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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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9/31

暴風のような皇太子

 翌朝、爽やかに目覚めた私はご機嫌だった。

 何しろ、髪はおろしたまま、服もエンパイアドレスでゆったりしている。

 本日はアストラル皇国にむかう予定だったから、魔のフルコースを密かに覚悟していたのに杞憂だった。


 私はセレスティア王国の最後の時間を、リリア王女と過ごすことが出来た。

 リリア王女が朝食に招待してくれたのだ。

 勿論、セレスタイトも一緒だ。

 三人での和やかな朝食。

 会話も弾もうと言うものだ。


「朝日に映える海と街並み。

 やはりセレスティア王国は、とても美しい国だわ。

 こうしてテラスで食事するのは、やはり最高の贅沢だと思うの」


 私があまりにもセレスティア王国の海を褒めるので、セレスは少し嫉妬したようだ。


「僕の父上が娘の為に作ったヴァレンティノ城は、とても美しいぞ。

 何しろ龍の娘は、将来の皇后候補だ。

 その娘たちの為に作った白亜の城は、なんと湖の真ん中にあるんだ。

 海と見まがうばかりの広い湖に浮かぶ白亜の城。

 想像してみろよ!

 美しいだろう?

 対岸には空中回廊を使って渡るのだぜ」


「それはとても素敵だわ。

 行ってみたいわね」


「それならアストラル学院が、お休みの時に里帰りしようよ。

 僕もまだ行った事がないんだ」


「まぁ、行った事も無いのに、そんなに自慢していたの?」


 リリに揶揄われて、セレスは言い返した。


「映像でなら、何度も見たんだ。

 美しいのは本当さ」


「セレスはとてもお父様を、尊敬しているのね。

 でもお父様のお話はよく聞くのに、お母様の話はあまりしないのね」


「母上と仲が悪いわけじゃないんだ。

 ただ母上は僕の顔を見ると、お小言ばかり言うからさ」


 リリの目がキラリと光った。

 獲物を見つけた目だ。


「ねぇ、一番最近では、どんなことで叱られたの?」


 よせばいいのに、セレスは馬鹿正直に答えてしまう。


「番を迎えに行って、うっかり死なせかけた事かな。

 番を死なせそうになるなんて、前代未聞の珍事件だ。

 龍の世界で、笑いものになっても可笑しくない。

 って叱られて。

 しかもその後、延々と僕の昔の失敗を引っ張りだすんだ。

 女ってそんなところあるよな。

 昔の事を、いつまでもグチグチと言うんだよ」


 それを聞いて、リリアは大笑いをした。

 お腹を抱えて、ヒイヒイと笑っている。

 目には、涙までためている。


「ねぇナナ。今の話は本当なの?」


「事故だったのよ。

 セレスが私の近くに着地したんだけれど、突風にあおられて転んでしまったの。

 きっと打ち所が悪かったのね」


「本当に、やっちゃったんだぁ」


 全くもう。

 これでこの話は、きっとあっという間に、広まってしまうだろう。

 何しろ大公の恋物語まで、吟遊詩人が広めてしまうお国柄だ。

 龍の滑稽話なんて、格好のネタだろうから。


 そう言えば


「ねぇリリ。龍って、この世界ではみんな知っているの?」


「うーん。昔はただのおとぎ話だったのよ。

 ところが、厄災の15年があったでしょう。

 あの時、人間を守って負傷した黒龍さまを、多くの人が目撃したの。

 それまで龍が秘匿されていたのは、魔法使いに対する偏見を懸念したらしいけれどね。

 昔と違って今では、魔法使いは憧れの対象だから、公になったみたいよ。

 龍と龍の娘を守る公爵家の事は、皆知っているわ。

 そのおかげで、人間も魔法が使えるってこともね」


「でも魔力では、神龍さまが一番強いと聞いているわ。

 厄災の15年の時、どうして黒龍さまが戦ったの?

 神龍様の方が、強いのでしょう?」


「それなんだけれど。

 黒龍は、古龍ともよばれているの。

 理由は、太古からの知識を保有しているから。

 ノア老公は、時の女神と対峙するには、古龍の知恵が絶体に必要だと思ったの。

 その時、たまたま運が悪いことに、どちらの龍も赤ちゃんを抱えていた。

 龍の赤子に、龍に成り代わって魔力を与える事ができる人は、今の皇后陛下、セーラ様しかいなかったのよ。

 だからノア老公は、黒龍の方を選んだのね」


 なるほど、青龍は武力特化型。黒龍は知恵特化型なんだ。

 セレスを見ていても、知恵がまわるようには見えないものね。

 その猪突猛進なところが、可愛いのだけれど。


 でも大丈夫かしら?

 フィクトス公爵家に、養子に入って。

 振り回される未来しか見えない気がするけれど。


 その時、アストラル皇国の使者が見えられました。

 という声と共に、アストラル皇国の皇太子が入ってきた。

 何故皇太子殿下だと判ったかといえば、後ろで近侍が叫んでいたからだ。


「皇太子殿下、王女様の私室に、勝手に入ってはなりません」と。


「やぁ、お邪魔するよ。

 リリア王女。お久しぶりだね。

 僕の立太子式に、わざわざやって来られて以来かな」


「まぁ、ローラン皇太子殿下。

 相変わらずの傍若無人ぶりですこと」


 二人の間に、バチバチと火花が散っているのが見えるのは、気のせいじゃないと思う。

 ローラン皇太子殿下は、さらりとリリア王女の皮肉を無視して、セレスに話しかけた。


「やぁ、青龍セレスタイト様。

 この度は我が国の守護を引き受けて頂いて、ありがとうございます。

 これからよろしく頼むよ。フィクトス公爵」


「公爵?

 僕は公子になるはずでは?」


「どこも後継者不足で大変なんだ。

 フィクトス公爵も同じさ。

 戻れば爵位の任命状があるから、確認してくれ。

 すぐに戻るぞ。

 仕事が山済みなんだよ。

 本当に助かるよ。君が来てくれて」


 セレスが唖然として、棒立ちになっている。

 ローラン皇太子の標的が、私に移った。


「貴女が、異世界人のナナだね。

 よろしく。僕が兄のローラン。

 お兄さまと呼んで欲しいね。

 妹からお兄さまと呼ばれるのが、夢だったんだ。


 ところでナナ。

 君、書類仕事の経験は?

 経理専門?

 それは助かるな。よろしく頼む」


「なんだい?セレス。

 君も兄上と呼んでくれて構わないよ。

 どうせ妹と結婚するんだろ?

 仕事?

 あぁ、そうだね。急ごう。

 何をごちゃごちゃと言っているんだ。セレス。

 もう行くよ」


「あぁ、リリア王女。

 女王陛下には、君からよろしくと伝えて置いてくれ。

 それじゃぁ」


 あっという間に転移した先は、皇太子執務室だった。

 皇太子に出会ってから、ここまで2分も掛かっていないと思う。


「ただいま。

 あぁ、彼が若きフィクトス公爵だ。

 叙任状を渡して、執務室にご案内して、早速引継ぎをお願いするよ」


「ちょっと待て!なんでフィクトス公爵の執務室が、皇城にあるんだ!」


 何とか皇太子の話の隙間に、入り込んだセレスが叫んだ。


「何言っているの。フィクトス公爵が漆黒の梟の長で、皇都の執政官だということ位、知っているだろう?

 それなら執務室が、ここにあるのは当たり前だ。

 あぁ、公爵家に戻る必要はないぞ。

 そんな時間は無いからな。

 君の宮も用意してある。

 外宮になるけれど我慢してくれ。

 さすがに内宮は皇族専用なのでね」


「君の秘書官だ。

 3名用意しているから、好きに使え。

 どうせ漆黒の梟の副官は、君の執務室で待っているだろうから、話なら副官と詰めてくれ」


 抵抗むなしくセレスは執務室に連行された。


「さて、ナナ。

 君には皇女の勤務をしてもらうことになる。

 結婚後も身分はそのままだ。

 なにしろ人手不足でね。

 君の仕事は主に福祉関連と教会関係だね。

 今までは母上が担ってきたけれど、なにしろ母上も忙しくてね。


 本当に助かるよ。

 妹なんて便利なものが出来て!

 しかも異世界人だろ?

 異世界人は社畜、いや失礼。勤勉で有名だからね」


 今、皇女の勤務と言いましたか?

 皇女って身分ではなくて、お仕事だったんですね?

 異世界人が社畜なのまで、知られているなんて!

 今までの異世界人は、何をやって来たんだ!

 次にやってくる人の事も、考えて欲しいものだ。


 しかも妹を、便利呼ばわり。

 だから不安だったんだよ。

 黒龍って絶対に腹黒しか生まないのな。

 ローラン皇太子を見て見ろよ!

 ありえないぐらい真っ黒じゃないか!


 しかも隠す気全くなし。

 こっちの反応まで楽しんでやがる。

 もう嫌だ。

 お家に帰りたい。

 お家ってどこだろう?


 ぼんやり考え込んでいる暇はなかった。

 皇太子のマシンガントークは止まらない。


「ナナの執務室は、皇女宮に用意しているからね。

 あぁ、気にしないで。

 元は第一皇子だった異世界人のソラが、使っていたんだ。

 また利用できるようになって、助かったよ。


 それで、福祉関連はノアロー自治区の区長との折衝が多くなる。

 あそこは福祉の先駆けなのでね。


 大丈夫だよ。

 ナナは皇都だけ見てくれればいいから。

 フィクトス公爵が皇都の執政官だしね。

 二人で皇都を守ってくれれば良い。


 国関連は、皇后陛下の管轄になるけれど。

 予算と人員の三分の一は、皇都が占めているから、仕事は十分にあるよ。

 あぁ、そうだ。

 ノアロー自治区の区長を、2時間後に呼んでいるから、そっちに行くと思う。

 後2時間で基本的な知識は入れて置いてね。

 あの区長は、かなりのやり手だから用心して。

 食われないでね。

 予算は限られているんだ。

 分からなければ、返事は後日にまわせ。

 くれぐれも、言質だけは取られるなよ。

 分かっているな!」


 そう厳命した皇太子の目が真剣だったので、私は必死に頷いた。

 これ、失敗したら殺されそうだ。

 言質絶対にダメ!

 私は心に刻み込んだ。

 それを見て取った皇太子殿下は、優しそうな声で言った。


「流石に、僕の妹だけはある。

 呑み込みの良い子は、好きだよ。


 区長の件が片付いたら、昼食は皇后陛下とご一緒してくれ。

 そこで色々ご指導して貰える。

 ナナが慣れるまで、皇后陛下の昼食はナナと一緒だ」


 お忙しい皇后陛下のランチタイムを、ひとり占めすることが、どれほどの恩寵なのか、私は後日に知った。

 何しろランチタイムは、ビジネスランチが主流で、皇后陛下のランチタイムは、多くの予定が入っていた。

 それなのに、不慣れな養女の為に、2週間ものビジネスランチを、キャンセルして下さったのだ。



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