14 : リベンジと北の森
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評価の方もよろしくお願いいたします。
移動時に剣はどこに収めるか。
ベルトルトさんの答えは利き手の反対側の腰だ。
片手で抜くことができ、抜刀時にそのまま目の前の相手を輪切りにできるためらしい。
しかし、訓練に際しては両手どちらもで剣を握ることを求められた。
曰く、もし仮に片手を失ったら剣が振れなくなる。
両の手どちらもで剣を振れれば生存率があがるというのがベルトルトさんの考えだった。
そしてもう一つ。
朝のランニングに剣を帯同するようにと言われた。
逃げるときに武器を置くことはあれど危険地帯なら少なくとも武器だけは、
手放してはいけないから。
通常は両手を振って走るランニングも、
その日から僕もネリも片手で剣の揺れを抑える走り方に変わった。
左右差がつくのも嫌なので、走る速度も上がってきたことから、今までのルートを二周するようになっていた。
そのおかげか、鉄剣は驚くほど手に馴染むようになった。
まだ、木剣ほどの速度では振れないけれど、それでも打ち合いくらいはできる程度だ。
そうこうして一か月が経ち、ついに北の森に入る日がやってきた。
その日の早朝、僕たちは南門の前で集まった後、ぐるりと王都を迂回する形で北の森へと入る。
門番をしている衛兵からみれば、僕とネリはまだ若すぎて、北の森に入ることを止められる恐れがあったからだ。
「今日の目標はスライムの討伐。
できればゴブリンくらいとは戦いたいところだが、そこら辺は二人の状態を見て決める。
気を抜くなよ。確かに一年前に比べれば格段に強くなっている。
だがな、北の森も、もう一年前とは違う。
テキトウなことをしていると死ぬぞ」
森に入る前、ベルトルトさんは振り返って僕たちを見た。
顔は真剣そのもので、前回の講習のときのような気を抜いた表情はしていない。
それにつられて、僕とネリも頭を切り替える。
そうだ。
前回、スライムにすら負けたんだ。
一年修行したからといって、今回簡単に勝てる保証はない。
それに、最終目標は龍なのだ。
スライムすら一人で倒せないのなら、先はない。
ベルトルトさんを戦闘にして森へと足を踏み入れる。
誰も何も発さず、習った歩法でなるべく足を立てないように静かに地面を踏みしめた。
森は前回が散策もできる公園だとすれば、
今回は猛獣が跋扈するジャングルのような重苦しさを放っていた。
スライムはそれなりに生息しているが、
しかし、群れでない分だけ、ゴブリンやフォレストウルフよりも、個体数は少ない。
ベルトルトさんが立ち止まり、ハンドサインで目標がいることが伝えられる。
一本の指を立てたならネリ、二本なら僕を指名することは前もって決めてあった。
一本。
つまり、ネリからだった。
ネリは鉄剣の柄を握りしめて、ベルトルトさんの脇を抜ける。
顔は真剣そのものであったが、緊張している様子は見えなかった。
人がどれだけ気をつけていても、
地面に一切振動が伝わらないなんてのは、まず無理だ。
ある程度近づいたところでスライムの方が先に気づき消化液をネリに向けて噴射した。
その速度は僕たちが魔法で打ち合うよりもずっと遅く、
水源が自身の体内の消化液なこともあり、範囲も狭い。
難なく避けたネリは、そのまま一息にスライムの懐に入り、
上から斜めに剣を振り下ろす。
スライムの膜はいとも容易く切り裂かれ、そして核は地面へと転がった。
あまりのあっけなさに、ネリは呆けた顔で僕たちの方を振り返った。
ベルトルトさんのグットサインを見たネリは僕の方へと満面の笑みでグットサインを送ってくる。
僕が返すと同時、ベルトルトさんはネリへと歩き出した。
ネリは大事そうにスライムの核、つまり魔石を懐にしまった。
さらに奥へと進むと、またスライムが現れた。
ゴブリンは集落を持っているため、群れから狩りに出ている個体を除いては、
基本的に単体で会うことはない。
スライムはそうではないから、テキトウに森を散策するとスライムに遭遇する可能性の方が高いのだ。
次は僕の番だった。
ネリは一年前のことを思い出したのか、不安そうな顔で僕を見た。
心配させたのは自分だけれど、僕はそんな頼りないだろうか。
ネリと同じ要領でスライムを倒した僕の顔は冴えなかっただろう。
ただ、それでも、心の内ではひとまずレベル1の魔獣は倒せたことに安堵の色が広がっていた。
川のほとりで休憩することになり、僕たちはけもの道へと入った。
またスライムに遭遇したが、今度はベルトルトさんが瞬殺した。
本当に瞬殺だった。
僕もネリも一度は消化液を吐かれたけれど、
ベルトルトさんに至っては振動が感知されない距離から一歩で踏み込み、
そして、そのまま切り捨てた。
まるでこれが手本だと言わんばかりの鮮やかな手並みは、
まだ僕たちとは圧倒的に差があることを示している。
そんなベルトルトさんですらシルバー。
さらに上にゴールドがいて、外れ値としてプラチナすらもいる。
なのに、龍は討伐されてない。
僕は、本当に勝てるのだろうか。
今のまま、修行を続けていて大丈夫なのだろうか。
川で休憩する理由は三つある。
一つ目は、取水の魔法を使わずとも大量の水が使えることだった。
水は煮沸すれば飲むことができるし、魔力も温存できる。
そして、二つ目は場所が開けており、見通しがいいことだ。
特に知能が高いフォレストハウンドを相手にするとき、囲われるのが最も危険らしい。
なればこそ、川を背にして、前方だけに注意を配ればいい状況は都合がいいのだとか。
三つめは、ある意味一番大事な要素かもしれないもので、会話ができる点だ。
もちろん森の中でもしようと思えば話すことはできる。
しかし、それは周囲の魔獣に自分たちの存在を知らせることにもなってしまう。
川の近くは、川の流れる音によって大声を出さなければ、探知されることも少ない。
前回は休憩中に襲われたこともあり、僕もネリも緊張していたが、
特に何も起こらなかった。
持ってきた食料を食べた後、ベルトルトさんは立ち上がった。
「二人とも、体力はどうだ?」
「大丈夫です」
僕もネリもそう答えて立ち上がった。
実際、気を張っていたことで多少の気づかれはあったものの、
体力だけを考えれば、普段の修行の方がずっと疲れるものだった。
「わかった。では、これからはゴブリンを探す。指示は都度出すが、もしゴブリンの集落を見つけた場合は、おそらく突撃することになるから、そのつもりでいろ」
気を引き締め直した僕たちは、そうしてまた森の中へと入っていった。




