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11 : 師匠と弟子入り

読んでいただきありがとうございます!

毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。

楽しんでいただけると幸いです。

評価の方もよろしくお願いいたします。

次の日、僕はいつものように早朝から走っていた。


思うところがあって、ルートを変えて、ミツミ商会の前を通る。


すると、昨日と同じ動きやすい服に身を包んだネリがいた。


「おはよ」


手を挙げて声をかけてきた。


澄んだ空気に、ネリの声が溶ける。


僕は近づいて「おはよう」と返す。


「私も、走るから」


ネリは僕が来た方とは反対方向に走り出した。


走った経験がないのか、フォームはガタガタだったけど、

足を止めようとはせず、振り返ることもなく一人でに黙々(もくもく)と進んでいく。


僕はネリの後を追った。


ランニングルートは下町に入らず、貴族街にも入らない、

いわば裕福な家庭の多い区画をぐるりと一周するものだ。


最近は体力トレーニングの大部分は HIT に任せていて、

ランニングは準備運動に近い位置づけだったから、

速度をネリに合わせて走った。


すでに息を切らしているネリの隣まで行く。


三叉路(さんさろ)などの分かれ道では、僕が先導するように少し前を走り、

ミツミ商会の前までぐるりと一周をした。


ネリは息は荒かったが、三十分近く走り続けた。


「次は?」


呼吸を整えたネリが僕に聞いてくる。


「まぁ、見ててよ」


僕はそのままミツミ商会の裏手の庭で HIT を始めた。

この世界にも腕立て伏せなど筋肉トレーニングの動作はそれなりに知られている。

しかし、さすがに HIT のようなに高負荷になるように計算された動きはない。


インターバル中にネリを見れば、困惑がありありと浮かんでいた。


おもしろくて、笑ってしまう。


「やらないの?」


僕が聞くと、迷いを打ち消すように首を振ったネリは「やる」とだけ言って隣に立った。


動作自体は簡単だから、もう覚えたのだろう。


そこから、僕は残り七セットを乗り切った。

今までも全力でやっていた。

けど、それだけじゃ足りないって分かった。


今日からは、昨日よりも早く大きく動くことを意識して。


そのせいで、終わる頃には立てなくなっていた。


ネリは地面に倒れ伏している。

仮にも商会の一人娘なのだけれど体裁(ていさい)はかなぐり捨てていた。


空が白み、街が起き出す頃、僕は家に戻った。

後でベルトルトさんのところに二人で行く約束をして。


懐かしい思いがした。


前世でも小さい頃は友達と口約束して集まっていた。


食後、ネリと落ち合ってから、冒険者ギルドに行く。


中では依頼を受ける人でごった返しており、それを遠くから見るようにベルトルトさんが座っている。


「おはようございます。ベルトルトさん」


僕が声をかける前から、ベルトルトさんは手を振ってくれていた。


「おう、おはよう。へこたれてなくて何よりだ。嬢ちゃんもな」


「おはようございます」


昨日、泣きわめいたところを見られてバツが悪いのか、ネリの声は小さかった。


「んで、俺になんかようか?」


「「弟子にしてください」」


二人して頭を下げる。


そうだ。

今までは親に師匠を見繕ってもらおうとしていたのだ。

昨日から何度も自分の甘さを省みている気がする。


「弟子って言ってもなぁ。講習会だけじゃ、ダメなのか?」


考えられる切りかえしだった。

一人一人弟子を取っていたら、ベルトルトさんだってパンクする。

それに、商売としてやるわけじゃないのなら、お金にもならない。


何より、僕たちだけをひいきしているとなると、講師の立場ではしまりが悪いだろう。


でも、簡単に引き下がったりはしない。

要は、対価を支払えればいいのだ。


僕たちは銀貨を三枚ずつ、二人で合計六枚差し出した。

日本円にして、三万円くらいの価値だ。


僕の今月のお小遣いの全額。

ネリはもう少しもらっているそうだけど、そこは合わせてもらった。


ベルトルトさんからすれば、高くない額。

元とは言え、上から三番目のシルバーランク冒険者だ。

しかも、左手の薬指が落ちているとは言え、五体満足で引退した御仁(ごじん)。


貯金を考えれば、月の酒代くらいにしかならないだろう。

でも、やはりお金とは誠意だと思うから。


「どうしたんだ、これ?」


これも当然来る質問だ。

市民の平均的な月収は銀貨三十枚。

その五分の一を子供二人が出したのだから、訝(いぶか)しむのも自然だった。


「私たち、実家が商家(しょうか)で、その手伝いしてるから」


「まだちっこいのに偉いな」


ベルトルトさんは笑うと「外で話すか」と席を立った。

門前払いにならずに済んでよかった。


外、というのは、そのまま王都の外だった。

今日は昨日とは反対の南門から出る。


南門は王都にとっての正門であり、主要街道につながっている。

見える先は平原で、遠くには森が広がっている。

連峰がないため、空が大きく広がっている。


吹いた風が、草花を揺らし、僕たちの頬を撫(な)でた。


街道から少し脇に逸(そ)れたところで、ベルトルトさんは止まった。


「今までも弟子にしてくれと言ってく奴らはそれなりにいた。

講師をやっているからこそ、他の冒険者よりも頼みやすかったんだろうよ」


そして振り返る。


「だが、俺は全部断ってきた。なんでかわかるか?」


報酬、じゃないだろう。

お金を気にするような人には見えない。


才能、だろうか。

しかし、才能がない相手であれば、下手に見過ごすと死んで帰ってきかねない。

単に師弟子(しでし)の関係を嫌ったとかだろうか。


僕がわからずにいると、ネリが答えた。


「つまんなかったから?」


うん?

どういう意味だろうか。


しかし、ベルトルトさんは「正解だ」と笑った。


「よくわかったな」


「毎日、冒険者を見てるから」


ネリはそう言って、自身がミツミ商会の一人娘だと話した。


「おぉ、まじか。お前さん、あの時の赤子か」


「会ったことあるの?」


僕が聞くと「おうよ」とベルトルトさんは頷いた。


「俺だって元冒険者だからな。王都にあるミツミ商会の本店にだって足を運んだことがある。

お前の親父さんとも短くない付き合いだ。いやぁ、しかし、もうこんなおっきくなってたなんてなぁ」


顎髭(あごひげ)をさすりながら「久しぶりに顔を出すか」と感慨(かんがい)深そうに呟いていた。


「あの、それより、さっきのはどういうこと?」


僕が聞くと「ん、あぁ」とベルトルトさんは僕の方を見た。


「冒険者やろうなんて連中は大半がアホだ。俺も含めてな。けど、そんな中で師を持つことの大切さを理解できる若い奴はそれなりに頭が回る。お前さんらも、その口だな」


一息置かれて、話が続く。


「ただな、そういう奴らが二言目に言うのは、効率だとか、より安全に、だとかばっかだ」


「それって悪いことなの?」


「いや、悪くねぇよ。利口だとも思う。実際効率はともかく安全第一は講習会でも口を酸っぱくして教えてることでもあるからな。だがよぉ」


ベルトルトさんは言葉を切って、刃物を抜いた。

大柄な体に似合う僕の体ほどもある大剣を。


その刃を僕とネリに向けて獰猛(どうもう)な笑みを浮かべた。


「目指してんのは”冒険”者、だろ?」


ああ、確かに。

たぶん、ベルトルトさんは効率を求めること自体は反対ではないのだろう。

しかし、気概も根性も見せずに、効率を語る人が冒険をするとは思えなかった。

逸脱者としてのプラチナランクを除けば上から二番目のシルバーまで上り詰めた夢追い人にとってみれば、教える気にならなかったのだろう。


抜いた大剣をしまったベルトルトさんは肩をすくめた。


「まぁ、その点お前らは合格だな。何せ、死にかけたのに、いや、坊主が ”死んだのに” それでも、まだ冒険者やろうとしてるんだからな」


僕たちは固まってしまった。

どうして、見られてたのか、と。


「俺をなめ過ぎだぞ、高位の冒険者であれば気づいただろうよ。

いいか、スライムはな、捕食が完了するとその場に一度留まるんだ。

なんでかはわかってないがな」


つまり、あのときスライムが動かなかったのは、

食べてたものがなくなって困惑したからじゃなくて、

単に食事が完了したと思ったから、ってことか。


「つまり、あの瞬間、どっちかが食べられてないとおかしい。

けど不思議なことにな、二人ともぴんぴんしていた。

んで、俺が聞いたのは嬢ちゃんの泣き声だ。

スライムに食われるのは他の魔物にやられるよりも激痛だと聞く。

食われている奴があげるのは痛みからくる悲鳴なんだよ」


僕たちが何も言えないでいると「脅かして悪かったな」とベルトルトさんは表情を崩した。


「別に詮索する気はねぇよ。事情も聞かない。それにさっきも言ったろ。合格だって」


そして、僕たち二人に向けて両手を差し出した。


「優しく教える気はねぇが、それでもよければ、よろしくな」


僕とネリは反応に遅れたが、その後すぐに飛びついた。

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