王宮への招待
スイーツというのは、どうしてこうも幸せを運んでくれるのだろう?
用意してくれていたのは、夕食を食べることを見越してだろう。
小さなショコラティエが5粒。
それとブラックコーヒーだ。
「ショコラティエ2粒は俺のだからな」
「言わなくても全部食べたりしないわよ。
どれがいいの?」
「酒が入っている奴」
「それなら、ボンボンにすれば良いのに」
「ばーか。チョコとブランデーの相性は最高なんだぞ」
「じゃぁ、私もそれがいい」
「残念だなぁ。この世界で酒を口に出来るのは15歳からだ。
お子様は無理だな」
「私はお子様じゃ」
言いかけたところにポンとショコラティエが放り込まれた。
「甘~い、中もチョコだ。美味しいねー」
ゆっくりと体温で溶けるチョコを堪能している間に、セレスはショコラティエを2粒食べ終わって、満足そうに珈琲を飲んでいる。
私もコーヒーで口の中をリセット。
チョコの後の珈琲は特別に美味しく感じる。
ゆっくりと珈琲を堪能していると、ショコラティエの箱をセレスが閉じてしまった。
「何でよ。まだ1粒しか食べてないわ」
「後のお楽しみだ。時間がないのでね。
誰かさんのせいで」
その時ノックの音がして、人が尋ねてきた。
「入ってくれ、この娘だ。
明日、王宮を訪問する。
午前中の伺候になると思う。よろしく頼む」
「それではアフタヌーンドレスですね。
御色のご希望はございますか?」
「青系統で頼む。私の婚約者なのだ」
「畏まりました、何点かご用意行ったしております。
フィッテングルームをお借り出来ますか?」
入ってきた女性は、持ってきた中から、いくつかの箱を選ぶと、それを隣室に運び込んだ。
「お嬢様、こちらへ」
それからは着せ替え人形のように着付けられ、セレスのチェックを受けることを繰り返した。
サイズを細かく測られ、記録される。
その後はドレスを着たまま、細かくピンでとめてサイズを合わせる。
そうしてようやく私は解放された。
どの服が選ばれたのか、全く分からない。
「それでは薄水色のドレスは早朝。
残りは夜までにお届けします」
そう言って帰って行ったから、多分全部頼んだんだろう。
どうでもいいけどね。
疲れてちょっとやさぐれ気味の私にセレスはとどめを刺した。
「それじゃぁ、ちょと魔法の勉強をしとこうか」
ちょっと散歩でもするかと言う気楽さでセレスは言った。
魔法なんて使ったこともないのに。
文句を言う暇もなかった。
何故ならセレスが巨大な氷の槍を、私めがけて投げつけようとしていたから。
「ちょ!マテ!」
私が叫んだ瞬間、槍は消えてしまい、セレスが私を抱きかかえていきなりキスをした。
私がびっくりしていると、セレスはほっとした顔をする。
「あっぶねぇ、お前、魔法を放出し続けるような真似はやめろよ。
危うく、俺もお前も魔法が使えなくなるところだった!」
「何わけわかんない事、言ってんのよ。
それよりいきなりキスするなんて!」
私が文句を続けようとすると、セレスが呆れたような顔をする。
「ナナお前、今どれだけ危険なことをしようとしたか、分かっているのか?」
「わかる訳ないじゃない。
魔法なんて今始めて使ったのに」
セレスはポイっとショコラティエの箱を投げてよこした。
「ほら、説明するから、それでも食べて落ち着け」
私は座ってショコラを1粒口に入れる。
最高に美味しい。
じわっとした甘味が、心を落ち着かせてくれた。
頃合いを見計らってセレスが珈琲を入れてくれた。
落ち着く。
しかもショコラはまだ1粒ある。
私は、最後の1粒をセレスの口元に持って行った。
ちょっと驚いた顔をしたセレスは、破顔するとパクリとショコラを食べた。
セレスったら私の指まで食べてしまうのだから、余程ショコラが好きなのだろう。
それなのに私に1粒余分にくれようとしたのだ。
いい奴なのだ。本当に。
「今から説明することは、とても大事だから、その足りない頭にしっかり叩き込んでおけよ」
相変わらず口が悪い。
でもセレスが珍しく真剣だから、私も真面目な顏で頷いた。
「さっき、ナナが使った魔法は無効化だ。
全ての魔法を無効にする。
別名キャンセルともいう。
それで、ナナは無効化の魔法を、槍を消した後も放ち続けていた。
その場合、相手の魔法使いは、魔法を全て消滅させられてしまう。
使った魔法だけでなく、魔法そのものがリセットされるんだ。
そしてそれは、ナナ、お前も同じだ」
「えっと、相手の魔法だけキャンセルしたら魔法を止めないといけない。
そうしないと、私も相手も魔法が使えなくなる。
そう言う事なの?」
「そうだ。無効化魔法はとても希少で威力が大きい。
魔法を使うには代償が必要だ。
小さな魔法なら、魔力を消費するだけの事だ。
けれど、大きい魔法は代償も大きくなるのだ」
「でも私、止め方なんて分からなかった」
「そうだね。だから発動条件を付けておくとよい。
キャンセル、でも良いし、無効化と言うのでもよい。
こころの中で言うのでも良いから、符丁となる言葉を決めて置け。
そして使用するのは、その言葉を使った瞬間だけにするのだ。
無効化魔法は持続する必要はないし、持続してはいけない。
わかるな」
「少し練習しよう。僕が魔法を使う。
ナナがそれを取り消す。分かったな」
セレスは指先に小さな炎をだした。
「ノー」
私が言うと炎は消えた。
次に水、氷、つむじ風。
全部「ノー」の一声で消えてしまう。
凄く便利だ。
「ちゃんとやれているんだけれどさ。
ノーって何なの?
なんだかちょっとイラッて、するんだけれど」
「うーん、昔犬を飼っていてさ、いけない事をするとノーって教えていたから」
「もしかして、あれか?
俺、犬扱いされてたのか?」
「違うから。
たださっきみたいに急に攻撃されると、とっさに技名なんて出ないもの。
でも、ノーって駄目って意味だから、とっさに出しやすいし」
「わかった、分かった。降参だ。
とにかく制御さえしてくれるなら、それでいいよ」
「でもセレス。
私、魔法なんて使ったことないのに、いきなり攻撃するなんて無茶でしょう?」
「今出来ないと、いざって時に使えないだろう?
まさかいきなり、固有魔法ぶっ放すなんて誰が思う?
普通の奴は防御魔法を使うんだよ。
盾とかシールドとか結界とかさ」
「そんなの思い浮かばないよ。
そういうのはゲームとかしている男の子とかが、得意そうだけれど」
「異世界人は魔法が得意なはずなんだけれどなぁ。
想像力に長けていて、すぐに魔法を使いこなすって聞いていたぞ」
「もしかして、魔法ってイメージなのかな?」
私は、さっきセレスが使った、炎、水。氷。つむじ風を出してみた。
成る程。簡単に使えてしまった。
「ちぇ、見てただけで、もう使えるのかよ。
やっぱりナナも異世界人なんだな」
「それよりさぁ、セレス。
さっき言っていた固有魔法って何?」
「そいつだけが持つ固有の魔法のことさ。
ナナは簡単に操ってみせたけれど、普通、魔法は勉強しないと使えない。
けれど、固有魔法は発現すればすぐに使えるようになるのさ。
普通、発現には身内のサポートや魔石が必要だから、ナナがいきなり固有魔法を使ってびっくりした」
「うーん。多分魔法のことまったく知らなかったから、命を守ろうとして発現したんだろうねぇ」
「実際に危なかったのは、こっちだけどな」
セレスはまだ根に持っているみたいだ。
「いつもセレスが守ってくれているのに、私が魔法を使う必要あったのかな?」
ちょっとだけゴマを擦って置く。
途端にセレスは上機嫌になった。
単純な奴で良かったよ。
「必要になるのさ。
どうせ明日には女王との謁見になる。
その場で仕掛けてくる奴がいそうだからな」
セレスがそう言うのと、王宮からの使者がきたのは同時だった。
王宮からの使者は、明日朝10時に女王陛下に謁見するようにという書簡を届けてきた。
勿論文面はとても回りくどく、丁寧だけれど、要約すればそういう事だ。
「凄い!どうして判ったの?」
「他国の皇族が来ているんだ、素通りさせる訳ないだろう。
いろんな意味でな」
「それが、さっきの練習に繋がるのね。
でもアストラル皇国とセレスティア王国とは友好国なのでしょう?」
「昔、偽物騒動があったんだ。
それでどの王国も、魔力で自分を証明するまでは信じないのさ。
偽物は魔力がほとんどないからな」
「魔力がないなら、すぐにバレるんじゃないの?」
「魔力も偽装出来るんだよ。魔石を仕込むことでな。
身体に埋め込む輩も多かったのだ」
「そこまでして、何をしたかったの?」
「未来を奪いたかったのさ。
魔法使いは同じ魔力量を持たないものとは子供が出来ない。
美しい娘に魔法使いを偽装させて、王宮や貴族家に送り込む。’
その家の子孫は絶えるって寸法さ」
「なんて迂遠な計画なの!」
「ところがそれが上手くいきかけたんだ。
実際かなりヤバかったらしい」
「でも子供なら、側室とか愛妾とか持つこともできたんじゃないの?」
「魔力量の高い娘がこっそり入れ替えられているんだぜ。
相手自体がいないだろう」
「親、兄弟は偽物に気がつかなかったの?」
「そっくりだったらしい」
「入れ替えられた本物の娘はどうなったの?」
「さぁ、そろそろ夕食を食べに行こうぜ。
腹が減っただろ。ナナ。」
セレスは答えをはぐらかしてしまった。
つまりは、それが答えなのだろう。




