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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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晩餐会

 晩餐会は、そら覚えのマナーとの格闘だった。

 セレスとは向かい合わせ。とはいえ話が出来る距離じゃない。

 そうだよね

 一応私たちが主賓なわけだから、それぞれが社交しないといけない。

 どうせコルセットのせいで食べられないのだから、それはいいとしても、両隣からにこやかに話しかけられてしまうのですよ。


 まだ、何も教わっていないのに。

 セレスは学院でゆっくり学べば良い、とばかりに放置だったのに。

 セレスティア王国について知っているのは、海がきれいな事くらい。

 それでどうやって会話が出来ると思う?


 とりあえずリリア王女が、1つ隣にいて私に話しかけようとする人を、けん制してくれている。


「まぁ、ジェラルド叔父上。ナナミ様はまだ社交界デビューの前ですのよ。

 大公としてアストラルの皇族が気にかかるのは判りますけれども、ナナミ姫もお困りですわ」


 ナイスアシストだよ。リリ。

 これで隣のおじさんが、女王の兄弟で大公だという情報を得ることが出来た。


「いいえ、リリア王女殿下。大公殿下とお話できるなんて光栄ですわ。

 大公殿下も、セレスティアの海はお好きですの?」


「あぁ、セレスティアの海ほど美しいものはないと思うぞ」


「さようでございますね。

 私どもが参りました時は夕刻でしたが、朝日を浴びた海も美しいのでしょうね」


 何とか会話らしいことは、出来ているかな。

 無難な会話って、天気と食べ物、お国自慢と、あと何だったっけ?


 うわぁ、隣のおばさまも参戦してきたよ。

 誰だよ、この叔母さん。


「伯母上も、今日は一段とお美しいですね。

 大公殿下が熱烈に求婚しただけは、ありますわ」


 リリアが声を張ってくれた。

 恩に着るよリリア。


「はい、お美しい方だと、実は見惚れておりましたの。

 ではこの方が大公殿下が熱愛していると噂の……」


 最後は濁すしかない。

 そんな噂聞いたこともないしね。


「あら、お恥ずかしい。アストラル皇国にまで知れ渡ってしまうなんて!」


「当然だな、侯爵家の紅薔薇を知らぬ者がいる訳はない。

 我等の恋物語は、吟遊詩人の格好のネタになっておるからのう」


 大公殿下が鼻高々に教えてくれるから助かっているけれど、もうヤダ、いつまでこんな社交辞令を続けなきゃいけないの?

 一番苦手な分野なのに。

 私は、少し気分が悪くなってきた。


 空腹、コルセットの締め付けで息が浅いこと、食事の場に香水を振りかけている人が多すぎる。

 緊張もあったけれど、頭がくらくらしてきた。


「失礼。女王陛下。婚約者の気分がすぐれぬようです。

 退出の許可を頂きたい」


 セレスの言葉に、女王陛下は私を見た。

 自分でも脂汗が流れているのが判る。

 多分顔色も悪いのだろう。


「確かに、相当具合が悪そうだ。

 すぐに休ませなさい。侍医を派遣しよう」


「感謝いたします、女王陛下」


 その言葉を聞いて、堪えていた気力が途切れた。

 身体がぐらりと揺れるのが判る。

 落ちる!と思った時、セレスが私の身体を抱え上げた。

 そしてまっすぐに、部屋に連れ帰ってくれた。


「ゴメン、セレス。

 私、無様な真似を……」


「黙って!ナナが謝る事じゃない。

 僕が悪い。

 先に君に教育を受けさせてから、連れ出すべきだった。

 こんなことになったのは、全部僕のせいだ。

 だから気にするな」


 部屋に戻ると侍女たちが大慌てで、寝間着に着替えさせ、化粧を落とし、身体を拭いてくれた。

 そうして、冷やしたハーブティを飲ませてくれたので、すっかり楽になった。

 その最中にも侍医の方が顔色を見ただけで、薬を飲ませてくれていたから、それが効いたのかも知れない。


「落ち着かれましたか?

 少し、熱がありますし、脈も弱い。

 お疲れが出たのでしょう」


 侍医は私にそう説明し、侍女たちには、こう言った。


「消化の良いスープや口当たりの良い果物などを差し上げなさい。

 落ち着けるように少し灯りを落として、皆は退出した方が良かろう。

 セレス公子がお世話をした方が、姫も落ち着くだろう」


「しかしいくら婚約者とはいえ、未婚の姫と二人にする訳には、まいりません」


「判ったから、隣の部屋に控えなさい。扉を開けておけばよいだろう」


 侍女たちがしぶしぶ引き下がったので、私はほっとした。


「ありがとう、セレス。

 だいぶ気分が良くなったよ。

 晩餐会で主賓が途中で抜けるなんて前代未聞だよね。

 社交ひとつまともにこなせないなんて、申し訳ないわ」


「いや、よくやっていたよ。

 何の情報も持っていないのに、僅かなリリアの情報だけで、よくもあそこまで会話が続いたものだ。

 僕は感心していたのだよ」


「でも困ったなぁ。明日は移動でしょう?」


「心配しなくてもいいよ。

 どうせ使者は、簡易転移門を携えてくるはずだから。

 転移ですぐに皇城に入る。

 ナナの負担にはならない筈だ。

 ナナが倒れた情報も入ったろうから、移動したら、すぐにベッドで休むといい」


「そんな!

 皇帝陛下をお待たせして、休むなんて出来っこないわ」


「構わないさ。

 だってナナは皇帝陛下の養女になるからな」


「なに言ってんのよ。ありえないでしょう。」


「仕方ないんだ。前回の無効化持ちも、皇子にされたしな」


「だってセレスは言っていたじゃない。

 フィクトス公爵家に皇女は降下しないって!」


「ナナは僕と結婚できないと思って心配してくれているの?

 嬉しいなぁ。

 正確には皇家の血をフィクトス公爵家には入れないだ。

 ナナには皇家の血は一滴も入っていない。

 養女にしても皇位継承権は持たない。

 だからフィクトス公爵家に降嫁するのに、何の問題もない」


「意味があるの?

 結局フィクトス公爵家に嫁ぐのでしょう?」


「政治ってそういうものなんだよ。

 僕だって、ヴァレンティノ公爵家からフィクトス公爵家に養子に入るんだぜ。

 龍にとっては意味のないことなのにさ」


「まぁ、後100年もすれば黒龍が復活するから、心配するな」


「いくら何でも100年後には、私は生きていないわよ。

 龍じゃないんだから」


「確かにナナは龍ではないけれど、龍の番だろ。

 だったら寿命は僕と同じだよ。

 第一、番が死んだら龍も死ぬから、それを狙って番を殺そうと呪った奴まで過去にはいたんだぜ」


「ちょっと待って。聞いてない。

 何それ?私が死んだらセレスも死んでしまうの?

 そんなの、うっかり死ぬことも出来ないじゃないの」


「えっ?番だって何度も言ったよね」


「そもそも、番とは何ぞや?

 まずは其処からでしょう?」


「そうかぁ。ナナは本当に何も知らないんだな。

 なんか新鮮だよ。みんな知っていると思っていたから。

 番というのは龍の伴侶。

 龍は番を見つけると、自分の逆鱗を剥がして番に贈る。

 それで番は龍の庇護を受けることになる。

 簡単に言えば、こういう事だ」


「私は逆鱗なんてもらっていない……。

 もしかして私が死にかけた時!」


「うん、なんか番の気配がするから、探しに来たら番が死にかけてて。

 びっくりしたぜ。

 どこに番を殺す龍がいると思う?

 慌てて逆鱗を付与して、回復魔法も重ね掛けしたんだ。

 ほんと、ありえないよな。

 番に惹かれてやって来て、番を跳ね飛ばすなんてさ。

 龍の歴史始まって以来の珍事だってさ」


「ちょっと待った。

 セレスは、私を殺しかけたから私を番にしたのではなくて、元々番だった私を探しにきて、うっかり吹き飛ばして、それで私が死にかけた。

 そういう事なの?」


「うん、そうだよ。

 そう説明したのにナナってば恩返しは要らないとか、本当の愛ではないとか、意味不明な事言い出すし。

 もしかして説明不足だったか?」


「全然、説明になってなかったでしょう。

 そもそも番の意味も教えて貰っていないし。

 私はてっきりセレスは私を殺しかけたお詫びに、私を番にしたのかと思っていたわ」


「ありえねぇ~。番だぞ!そんな軽いことで選ぶかよ。

 龍ってのは自分の番は判るんだ。

 だから時々、悲劇が起きる。

 人間は番が判らなくって、他の奴と結婚していたりするからな」


「そんな時はどうするの?」


「待つ。人間はすぐに死ぬから、相手の男が死んだら、自分の番に出来る。

 その前に番が死んだら、転生するのをひたすら待ち続ける。

 番はひとりしかいないからな。

 それに逆鱗を与えなければ守れないから、ひたすら待ち続けることになる」


「相手の男から攫ったりはしないの?」


「番の同意を得ないと攫う事も出来ないからな。

 俺はちゃんとナナがフリーなのを確認したぜ」


「そういえば、そうだったような。

 それにしてもセレスは説明しなさすぎ。

 教えてくれないと分からないんだから、これからはちゃんと言って頂戴」


「判るけど、正直ナナが何を知らないのかが分からない」


「とりあえず、赤子だと思って一から教えて。

 知っていることは知っていると言うから」


「努力する」


「努力なの?」


「だって、失敗する気がするから。

 自信ないよ」


「判ったわ。努力して頂戴」


 仕方がない。

 もしセレスが日本に来たとして、私だってセレスが何を知らないか、なかなか分からないだろう。

 知っている筈と思って、失敗してしまう事も多い筈だ。

 だって環境が全く違うもの。

 お互いに色々勘違いしていたみたいだし、これからは小さなことでも必ず確認するようにしよう。

 私だって勝手に相手の気持ちを、決めつけていたのだから。


 晩餐会は大失敗だったし、体調も崩してしまったけれど、セレスとしっかり話せたのは本当に良かった。

 私は大事なことを勘違いしていたから。

 そうかぁ、龍って転生をひたすら待つくらい、ひとりの人を愛するのかぁ。

 大きな体に、怖い見た目をしているのに、龍ってとてもロマンチックなんだなぁ。

 ちょぴり心が満たされた気がする。


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