはまた南門から王都へと戻った。
ベルトルトさんは討伐証明を持ってギルトへ行き、そして報酬を僕たちに渡してくれた。
「本当は二人の手柄にしてやりたいんだがな、まだ冒険者登録もしてない奴らを、
ゴブリンを倒させましたとすることは俺の立場が危うくなるからな」
そう言って、ベルトルトさんは笑った。
ただ、僕もネリもそこに不満なんてなかった。
冒険者として名を上げたいんじゃなかったから。
ネリの目的はわからないけれど、
強くなりたいという方向で僕と一致しているのはわかる。
日は傾き始め、西の空がオレンジ色を帯び始めていた。
ギルドから僕たちの住む区画まで移動する間、ベルトルトさんは自身の名前が掘られた、
銀の冒険者プレートを僕たちに見せてきた。
「二人はもうストーン級の冒険者の実力がある。それは俺が保証する」
それは、シルバーランクからのお墨付きであることを示す行動だった。
そして、今後の話が続いた。
「まず、ネリ。今九歳だが、もうじき十歳になる。そうなれば冒険者登録ができるが、どうする?」
それは、つまり僕と同じタイミングで登録しなくてもいいのか、という問いだった。
「します。私はもっと強くなりたいです」
ネリが宣言したとき、僕の肌は引き絞られるような錯覚を覚えた。
置いていかれたくない。
でも、待ってくれとも言えない。
「そうか。わかった」
ベルトルトさんはそう言うと、僕の方を見た。
「それで、バンだが、ネリが冒険者として活動し始めたら訓練相手がいなくなる。
もちろん俺が教えられる日はちゃんと教えるが、どうしたいとかあるか?
お前には魔法の才能がある。
蜘蛛の糸を出す魔法がいい例だ。
学園のために魔法の準備をするでも、冒険者の使う他の魔法を俺が教えるでもいい」
どうしたい、か。
龍を倒せるようになりたい。
強くなる目的は、それが全てだ。
別に地位が欲しいわけでも、名誉が欲しいわけでもない。
前世でも生きる意味なんて見いだせず、毎日だらだらと SNS をスクロールする日々だった。
けど、今世は神から龍を倒すという目標ももらった。
別に今のところ龍に恨みはないけれど、
しかし、この世界で龍に殺されないとも限らない。
戦争はあるし、魔獣も存在する世界。
さらには貴族や王族といった庶民が逆らうことのできない、
逆らってしまえば罪に問われ最悪死罪になるような世界。
まぁ、なればこそ、胸を張って答えられる。
「より強くなりたい」
ただ、正直魔法は自分でもどうにかなると思うから、
学園に行く気は起きない。
「どうして、強くなりたいんだ?」
これは僕とネリの二人に向けられた言葉だった。
「私は、もうバンをあんな目に合わせたくない。守れるようになりたい」
「僕は、龍を倒したい。龍のおとぎ話を聞いてから、ずっと思ってた」
「そうか」
そう、ベルトルトさんは笑い、それ以上は追及してこなかった。
「あ、ベルトルトさん。私、冒険者登録はするし、北の森での依頼も受けるけど、
でも、バンと修行する今は変えないからね」
「わかった。まぁ、正直そっちの方が師匠としては都合がいいからな」
「都合がいいって何?」
ネリは怪訝そうな表情で聞く。
別に責める意図はないのだろうけど、顔立ちの整った人が眉根をひそめると、
さも気分が害されたと言わんばかりの威圧的なものになってしまっている。
「二人とも、俺の身体能力が高すぎると思ったことはないか?」
そう言われ、僕とネリはハッとした。
前に二人で話していたのだ。
どれだけ走ったり HIT トレーニングをしたり、または経験を身に着けたとしても、
『人』として、その身体能力はどうなのか、と。
もちろん、僕やネリはまだ他の冒険者の戦闘を見たことがない。
しかし、前に軽くベルトルトさんが走った時はオリンピック選手よりも速かったし、
僕たちの持つ鉄剣よりも一回り大きい剣を小枝を振り回すようにぶんぶんと振っている姿は、
尋常ならざると思えるほどだった。
「訓練で鍛えられるのは、本人の基礎能力だ。
例えば、剣術を習えば剣を振るうのがうまくなる。
走れば、走力や体力がつく。
だがな、それだけでは俺のような動きはできない。
まだ解明されてないことだが、一般的には魔獣を多く倒したものの方が身体能力は高い傾向にあるんだ」
ああ、レベル制度が裏ではあるのか。
ステータスボードなんてものはないし、
誰かが君は何レベルだと教えてくれることもない。
でも、魔獣を倒すことでなにがしかの力が流入し、結果として身体能力が上がる。
「それに、魔力量もな。ただ、同じ魔獣をたくさん倒しても、身体能力の伸びには限界があるなど、
よくわからんことも多い」
そこまで聞いて、なんとなく話の方向性が見えた。
「つまり、これからは実践訓練を増やすってこと?」
「まっ、その通りだな。俺の弟子になったからには、できるだけ強くしてやる」
ミツミ商会の前までくると、ベルトルトさんは帰っていった。
「ネリが僕を守りたいと考えてたなんて知らなかったよ」
言ってしまうのは無粋と思いつつ、言わずにはいられなかった。
「私も、龍を倒したいなんて知らなかった」
言い返すようにネリは口を尖らせた。
そして二人で笑いあった後、ネリは僕の顔を真っすぐに見て言った。
「ねぇ、強くなれるかな」
「なるよ。だって、龍を倒したいからね」
僕も真剣な顔で返す。
「それじゃあ、またね」
そうして、スライムへのリベンジから、ゴブリンの討伐までを行った一日が幕を閉じた。




