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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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3/11

アストラル学院へ

 アストラル学院と言うのは、アストラル皇国の首都にあるらしい。

 皇都に住む皇族や貴族の中には、特例で通う者もいるけれど、原則は寮生活なのだとか。


 寮生活!なんだか青春の匂いがするではないか?

 映画や小説なんかでも、舞台が寮という名作は沢山あるしね。

 当然男女で別々なのだろうし、この奇妙なぐらい私に罪悪感を持つ龍とも、学院に入ればそれほど会うこともないだろう。

 私は呑気にそう考えていた。


「アストラル皇国は山と砂漠に囲まれた国なんだ。

 行く方法は3つ。

 あそこに見える峻厳な山を越える方法。

 山裾を延々と遠回りしながら歩く方法。

 運河で海に出て海路を使う方法。

 どの方法で行きたい?」


 セレスがそんな風に尋ねてきたから、私は不思議だった。

 だってセレスは次元だって超えてしまった龍だよ。

 学院にだって転移できそうなものじゃないか?


「セレス?どうして転移で行かないの?」


「学院の入学式まで、あと半年もあるからね。

 それならナナは、この国々を見て回りたいだろう、と思ったのだけれど?」


「本当に!ありがとうセレス。

 つまり旅行って訳だね。

 旅行なんて長いことしたことなかったなぁ。

 なんせ、身体が痛むし、移動はたいへんだしねぇ。

 すごいよね。この身体は!

 自由に動けるし、どこも痛くない」


 私がそんな風にお礼を言うと、セレスは微妙な顏をした。


「喜んでくれて嬉しいけれど、僕としては婚約旅行のつもりなんだけれどな」


「またまたぁ。セレスってすぐに冗談を言うんだから。

 大丈夫よ。そんなにけん制しなくても。

 セレスに好きな人が出来たら、さっさと婚約解消してあげるから。

 逆鱗が無くなっても、私は生きていけるのでしょう?」


 セレスは深くため息をついていった。


「何度でも言うけれど、僕の婚約者はナナだけだからね。

 しかも逆鱗の交換なんて聞いたこともない。

 ナナもいい加減、覚悟を決めて欲しいものなんだけど……。

 僕が悪いんだよね。大丈夫だよ。僕もっと頑張るから」


 セレスは謎に気合をいれているけれど、困るんだよね。

 私だって間違って人を死なせたら、きっと罪悪感に苛まれると思う。

 でも、それと愛は別だってこと、いつかセレスも気がつくと思う。


 恋愛小説でもよくあるパターンなんだ。

 女性を傷付けたヒーローが、責任をとって結婚したものの、その後に愛する人に巡り合うってパターン。

 そんな想いをあの子にしてもらいたくないんだ。

 もしも逆鱗を返却して死ぬことがあってもさ。

 元々死んだ筈なんだから。


 そんな憂いなんか吹き飛ぶくらいに、旅は楽しかった。


「可愛いボートだねぇ。セレス」


「二人っきりだからね。これくらいあれば十分だ。

 1日で海に出るよ

 そこで旅客船に乗り換えるんだ。

 港町はルーンフェル王国の首都になっているから賑やかだよ」


「そうなの?

 そこで見学とか出来るのかな?

 海産物を食べたりとか」


「当たり前だよ。

 言ったでしょう?

 時間はたっぷりあるんだ。

 町一番の宿を予約しておいたから、港町巡りを楽しもうぜ」


「やったー!セレス、大好き!」


 私は思わずセレスに抱き着いた。

 そしたらセレスはそのまま抱き上げて、にっこりして頷いて言うんだ。


「僕もナナが大好きだよ。可愛いねナナは」


 なんか無駄に色気があってびっくりしてしまった。

 落ち着け心臓。

 相手は子供なんだ。

 何をときめいてしまっているんだ。

 忘れるなよ。

 私は、お婆ちゃんなんだからな。


 私は、真っ赤になってしまった顔を隠すように、うつむいてしまう。

 そしたらセレスは手で私の顔を上に向かせた。

 これってあれですよね。

 伝説級の技。顎クイってやつ。

 まさかセレス、そんな技まで持ち出すなんて。

 私は心の中で身もだえしたけれど、セレスがじっと私の目を見つめるから、それどころではなくなった。



 セレスの青い目は、空と海を溶かしたようなコバルトブルー。

 しかもキラキラと煌めいているから、思わず引き込まれそうになる。

 真っ直ぐな真剣な瞳。


 もしも私が、本当にセレスの番だったら。

 本当にただの12歳の女の子だったら、どんなに良かったろう。

 でもそうじゃないから。

 もしも、なんて考えるだけ無駄なのだから。

 だから私は無理に笑って見せる。


「セレス、本当にありがとうね。

 お前は本当にいい奴だよ」


 セレスの瞳が、かすかに傷ついたように揺れたけれど、私は見ない振りをする。

 ごめんね、セレス。

 これが、あなたの為なんだよ。

 本当の愛を知って、あなたが傷ついたりしないように、私は貴方に小さな傷をつけるよ。

 それはきっと貴方の本当の番が癒してくれるから。


 セレスはにっこりと笑って抱擁を解いた。


「強情なナナ。お茶にしないか?

 運河を眺めながらお茶を飲むのも悪くないぜ」


「賛成!私、運河ってもっと狭いと思っていたのに、海みたいに広いんだね。

 びっくりしたよ」


「始めての人は大抵そう言うよ。

 この運河は、アストラル皇国を作り上げた古龍が作ったと言われているんだ」


「へぇー。龍が国を造ったの?」


「古龍は初代皇帝と契約を結んだらしい。

 そして国作りに協力したのさ。

 それにこれは秘密なんだけれど、初代皇帝は異世界からの転生者だと言われているんだ」


「転生者!どうしてそんな風に言われているの?」


「まず髪色だね。この世界で黒髪を持つのはアストラル皇家の血を引く人間と、それからアストラル皇后の生家であるフィクトス公爵家だけだ。

 フィクトス公爵家は古龍の一族だから黒髪を持つのはわかるけれどね。

 そして面白いことにこの世界に落ちてくる転生者は皆黒髪・黒目なのさ」


「そんなに珍しいの?」


「そうだね。一番最近の転生者だとアストラル皇国の皇子として迎えられたソラと、フィクトス公爵家を任せられたブルーノだね。

 二人とも黒髪・黒目らしい。

 もう亡くなっているから僕も会ったことはないけれどもね」


「だからね。

 当初は君をアルヴィス侯爵家の養女にしようとしたんだけれど、その髪色だろう。

 無理がありすぎるだろうって事で、フィクトス公爵家の娘ってことになった。

 養女ではなく実子となる」


「それこそ無茶でしょう?

 いきなり娘が現れたら、だれだって疑問に思うわ」


「普通ならそうだろうねぇ。

 ところがフィクトス公爵家は違う。

 あそこは子供が産まれても出生届は出さない。

 そして年ごろになると、フィクトス公爵家の娘としてデビューさせるのさ。

 龍の娘を受け入れるためにその仕組みが出来たんだ。

 龍の娘は龍化出来ないし、寿命も魔力も人間並み。

 けれど、魔力を遺伝させることが出来るから、基本的に皇家に嫁ぐのさ」


「それで世間の人は納得しているの?」


「言ったろう?

 黒髪は皇家しか持たない髪色だって。

 そこに黒髪の娘がデビューしたら、普通はどう考える?」


「それは秘された王女がデビューしたと思うわね。

 黒髪が皇家にしか出ない特徴なら」


「その通り。そしてフィクトス公爵家の男児はいつも龍か異世界人。

 婿として貴族の血が混じることはあるけれどもね。

 つまり僕は、アストラル皇国の秘された王女に求婚する、弱小国の公爵家公子って訳さ」


「だって、貴方は青龍セレスタイト様じゃない。皇帝より偉いのでしょう?」


「どうかなぁ。僕たち青龍はプロイセン王国の守護龍だからね。

 それに亡くなった古龍さまや、黒龍クラウス。神龍ニルヴァ。青龍セレスタイトの存在は秘中の秘。

 皇国や王国でもトップクラスしか知らないことだ」


「まぁ。それはなぜなの?」


「君はどう思う?為政者が人間ではなく龍との混血だとしたら?」


「あっ。それはよく思わない人がいるかも知れないわね」


「そう言うことさ。

 だから対外的には君は僕より身分が上なのさ。

 こうして二人きりでボートに乗っているのも、ナナの姿を人目に晒さないためさ。

 でもそろそろ、その姿ではまずいね。

 このペンダントを必ず付けていて。

 髪と目の色を変えてくれるから」


 私は、セレスから貰ったペンダントを光に掲げてみた。

 サファイアだろうか?

 透明な青が光を受けて美しく輝いている。


「セレス。これ貰ってもいいの?」


「それは君のだよ。

 僕がナナに渡すプレゼントは、全部ナナのものだ。

 返そうなんて思わなくていいよ」


「ありがとう」


 私はペンダントを付けてから、鏡を見ようと立ち上がった。

 そうしたら、セレスがすぐに鏡を出してくれた。

 凄い。髪も瞳も綺麗な青だ。セレスと同じ色。


 少し違うのは肌の色。

 私のは黄色味がかった小麦色。

 セレスは白に近いクリーム色。

 白人と黄色人種の違いだね。


 けれども、思ったよりもずっと、青い髪色は私の顔に似合っている。

 元々小顔だけは褒められていたから、青い目で青い髪でもそこまで違和感がない。


「どう?セレス。似合っている?」


 私が振り返るとセレスは嬉しそうだった。


「僕の色を纏ったナナは、とても美しいよ」


 僕の色を纏う。

 私は言葉のインパクトの強さに愕然とした。

 そうか、そうきましたか。


 するとあっという間に、ドレス姿になっていた。

 セレスめ!


「姫、お手をどうぞ。

 一曲お相手願います」


 いつの間にかワルツが流れている。

 スローテンポなのは、私に配慮したのだろう。

 これくらいならいけそうだ。

 私はセレスの手を取って踊りだした。

 私がそこそこ踊れるのを見て、セレスも楽しくなったみたい。


 暫く船上の舞踏会を楽しむうちに、空は夕焼けに染まってきた。

 セレスがダンスを止めて、舳先に案内してくれる。


「ほら、見えて来た。あそこが海の国セレスティア王国だよ」


 夕焼けに染まるセレスティア王国はとても美しい。

 元々はきっと白壁なのだろう。

 家々も橙色にほんのりと染まっている。


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