15 : vs ゴブリン
読んでいただきありがとうございます!
毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。
楽しんでいただけると幸いです。
評価の方もよろしくお願いいたします。
森の奥へと入る。
一年前、スライムに殺された場所を通り過ぎ、さらに森の奥へと進んだ。
そして、ベルトルトさんは迷うことなく、獣道へと足を踏み入れた。
さっきは『おそらく』と言っていたけれど、その足取りは確実に目的地へと向かっていた。
僕は思わず剣の柄を強く握りしめる。
前を歩くネリも、僅かに動きが硬くなっていた。
ゴブリンは緑色の肌と、人のように顔の正面についた瞳。
犬のように鋭い牙を持つ醜悪な顔の持ち主で、
身長は今の僕と同じくらいの大きさだ。
スライムの次に弱いとされているが、スライムとは違って獣魔法を使わない。
にも関わらずゴブリンがスライムよりも強いとされる理由は三つある。
一つ目が知能だ。
だいたい五歳くらいの知能はあると言われており、
また集団で暮らすことから、文明らしきものすらも築くこともある。
二つ目が道具を使うこと。
文明レベルが狩猟採集民族くらいはあるからこそ、
火を使うし、また石器も使う。
武器によって自身の攻撃力を上げるのは人の専売特許ではなく、
ゴブリンも同様のことをする。
そして三つ目が集団で行動する点だ。
狩りも一体で行くことはほとんどなく、だいたい数体で固まって動く。
これも、単体としては弱い人が集団になって大物を倒すのと理屈は変わらない。
また、その生態も危険視されていた。
生物学はよくわからないけれど、
肉体をもつ生物は生け捕りにし、オスでもメスでも肉袋として生殖に活用する。
ゴブリンは自身の遺伝子を他の生物に植え付け、
他のゴブリンも同様にすることで、遺伝子を植え付けた複数のゴブリンが親となり、
子供が生まれる。
子供が生まれる過程でまず母体は死ぬため、囚われたら死を意味する。
そのような性質のため、ゴブリンに性別はなく、
また、子供は群れ全体で育てることになる。
さらに厄介なのが、ゴブリンは単一でも、自身のクローンを作り繁殖が可能なのだ。
ゴキブリが一匹いたら百匹いると思えと言われるのと同様で、
ゴブリンも一体いれば百体はいると思えと言われている。
ベルトルトさんが停止の合図を出した。
そして、しゃがむんで近づくように言われる。
今僕たちがいる場所よりも少し低い窪みに、ゴブリンの集落があった。
臭いは以外にもそこまできつくなく、動物園のような獣臭が充満している。
数はだいたい十匹前後。
「二人で行け。互いに互いの背を守れよ。危なくなったら俺が助けに入るが、基本、助けは
ないものと思え」
小声で耳打ちされ、そして、行ってこいと言わんばかりに背中を叩かれる。
僕とネリは顔を見合わせた。
ネリの顔は強張ってはいたけれど、しかし恐怖を感じているようではなかった。
むしろ、力を試せることにうずうずするような目の輝きが見て取れる。
ネリの目に映る僕はどうだろうか。
いや、考えても仕方がない。
今回はベルトルトさんの監視付きだから、仮に死んでも、囚われるということはないだろう。
それに、こんなところで足踏みをしている場合じゃない。
ネリに置いてかれたくない。
僕とネリは中腰になって、集落へと近づいていく。
下町のように糞尿の臭い。
窪んでいたから、臭いが溜まっていたんだろう。
茂みが途切れる直前で、僕とネリは止まった。
もう一度顔を見合わせ、ネリが片手で指を五本出した。
それが一本ずつ減っていく。
何がしたいのかはすぐにわかった。
指の数の減りに合わせて、僕も飛び出す準備をする。
それがゼロ本になったとき、ネリは茂みから飛び出した。
次いで僕も飛び出す。
一人五体。
もしも、ネリが大けがを負いそうになったら、僕は身代わりになろう。
ベルトルトさんがどこで助けに入るのかもわからないし、ネリに怪我もしてほしくない。
僕とネリは集落のボロ屋の近くに座って日向ぼっこをしていたゴブリンへと近づく。
ゴブリンの近くには鋭く削られた石の槍が置いてある。
ネリが切りつけている間、僕はその槍を足を使って、ゴブリンから遠ざける。
ゴブリンの首に剣を振り下ろすネリを尻目に、僕は自分から一番近いゴブリンへと駆け寄る。
振りかぶった鉄剣は無防備に背をさらすゴブリンの首を討ち据える。
血を吹き出しながら倒れるゴブリンを背に、さらにもう一体へと襲いかかった。
しかし、さすがに反応されたのか間一髪のところで避けられた。
そして、叫び声を上げられる。
聞きつけたゴブリンが建物から出てこようとしていた。
一年前のあの日から、僕は修行の時間を一日だけネリやベルトルトさんにも内緒で増やしていた。
そこで特訓していたのが魔法だった。
冒険者に師事している僕が魔法を使えても誤魔化せると踏んだから。
そして、何より、この若い子供の体だとやれることにも限度があるから。
チートはもらえなかった。
でも、前世の科学知識や大人だったときの論理力、想像力がある。
足りない出力も、魔力量も、使い方次第でカバーができる。
僕はスライムの獣魔法である噴射を、”魔力で創造した”蜘蛛の巣を弾にして発射した。
建物から出ようとするゴブリンは、蜘蛛糸に絡めとられて転倒する。
魔法で作った物質は、込められた魔力が消えると同時に消失する。
だから、ほんの数秒しか時間は稼げない。
けれど、その間に一対一なら勝率は上げられる。
そして、ゴブリンの危険性として上げた知能の高さは、
しかし、同時に弱点にもなりうる。
理解が追いつかないことに対する一瞬のフリーズ。
僕はそこを目掛けて鉄剣を振り下ろした。
ネリの方を見ると危なげなく、ゴブリンを地面に二体も転がしていた。
そして、僕とネリは狭い範囲で五体のゴブリンに囲まれる。
「さっすが、バンだね」
魔法を見たからなのか、ネリは純粋に褒めてくれる。
「そっちこそ」
僕は努めて明るく言った。
ゴブリンの首を打ち付ける感触が、まだ手に残っていて気持ちが悪かった。
スライムは人型じゃないし、食べられかけたっていうのもあって、殺すことにも抵抗はなかった。
しかし、ゴブリンは哺乳類チックな見た目をしている。
異世界とはいえ、元は日本生まれ日本育ちで、
また今世も商家のお坊ちゃんとして生きていた僕には滅入るものがあった。
でも、同じことをしたばかりの相手と言葉を交わすことで少しだけ心が軽くなる。
さぁ、あと五体。
ネリが地面を踏みしめる音が聞こえる。
僕も併せて、前へと蜘蛛糸の魔法を放った。
僕の正面にいるのは三体で、蜘蛛糸の魔法はそのうち二体に命中した。
しかし、相手も身構えて立っているせいか、倒れこむまではいかず、
被ったシーツから抜け出るように体をよじっている。
今の内にまずは僕へと向かってきた一体の槍の突きをさけ、頭を目掛けて横なぎにする。
頭蓋骨を砕く嫌な音とともにゴブリンは倒れたが、
蜘蛛糸から抜け出してきた二体が僕へと向かってきた。
しかも、飛び掛かるではなく、あくまで二体で連携して隙をつくように。
攻めあぐねていると、ネリが僕を隠れ蓑にして、
ゴブリンの横へと回り込んだ。
ゴブリンから見れば突然真横に現れたネリにギョッとして動きが止まる。
その間に僕はもう一体のゴブリンの槍の石器の部分と柄の部分とを連結する場所を掴んで、
後ろへと引っ張った。
虚をつかれたゴブリンは、そのまま僕の方へとよろける。
そこを鉄剣で切り伏せた。
ネリもゴブリンを殺しており、これでこの集落にいたゴブリンは全滅させることができた。
敵を倒したら回りを警戒。
ベルトルトさんの教え通り、僕とネリは念のため、
ボロ屋を剣で倒しながら、他にゴブリンが隠れていないかを探った。
全ての建物を壊し終わったとき、ベルトルトさんが近づいてくるのが見える。
「お疲れ」
ネリは僕に拳を差し出してきた。
僕もお疲れと返し、拳を当てた。




