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13 : 八歳と武器

読んでいただきありがとうございます!

毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。

楽しんでいただけると幸いです。

評価の方もよろしくお願いいたします。

八歳になった。


弟子になったあの日から、一週間の内半分を修行に捧(ささ)げてきた。


ストーン級の冒険者よりもずっと真面目に修行しているおかげか、

ギルドの受付嬢たちからも覚えも結構いい。


それに、僕もネリも着火の魔法、取水の魔法、発光の魔法は使えるようになったし、

体力だけなら、同年代には負けないレベルまで上がった。


まぁ、HIT だけは身体能力が上がると、

動ける量が上がるせいで、負荷は変わらないけど。


あれからも月に一回の講習会には参加している。


ベルトルトさんの弟子となったことで軽い雑用なんかもこなしている。


しかし、一度も連峰側の森へは足を踏み入れていない。


トラウマがどうとかの理由ではない。


危険だからという理由で一般市民の連峰側の森、通称『北の森』への侵入が禁止されたのだ。

理由は、一年前から徐々に魔獣の生息域が王都側へと伸びていること。


原因はわかっていない。


ベルトルトさんやストーンより一個上であるアイアン級の冒険者が何度も討伐に行っているが、

数週間後にはまた魔獣が巣を作られるほど、頻繁に魔獣が姿を見せるようになっているらしい。


北の森に出る魔獣は、スライム、ゴブリン、そしフォレストハウンドが主だ。


スライムは群れではないが、ゴブリンは集落を作るし、

フォレストハウンドは狼のように群れで狩りをする。


なぜ、魔獣の中では比較的弱い彼らが、わざわざ人の生息圏に近づくのか。

ここ最近の冒険者や市井(しせい)の人の口に不安とともにのぼる。


僕とネリも、あの日、スライムに負けた雪辱(せつじょく)を果たしたかったけれど、

なかなかその機会が訪れずにモヤモヤしていた。


「ねぇ、私たち、どれくらい強くなったのかな」


ネリと数合、木剣を打ち合った後の休憩中。


天高く流れる雲を眺めていたネリが口を開いた。


「わからない、よね。ベルトルトさんは、順当に育っている、って言ってたけど」


「他の冒険者の人とは模擬戦(もぎせん)、したことないもんね」


ネリはこの一年でぐっと身長が伸びていた。

元々は一年年上ということで少しネリの方が高かったが、

その差がさらに広がった。


スラっと伸びた手足は、打ち合いでリーチ負けすることが増え、

また、子供だから仕方ないけれど、

力もネリの方が強い。


何とか負けないようにと、勉強の進度を早めて修行時間を確保しているけれど、

それでも、黒星(まけ)の方が多い。


「さすがに、スライムの消化液噴射は避けられるかな」


ネリは手を平原に向けて伸ばし、そのまま水鉄砲のように水を噴射させた。

スライムの獣魔法である、水噴射だ。


水球を出す取水の魔法で水源を確保し、

そして水噴射で打ち出す。


互いに打ち合っては避けあうという訓練はベルトルトさんの指示で何度も繰り返した。

しかし、魔法においても、僕の分は悪かった。


魔法自体、女性の方が得意なのだ。

それに加えて、年齢と魔力量はある程度相関する。


前世があるおかげで思考力や想像力には自身があれど、

根本となる出力が足りてない状況のせいで、

魔法の打ち合いは引き分けになることが多い。


ネリとは一緒にいる時間が増えたことで前よりも仲良くなった。

多い時は月に二、三回、ミツミ家とラーロン家でディナーを共にすることも増えてきた。


なのに、どこか。


「やってるか?」


ベルトルトさんが、手を挙げて近寄ってきた。


「おはようございます!」


僕とネリは立ち上がって声を上げる。


「おう」


笑って応じるベルトルトさんは、最初は僕たちのかしこまった挨拶をやめてくれて言っていた。

しかし、他の人、それこそストーンの新人冒険者たちに示しがつかないからと、

僕とネリが強行して続けていたら、次第に何も言わなくなった。


僕もネリも、後ろめたさがあったから、せめて挨拶という形だけでもしっかりしたかったというのが大きい。


月謝(げっしゃ)として払っていた銀貨も、

受け取ったことにするから貯金しておけ、と言われている。


講習会で雑用はしているけれど、それ以外でここ最近忙しくなったベルトルトさんの役には立てていない。


一度、ネリや僕が両親の勧めで商会の商品を渡そうとしたときは、固辞(こじ)された。


この人を師匠に選んで良かったという思いと同時に、この人に何かお返ししたい。

そういう思いが僕とネリには溜まっていた。


「今日は、明日の講習会のために武器を買いに行くぞ」


ベルトルトさんに言われ、自分の家に貯めておいた銀貨の袋を持ってくる。


「バンもネリも律儀に月三枚貯金してるから、もう鉄剣の一つは買えるだろう。まぁ安物だけどな」


一年十二か月、銀貨三十六枚、日本円にして十八万円だ。

ただ、ベルトルトさんの言う通り、本当に安物になる。

見習いの習作をほぼ鉄の代金として買い取るようなものだ。


「そんなんで大丈夫なの?」


ネリが前を歩くベルトルトさんに声を上げた。


「うん、ああ。まぁ、切れ味は悪いが、切れないことはないし、それに何より新人冒険者にとっては最初の武器になることも多い性能だ。無茶しなければ問題ねぇよ」


そこまで言われれば僕もネリも引き下がるしかなかった。

前に一度、ネリと二人でどれくらいの値段で、どれほどの武器を買えるかを調べたことがある。


今の僕とネリのお小遣いはだいたい月に銀貨五枚程度だ。

銀貨三十枚くらい出せば、もっと切れ味のいい剣が買えることは知っていたし、

僕たちもそのつもりで、今日ついてきた。


命に比べれば武器をケチる必要なんてないはずなのに。


武器屋へ到着する。

ベルトルトさんは馴染みなのか店長と軽く談笑し、二振りの剣を持ってきた。

どちらも同じようなもので、僕の背丈よりは頭一つ分より、さらに短いくらいの長さだった。


「持ってみろ」


そう言って手渡された鉄剣は、想像していたよりは軽かった。

両刃のそれは厚みが薄く、全体として平ぺったい。


けれど、木剣に慣れた体にとっては重い。

水の中から出たときに感じる重力のような具合で、手の周りだけズンと押さえつけられたいる感じがした。


よくもまぁ、こんなものを振り回せたものだ。

素直に関心する。


鞘はベルトルトさんからのプレゼントという形で買ってもらい、

僕たちは再度平原へと来た。


「振ってみろ」


そう言われ、僕とネリは教わった素振りの型を始めた。

振り始めればさらに思う。


今もし、木剣で殴り掛かられたら僕は防げずに負ける。

戸惑っている僕たちを見て、ベルトルトさんは自身の刀を抜いた。


そして、剣を持って素振りを始めた。

舞と言っても差し支えないほどに無駄のない動きは、僕やネリの目標だった。


「切れ味のいい剣はな、同時に扱いが難しくなる。

刃が鋭くなれば、それだけ刃こぼれしやすくなるし、剣の耐久度も下がる」


舞を終えたベルトルトさんは少しだけ息を弾ませながら、語り始めた。


「それにな、相手に剣を奪われたら、そのまま自身のピンチを招くことにもなる。

だから、最初は安物の、悪く言えば切れ味の悪い、しかしよく言えば木剣と同じ要領で振れる剣がいいんだ」


剣をしまったベルトルトさんは僕たちへと視線を合わせた。


「一か月後、北の森へと連れていく。それまでにまずは、その剣を木剣と同じ速度で振れるようになれ」


「はいっ」


僕とネリの声は今朝とは打って変わってよく響いた。

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