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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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困った事態

 テラスで賑やかにお喋りしている時、セレスが迎えに来ていると、侍女が声をかけてきた。


「あら、お部屋に案内してください。

 ナナ、私達も部屋に戻りましょう」

 部屋に戻るとセレスが、困った顔で王女殿下にクレームを入れた。


「参ったなぁ、殿下のせいで大事になっちまったぜ」


「どうしたのよ、私は何もしていないでしょう」


「すまない、本当は俺の注意不足だ。

 こいつの異能を、大ぴらにしてしまったのは俺の落ち度だからな」


 何だろう?セレスがかなり落ち込んでいる。


「私の魔法の無効化が、どうして問題なの?」


「まさか!ナナ。本当にキャンセルを持っているの?」


「ええ、それがどうかしたの?」


 私の返事にリリは諦めたようにセレスを見た。


「私、言ったよね。

 この娘は危なっかしいから注意しろって!」


「あぁ、実は俺も世間に出るのは初めてだったのだ。

 ここまでの反応は予想出来なかった」


「はぁー?貴方も箱入りな訳?

 保護者は何してんのよ!

 常識知らずを、箱入り息子に丸投げなんて!」


「言わないでくれ。

 皇国に行くだけの簡単なお使いの筈だったんだ」


 セレスがとても落ち込んでいるので、リリアは私に説明を始めた。


「ナナ、魔法が珍しい力だってことは知っているよね?」


「えっ?皆が魔法を使える訳じゃないの?」


 リリアはがっくりと項垂れた。


「そっからかぁ。

 あのね、ほとんどの国では平民の魔法使いは稀なの。

 平民で魔力がある人は強制的にアストラル学園で魔法を勉強する。

 魔法の扱いを間違えると、本人も周囲も危険になるから。

 ここまでは理解したわね」


 昨日、事故を起こしかけてセレスに厳重注意を受けた私は、大きく頷いた。


「あぁ、もう既にやらかした後なのね」


 どうしてリリはこんなに勘がいいのだろう?

 私は肯定するしかなくて、小さく頷いた。


「それでね。

 大きな力を持つのは、全員貴族。

 しかも高位貴族程大きな力を持つの。

 つまり魔力は貴族にとっては一種のステイタスって訳。

 平民の中には魔法使いを嫌ったり、恐れたりする人がいない訳ではない。

 けれども、この頃では魔法を使えることは、憧れの対象になっているの」


 なんだか段々と話が見えてきた気がする。


「つまり、私の魔法は権力を持つ人には、脅威になるってこと?」


「そうよ。

 セレス。言えば理解できる子なのに、どうしてきちんと説明しなかったのよ」


「しようと思ってたさ。

 アストラルに到着する前に。

 でも、説明する前に、お前と出会ってしまって……」


「それでも試しの時には、無難に結界でも張らせとけば、良かったでしょう?」


「あぁ、こいつが余りに普通にキャンセルを使いこなすから、まぁいいかな?って」


「まぁ、いいかな?で問題起こす奴。私なら部下にしないわ」


 言い切られて、さらにへこむセレス。


「セレス。私が、もっときちんと聞いていないのがいけないのよ。

 それで、具体的な問題は何?

 女王陛下に何を言われたの?」


「アストラル皇帝の影から、明日皇室から迎えが来ると言われた。

 というか、メモが残されてた」


「どこに?」


「女王陛下の部屋」


「陛下から、お前の固有魔法について下問があったんだ。

 答える前に、陛下がメモに気づいて俺に渡してきた。

 王宮に部屋を用意するってさ。

 さすがにアストラル皇帝の意向には女王陛下も逆らえないからな。

 下問は無かったことになった。

 既に皇帝が動いた以上、意味もないことだからな」


「セレス。でもフィクトス公爵家に行くことは皇帝陛下もご存じだったのでしょう?」


「あぁ、しかしナナの異能が無効化というのは、あの瞬間に知った筈だ」


「皇帝陛下の影は、女王陛下の私室にまで入り込める訳?」


「そう言うことだ。

 ホテルの部屋は2重結界を張っていたから、さすがに入り込めなかったみたいだけどな」


「時期が悪かったわね。

 あの、厄災の15年の後だから」


 リリアが言うと、セレスも頷いた。


「あぁ、魔力持ちが、あの15年で大きく減った。

 しかも精霊との争いで黒龍が傷つけられて、あと100年は籠ることになったしな」


「ええ、聞いているわ。

 小竜を育てるのに集中していた黒龍を、ノア公爵が引きずりだしたのよね?

 おかげで黒龍と小竜はあと100年人間界に降りられないそうね」


「あぁ、子育て中の龍が人間界に来ることはあり得ない。

 どんな手を使ったかは知らないが、アストラル皇国は、少なくとも100年以上、龍の娘を得られない。

 既に100年間も龍の血が入っていないから、200年を超えて龍の血が途絶えると、危ういことになる」


「贅沢なのよ。

 私達王国には、龍の血なんてないのよ」


「だが、アストラルは皇族の力でオアシスを維持してる。

 皇族の力が衰えたら、たちまちアストラル皇国は砂漠に戻ってしまうからな」


「それがあったわね。

 すでに多くの民が生活している。

 アストラルが砂漠化したら、それだけの難民は、どこの国でも受け入れられないわ」


「じゃあ、アストラル皇帝は?」


「多分、俺を婿入りさせたいんだ。

 フィクトス公爵家にな。

 幸い、ナナがフィクトス公爵家の娘ってことになっている。

 ナナと俺の娘が、アストラル皇家に嫁ぐことで、とりあえず龍の血を繋げる。

 黒龍と小竜が復活するまでの繋ぎだけどな」


「でも青龍はプロイセン王国の守護龍でしょう?」


「神龍が健在だ。あと数100年プロイセン王国は安泰なんだ。

 黒龍が戻れば、プロイセン王国に帰ればいい」


「じゃぁ、セレスはそれでいいの?」


「プロイセン王国はアストラル皇国の兄弟国のようなものだ。

 困った時はお互い様だしな。

 それに理由はそれだけじゃない。

 アストラル皇帝が、無効化の固有能力者をきちんと管理していると、全ての王国に示すことが出来る。

 フィクトス公爵家が、皇室の影だと言うことは暗黙の了解だからな」


「私も理由の一つなの?」


「お前もだ。ナナ。

 なるべく交渉はしてやるが、3年間も学院に通う余裕は与えられないかも知れないぞ」


「それって?」


「あぁ、さっさと龍の娘を産めってことさ!」


「酷い!私はブロイラーじゃないのよ。

 人権無視だわ。横暴よ」


 私が大騒ぎしていると、ひょいとセレスが私を抱き上げた。


「俺が夫では不満か?

 これでも本気で惚れているんだ。

 お前が望むなら、なんとしても3年を勝ち取って見せる」


「本当に?

 もしも本当に3年学院に通わせてくれるなら、私、セレスと結婚してもいいよ」


「約束だからな。絶対だぞ!」


「判った。誓うわ。

 私ナナミはセレスが3年間の猶予を勝ち取ったらセレスと結婚します」


 私が誓った瞬間青い光が部屋に満ちた。


「何?いったいどうしたの?この光は何?」


「皇帝陛下だろうな。これはアストラル皇帝の誓約だ。

 一度誓えば逃れられない」


「まさか!セレス。図ったのね!」


「仕方ないだろう。

 皇帝の指示だからな。影が潜んでいたのさ。

 それに、俺がナナを愛しているのは本当だからな。

 ナナだって嫌いな奴に結婚の約束なんてしないだろう?

 俺たち両想いだよな?」


「馬鹿セレス、大嫌い!」


 セレスは私を抱き上げて顔を覗き込んだ。

 傷ついたような哀しげな顔で聞いてくる。


「ナナ、本当に僕が大嫌いなの?」


「そんな訳ないけど、でも……」


「ねぇ、大事なことなんだ。本当の気持ち教えて」


 甘えるようなすがるようなセレスの瞳に負けてしまった。


「私も、セレスのこと、ちょっと好きかも」


「結婚してもいいと思うくらい?」


「うん」


「やったぁ!僕たち両想いだね」


 セレスが破顔し、私は真っ赤になってしまった。


「ちょっとお二人さん。いちゃつくなら自分たちの部屋でやって!

 この二人を部屋に案内してあげて。


 全くもう、ナナはチョロすぎよ。

 アストラル学院では私が、その悪い龍から守ってあげるわ」


「セレス!3年間は手出し禁止ですからね」


「ちぇ、お前は学院に来るな!」


「行くに決まっているでしょう。

 親友の危機なのだから」


 私が幸せそうに笑い出したので、リリが突っ込んできた。


「ナナ、一体なにがそんなに嬉しいわけ?」


「だって、リリが私の事、親友って言ってくれたもの」


「なっ!ナナ、貴女って天然の人たらしね」


「へへっ、私もリリが大好きだよ!」


「いいから、部屋に戻りなさい。

 明日、アストラルから迎えが来るのでしょう?

 私も入学式までにはアストラルにいくから」


「わかった。夕食も一緒に食べられる?」


「ナナ、可哀想だけど、晩餐会になるわね。

 女王陛下主催の。

 私も出席するから、一緒って言えば一緒だけど」


「大丈夫だ、ナナ。

 イブニングドレスも注文済みだ。

 王宮に届けさせるから」


 問題は其処じゃない!

 あの魔のコルセットだ。

 折角の御馳走が食べられないじゃないか!


 この後、晩餐会までの間に、あの魔のフルコース再びの運命が待ち構えていた。

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