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10 : 敗北と現実

読んでいただきありがとうございます!

毎日更新を目指したいところですが、ぼちぼち書いていきます。

楽しんでいただけると幸いです。

評価の方もよろしくお願いいたします。

人は体の三割が火傷を負えば死の危険性が高まる。


また、血液量の三分の一を失えば失血死する可能性があると聞いたことがある。


つまり、両足を丸々食べられた僕は死んだ可能性が高い。


そう、おそらく僕は最初の死を経験したのだ。


意識がハッキリするにつれて、頭が動き始める。


周囲は真っ暗闇。


光もなければ音もない。


ただ、自分の意識だけがある。


突然、スクリーンのような形である風景が映し出された。


それは先ほどまで僕がいた森の中で、

僕の足はもう完全に溶けて亡くなっていた。


ネリが何度もスライムを木剣で叩いているが、

危険はないと判断されたのかスライムは黙々と僕の体を取り込み始めていた。


この後、生き返ると言われている僕はまだ冷静でいられる。

先ほどまでの痛みも恐怖も、この場所に来たら無くなっていて、

僕の死体に起きていることはどこか他人事のように感じられるから。


でも、ネリからすればトラウマものだろう。

僕だって、逆の立場ならそうそうに王都から出ない決断をしたと思う。


けど、それでもネリは僕を助けようと疲れた体に鞭(むち)を打って、

スライムの体を殴り続けていた。

泣き喚(わめ)きながらも。


その姿が痛々しくて、申し訳なくて、でもどこか救われた気がした。


さて、僕の生き帰りはどう発動するのか。

死んで過去に戻るなら嬉しいけれど、その場合どこまで戻れるかを確かめる必要があるのは面倒だな。


そう思っていた矢先、スクリーンに被せる形でポップなカウントダウンが始まった。


新年を祝うような気楽で明るい声が聞こえる。


カウントダウンがゼロになった瞬間、僕の目の前は光に包まれた。


僕が立っているのは森の中。


目の前にはネリがいた。


ネリは無我夢中でスライムを殴り続けており、

そして、当のスライムは突然消えた僕の死体に驚いて、体をゆさゆさしている。


マズイ。


近くにいるネリが狙われる。


ネリは僕の死体が消えたことも、僕が復活したことも気づいていない。


スライムがネリに標的を定める前に、何とか離れないと。


さっきと違って、逃げることができる。

僕はネリの木剣を持つ手を強引に掴んで、そのまま木陰へと走りだした。


木陰へと身を潜めた瞬間「大丈夫かっ」と講師の男性の声が聞こえた。

顔を出すとスライムはその内容物を地面に垂れ流し、その核は真っ二つに割られている。


「バン、なの?」


大丈夫だと答えるために立ち上がろうとしたら、

恐る恐ると言った声音のネリが僕の服の裾を掴んでいた。


今気づいた。


そうだ。

ネリからすれば僕はほとんど、もしくは完全に死んでいたはずだ。

それでもと、何とかしないといけないとスライムへの攻撃を続けていたのだ。


それが、なぜか自分を引っ張り木陰へと一緒に隠れたのだ。


気味が悪い。


そう思われても仕方がない。


振り返って答えることが僕にはできなかった。


ネリの顔を見るのが、僕も怖かったから。


僕は一人で出ていこうとしたら、突然地面に押し倒された。

ネリが飛びついてきたのだ。


背中からはネリの泣いている声が聞こえた。

手は震えていて、それでも何度も「良かった」と安堵(あんど)の声が漏らされる。


「ネリ、ごめん」


聞こえてないかもしれないけれど、それでも謝らずにはいられなかった。


ネリが泣いたことで、講師の男性が僕たちに気づいて、

近づいてきた。


「無事だったか」


ホッとした顔で講師は僕たちの方を見下ろしていた。


「スライムが赤くなってたから、食われちまったのかと冷や冷やしたぜ」


もう四十近いと聞いたけれど、

講師の男性は若々しく笑った。


「最初から赤かったので」


生き返る力のことは言えない。


僕が起き上がるとネリも一緒に立ち上がった。

ネリにもあとで口止めをしないと。


「そっか。まぁ早めに引き返してきて正解だったな」


「なんかあったんですか?」


「いやな、いつもよりも浅い位置でゴブリンがウロチョロしているのを見かけたからな。いいかボウズ、森では異変を感じたら即時撤退(そくじてったい)。安全確保。これが生き残るためのルールだ。嬢ちゃんを心配させたくなければ覚えとけ」


乱暴に頭を撫でる講師の男性は「無事だったぞ」と声を上げた。

その後、全員が拠点に集まり、そして王都へと戻った。


糞尿臭い街は、しかし壁に囲まれているという安心感がある。

どうして、衛生的でない王都に、それでも人が留まるのかがわかった気がした。


ギルドで解散するとき、講師の男性に「早くに恐怖を知った人間は慎重になれる。いい冒険者になれるぞ」と僕とネリは励(はげ)ましの言葉をもらった。

また講師のもう一人の講師である受付嬢の人には謝られた。


ギルドから僕たちの住む区画へと二人で歩いた。

空には夕焼けが広がっており、夜の冷たさが肌に触れ始める。


「ネリ」


分かれ道で僕が呼び止めると、ネリは振り返った。

目はまだ赤く腫れている。


「怖い思いをさせてごめん」


「私こそ、ごめんなさい」


少し間をおいて、ネリも謝ってきた。


「私が、あのとき」


そこまで言って、また泣き出す。

しゃくりながらも話された内容をまとめると、

自分のせいで死んだかもしれないと思うと、怖かった、ということらしい。


八歳の少女をここまで追い詰めたことが情けない。

心の内側からじわじわと悔しさがこみ上げる。


気づいたら一緒になって僕も泣いていた。


二人が落ち着いた頃には日は完全に落ちていた。

どちらも何も言わず手を繋いでミツミ商会まで歩いていく。


別れ際、ネリは僕の方を見て言った。


「大丈夫。言わないから」


その後ろ姿は、どこか頼もしく見える。


家までの間、僕は今日起きたこと振り返っていた。


初めて戦った。

初めて死んだ。


いい日とは言えないけれど、でも糧(かて)にする以外に道はない。


まさか、最弱の魔獣と言われるスライムすら倒せないなんてなぁ。


いや、もちろん外の膜を切り裂けないと以外に倒しずらいということはあるだろう。


でも、例えば、創意工夫で倒しきるとか、

そうだ、魔法を使ってどうにかするだとか。


もっといろいろできたはずなのに。

もし、生き返る能力すらもらえていなかったら、

僕の転生した命はここで終わっていた。


ネリを見捨てていれば助かったかもしれない。

しかし、それはネリが僕の代わりに死んだことを意味する。


軽く考えすぎていたのかもしれない。

魔獣を倒すということを。

そして、龍を倒すということを。


生き返る能力もただ生き返るだけだった。

もしも勝てない相手に囚われたら。

もしも生き返ってもすぐ死ぬ状況に陥ったら。


考えただけでゾッとする。

もっと修行をしよう。


とりあえずは、あの男性の講師・ベルトルトさんに師匠になってもらおうか。

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