王女と遭遇
港街というのは独特の活気がある。
これでもかなり港街には、なじみがあるのだ。
こういうところには、絶対に朝市が立つ。
未明に出航した魚船が、早朝に魚をセリにかける。
その取れたばかりの新鮮な魚介が、購入できるのが朝市。
大抵の場合、その場で焼いて食べることができるはず。
明日の朝は、早く起きなければ。
私がそんな決意をしている横で、セレスは素早く屋台で買い物をしては、私に食べさせようとする。
「少し先にベンチがあるから、そこに座って食べるといいよ。
おすすめを厳選したから、きっと旨いよ」
言われなくても良い匂いが漂っている。
「よし、セレス。急ごう!」
私は、空いているベンチめがけて走りだした。
素早く空席をゲットしてニコニコ顔の私に、セレスが串の束を差し出した。
「どれがいい?」
「勿論、貝かお魚が食べたいな。港街だもの」
「それなら、これだね」
セレスが差し出したのは貝の串焼き。
いくつもの貝が連なっているのは、団子の串みたいだ。
口元に持ってきてくれたから、素早くくわえて引き抜く。
「おいしいねぇ~。こりこりしている。
そう言えば、固いものも普通に食べているわね。
少し前は、柔らかいものを選んで食べていたのに」
私がしみじみと感動しているうちに、残りをセレスが食べてしまった。
文句を言おうとすると、お魚のお腹の部分が口元に。
ガブリと噛みつくと、ふわっと魚の身が口に入り込む。
うん、これはこれで、美味しい。
ふわふわとした魚の身。上手に串に刺したものだ。
美味しいけれど、食べるのは難しそう。
横を見たら、セレスが綺麗に平らげている。
そして目の前には、定番のイカ焼き。
柔らかくてすぐに嚙み切れてしまった。
イカ焼きって子供の頃以来だなぁ。
嫌いじゃないけれど、買うなら魚を選んでいたから。
あっ!お肉の串も来た!
美味しいよね、お肉。
私が一口食べると、残りをセレスが食べてくれたおかげで、色々な種類を食べることが出来た。
女子の、色々な種類を少しずつ食べたいという気持ちを、よく分かっている。
やるなぁ、セレス君は。
きっとモテ男なんだろうなぁ。
セレスがお腹を壊さないか、ちょっと心配したけれど、元はあんなに巨大な龍なのだ。
いくら食べても足りないぐらいなんだろうと、自分で納得した。
「全部、すごーく美味しかった。
ありがとうセレス」
「夕食が入らなくなるから、一口ずつだけれどな。
明日は朝市見学をするから、出店を見学しながら、ホテルに行くぞ」
最初はセレスと手を繋いで歩いていたのだけれど、珍しいものが多すぎる。
あっちの店、こっちの店と、すぐに飛び出しているので、とうとうセレスは、私を自由に歩かせることにしたようだ。
私の後をニコニコしながら付いて来る。
その時、ひとりの少女が切羽詰まった顔で、こちらに走ってくるのが見えた。
何度も後ろを振りかえっているから、追われているみたいだ。
「ほら!こっち」
私は少女を屋台の片隅の商品の影に隠して、その前に立った。
バタバタと何人もの男たちが、走りぬける。
やっぱり追われていたのだ。
しかもあんなに大勢に。
いったい何をしたのだろう?
「助かったわ。ありがとう。
私はリリ。貴方は?」
「私はナナ。この街には旅行で来たんだ。
どうして追いかけられてたの?
何かしたの?」
「たいした事じゃないよ。
あいつらが大げさなんだ」
「フーン、やっぱり何かやらかしたのね」
「何、その知った風な顏」
「えへへ、悪戯っ子ってかなり好きよ。
友達にならない?
旅人だから少ししか、この国にいられないけれど」
「なんだ。観光客か。
セレスティア王国へようこそ。
楽しんで帰ってくれ」
「勿論そのつもりよ。
そうだ。どこかでお茶でもしない?
甘いものが食べたいな。お勧めはある?」
「スイーツならエドの店が有名かな。
案内してあげる」
「ありがとう。
セレス。いいでしょう?」
「さっさと約束をして、後から確認しても遅いんだよ。お前は!」
セレスが指先で私の額を突いた。
「あら、お兄さんと一緒なのね。
構わないかしら?おにいさん」
「いや、俺は……」
セレスは何か言いかけたけれど、しぶしぶの様に頷いた。
エドの店というのは、街の中腹にあるらしい。
港街は坂道の多い街でもある。
中腹と言うことは、かなり坂道を登るのだ。
しかも曲がりくねった小道が多い。
まるで迷路みたいだ。
そう言ったらリリが笑った。
街のてっぺんに王城がある。
敵がせ攻めにくいように、わざと道を狭くして回り道させているんですって。
「成る程ねぇ。大群できても少人数にばらけてしまう。
しかもお城にあるあれは、大砲でしょう?
あそこから、撃たれたら防ぎようがないわね。
お城からはきっとよく見えるでしょうから」
そう言ったらリリが急に真剣な顏になった。
「あなた一体何者なの?」
「やだ。怖い顔しないでよ。
こんなの常識の範囲でしょう?
それに港街って言うぐらいだから、主戦場は街じゃない。
海軍が敵を屠るはずだから、港に辿りつく敵なんていないと思うよ」
「お前のそれが常識だとしたら、私は本当に世間知らずなんだな」
「いや、心配しないでいい。
こいつが少しアレなだけだ。
俺がきっちり面倒みるから、目こぼししてくれ」
「お前!そうか、そういう事か。
しっかり手綱を取ってくれよ。
危なっかしいぞ、そいつ」
「お前に言われたくはないけどな。
今頃、大騒ぎになっているんじゃないのか?」
リリはしょっぱい顔をした。
「そこまで気にしなくても良い。
きゃつらも慣れている」
なんか少しわかったかも。
さっきの人たち、きっとリリの護衛か何かなのだ。
リリってかなりいいとこの子なのだろう。
「りり、疲れたよ。お店はまだなの?」
「お前!ほらすぐ前に旗がはためいているだろう?
あの店からみる景色は絶景なんだ」
お店に着いたら、さっきの男の人たちが跪いてリリを迎えた。
「姫様。我らを撒かないと約束して、街に出た筈ですぞ」
そして私達を恫喝した。
「すまないが、お前たちも同行願おう。
リリア姫と一緒だった理由をお尋ねしたい」
「待って!この人たちは」
リリが弁明しようとしたとき、セレスが私のペンダントを取り上げた。
私の黒髪と黒目が明らかになると、男の人たちは一斉に跪いた。
「すまない。こちらもお忍びだ。
目こぼし願いたい」
「今は、引かせて頂きます。
しかし後ほど王宮から正式な使者が出るかと」
「わかった。世話を掛ける」
彼らがいなくなると、セレスは私にもう一度ペンダントを掛けてくれた。
「セレス、あれって……」
「あぁ、彼女は王国の第一王女だ。
女王候補だな。この国は女王が立つことが多い」
「ねぇ、黒髪ってそこまでなの?」
「言ったろ。黒髪はアストラル皇家の人間の証だと」
「でも異世界人も黒髪なんでしょう?」
「落ち人は稀人ともいう。希少なのは同じだ。
どうせ皇家に囲われる。
つまりアストラル皇家の人間だと言うことになる」
お店の客がこっちを見ていたから、残念だけれども引き返す。
私がへこんでいると思ったのだろう。
セレスは私を引き寄せると、ポンポンと頭を叩いた。
「大丈夫だ。一流のホテルだぞ。
スイーツなんていくらだって食べられるさ。
ホテルの部屋にお茶を用意させよう」
そう言ってセレスは小さな紙をふっと飛ばした。
紙は自分の意志でも持っているかのように、ひらひらと飛んでいった。
なんだか蝶々のようで、少し可愛らしい。
紙が飛ぶのをキラキラした目で見ていたのだろう。
セレスがこぼした。
「お前もいつもそんな風に素直にしていれば、可愛いのにな」
失礼な奴だ。
けれど約束通りホテルの部屋には、お茶のセットが準備されていて、私は歓声を上げることになる。
まぁ、仕方がない。
亡くなった旦那は、
「お前はいつまでも幼女の様に見えるね。
ふしぎだねぇ」
と首をひねっていた。
身体が若くなった今、言動が更に幼くなっても仕方ないことなのだ。




