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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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4/7

王女と遭遇

 港街というのは独特の活気がある。

 これでもかなり港街には、なじみがあるのだ。

 こういうところには、絶対に朝市が立つ。

 未明に出航した魚船が、早朝に魚をセリにかける。

 その取れたばかりの新鮮な魚介が、購入できるのが朝市。

 大抵の場合、その場で焼いて食べることができるはず。

 明日の朝は、早く起きなければ。


 私がそんな決意をしている横で、セレスは素早く屋台で買い物をしては、私に食べさせようとする。


「少し先にベンチがあるから、そこに座って食べるといいよ。

 おすすめを厳選したから、きっと旨いよ」


 言われなくても良い匂いが漂っている。


「よし、セレス。急ごう!」


 私は、空いているベンチめがけて走りだした。

 素早く空席をゲットしてニコニコ顔の私に、セレスが串の束を差し出した。


「どれがいい?」


「勿論、貝かお魚が食べたいな。港街だもの」

「それなら、これだね」


 セレスが差し出したのは貝の串焼き。

 いくつもの貝が連なっているのは、団子の串みたいだ。

 口元に持ってきてくれたから、素早くくわえて引き抜く。


「おいしいねぇ~。こりこりしている。

 そう言えば、固いものも普通に食べているわね。

 少し前は、柔らかいものを選んで食べていたのに」


 私がしみじみと感動しているうちに、残りをセレスが食べてしまった。

 文句を言おうとすると、お魚のお腹の部分が口元に。

 ガブリと噛みつくと、ふわっと魚の身が口に入り込む。


 うん、これはこれで、美味しい。

 ふわふわとした魚の身。上手に串に刺したものだ。

 美味しいけれど、食べるのは難しそう。


 横を見たら、セレスが綺麗に平らげている。

 そして目の前には、定番のイカ焼き。

 柔らかくてすぐに嚙み切れてしまった。

 イカ焼きって子供の頃以来だなぁ。

 嫌いじゃないけれど、買うなら魚を選んでいたから。


 あっ!お肉の串も来た!

 美味しいよね、お肉。


 私が一口食べると、残りをセレスが食べてくれたおかげで、色々な種類を食べることが出来た。

 女子の、色々な種類を少しずつ食べたいという気持ちを、よく分かっている。

 やるなぁ、セレス君は。

 きっとモテ男なんだろうなぁ。

 セレスがお腹を壊さないか、ちょっと心配したけれど、元はあんなに巨大な龍なのだ。

 いくら食べても足りないぐらいなんだろうと、自分で納得した。


「全部、すごーく美味しかった。

 ありがとうセレス」


「夕食が入らなくなるから、一口ずつだけれどな。

 明日は朝市見学をするから、出店を見学しながら、ホテルに行くぞ」


 最初はセレスと手を繋いで歩いていたのだけれど、珍しいものが多すぎる。

 あっちの店、こっちの店と、すぐに飛び出しているので、とうとうセレスは、私を自由に歩かせることにしたようだ。

 私の後をニコニコしながら付いて来る。


 その時、ひとりの少女が切羽詰まった顔で、こちらに走ってくるのが見えた。

 何度も後ろを振りかえっているから、追われているみたいだ。


「ほら!こっち」


 私は少女を屋台の片隅の商品の影に隠して、その前に立った。

 バタバタと何人もの男たちが、走りぬける。

 やっぱり追われていたのだ。

 しかもあんなに大勢に。

 いったい何をしたのだろう?


「助かったわ。ありがとう。

 私はリリ。貴方は?」


「私はナナ。この街には旅行で来たんだ。

 どうして追いかけられてたの?

 何かしたの?」


「たいした事じゃないよ。

 あいつらが大げさなんだ」


「フーン、やっぱり何かやらかしたのね」


「何、その知った風な顏」


「えへへ、悪戯っ子ってかなり好きよ。

 友達にならない?

 旅人だから少ししか、この国にいられないけれど」


「なんだ。観光客か。

 セレスティア王国へようこそ。

 楽しんで帰ってくれ」


「勿論そのつもりよ。

 そうだ。どこかでお茶でもしない?

 甘いものが食べたいな。お勧めはある?」


「スイーツならエドの店が有名かな。

 案内してあげる」


「ありがとう。

 セレス。いいでしょう?」


「さっさと約束をして、後から確認しても遅いんだよ。お前は!」

 セレスが指先で私の額を突いた。


「あら、お兄さんと一緒なのね。

 構わないかしら?おにいさん」


「いや、俺は……」

 セレスは何か言いかけたけれど、しぶしぶの様に頷いた。


 エドの店というのは、街の中腹にあるらしい。

 港街は坂道の多い街でもある。

 中腹と言うことは、かなり坂道を登るのだ。

 しかも曲がりくねった小道が多い。

 まるで迷路みたいだ。


 そう言ったらリリが笑った。

 街のてっぺんに王城がある。

 敵がせ攻めにくいように、わざと道を狭くして回り道させているんですって。


「成る程ねぇ。大群できても少人数にばらけてしまう。

 しかもお城にあるあれは、大砲でしょう?

 あそこから、撃たれたら防ぎようがないわね。

 お城からはきっとよく見えるでしょうから」


 そう言ったらリリが急に真剣な顏になった。

「あなた一体何者なの?」


「やだ。怖い顔しないでよ。

 こんなの常識の範囲でしょう?

 それに港街って言うぐらいだから、主戦場は街じゃない。

 海軍が敵を屠るはずだから、港に辿りつく敵なんていないと思うよ」


「お前のそれが常識だとしたら、私は本当に世間知らずなんだな」


「いや、心配しないでいい。

 こいつが少しアレなだけだ。

 俺がきっちり面倒みるから、目こぼししてくれ」


「お前!そうか、そういう事か。

 しっかり手綱を取ってくれよ。

 危なっかしいぞ、そいつ」


「お前に言われたくはないけどな。

 今頃、大騒ぎになっているんじゃないのか?」


 リリはしょっぱい顔をした。


「そこまで気にしなくても良い。

 きゃつらも慣れている」


 なんか少しわかったかも。

 さっきの人たち、きっとリリの護衛か何かなのだ。

 リリってかなりいいとこの子なのだろう。


「りり、疲れたよ。お店はまだなの?」


「お前!ほらすぐ前に旗がはためいているだろう?

 あの店からみる景色は絶景なんだ」


 お店に着いたら、さっきの男の人たちが跪いてリリを迎えた。


「姫様。我らを撒かないと約束して、街に出た筈ですぞ」


 そして私達を恫喝した。


「すまないが、お前たちも同行願おう。

 リリア姫と一緒だった理由をお尋ねしたい」


「待って!この人たちは」


 リリが弁明しようとしたとき、セレスが私のペンダントを取り上げた。

 私の黒髪と黒目が明らかになると、男の人たちは一斉に跪いた。


「すまない。こちらもお忍びだ。

 目こぼし願いたい」


「今は、引かせて頂きます。

 しかし後ほど王宮から正式な使者が出るかと」


「わかった。世話を掛ける」


 彼らがいなくなると、セレスは私にもう一度ペンダントを掛けてくれた。


「セレス、あれって……」


「あぁ、彼女は王国の第一王女だ。

 女王候補だな。この国は女王が立つことが多い」


「ねぇ、黒髪ってそこまでなの?」


「言ったろ。黒髪はアストラル皇家の人間の証だと」


「でも異世界人も黒髪なんでしょう?」


「落ち人は稀人ともいう。希少なのは同じだ。

 どうせ皇家に囲われる。

 つまりアストラル皇家の人間だと言うことになる」


 お店の客がこっちを見ていたから、残念だけれども引き返す。

 私がへこんでいると思ったのだろう。

 セレスは私を引き寄せると、ポンポンと頭を叩いた。


「大丈夫だ。一流のホテルだぞ。

 スイーツなんていくらだって食べられるさ。

 ホテルの部屋にお茶を用意させよう」


 そう言ってセレスは小さな紙をふっと飛ばした。

 紙は自分の意志でも持っているかのように、ひらひらと飛んでいった。

 なんだか蝶々のようで、少し可愛らしい。

 紙が飛ぶのをキラキラした目で見ていたのだろう。

 セレスがこぼした。


「お前もいつもそんな風に素直にしていれば、可愛いのにな」


 失礼な奴だ。

 けれど約束通りホテルの部屋には、お茶のセットが準備されていて、私は歓声を上げることになる。

 

 まぁ、仕方がない。

 亡くなった旦那は、


「お前はいつまでも幼女の様に見えるね。

 ふしぎだねぇ」


 と首をひねっていた。

 身体が若くなった今、言動が更に幼くなっても仕方ないことなのだ。


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