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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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悪意

 私が機嫌を直したのを素早く見て取ったセレスは。ご機嫌でエスコートを開始した。

 まぁいいわ。

 セレスがご機嫌なら何か口を滑らすこともあるかもしれない。


 ロッテはシャアと、リリーはエルにエスコートして貰って、三組の恋人同士は仲良くお茶席についた。

 男子が来ることになったから、お茶会と言うよりは食事会と言ってもよいほど、ボリュームのあるメニューになっている。


 そしてようやく気がついた。

 リリーは給仕を全て下げていたことに。

 何か話があるのだろうか?


 いぶかし気にリリーを見ると、リリーは可笑しそうに笑った。

「また気を回したのね。違うわよ。

 久しぶりだから、のんびりしたいと思っただけ。

 給仕がいた方がいいなら呼ぶわよ」


「いいえ、いらないわ。ただ何か大事な話があるのかと思ったのよ。

 だってリリーとエル、なんだかいつもと違うもの」


「よく見ているね。確かに話があると言えばあるのだ。

 たいしたことではないけれどね。

 僕とリリーは結婚することにしたのさ。

 結婚式は国に帰ってからになるけれど、婚約式は三か月後にアストラルの神殿で行う予定なのだ。

 それで愛し子様に祝福をお願いしたかったのさ。

 お願いできるかな?」


「勿論よ。喜んで祝福でも何でもするけれど、あなた達まだ婚約していなかったの?

 その方が逆に不思議なのだけれど」


「それはリリーに言って欲しいな。僕はずっと前にプロポーズを済ませている。

 返事をしなかったのはリリーだからね」


 皆が一斉にリリーを見た。

 エルフェンリートは、幼いころから婚約者候補としてリリーと一緒に育ってきたのに、リリーは何が不満だったのだろう?


「嫌だわ、皆、そんな風に見ないでよ。

 私もずっとエルと結婚する気でいたのよ。

 でも、何だか悔しいじゃないの。あてがわれた人と恋に落ちるなんて」


「じゃぁ、どうして自分の気持ちに正直になれたの?」


「それはこの間、シャアがやらかしたからだわ。

 エルが庇ってくれたし、その後でもとても甲斐甲斐しく面倒を見てくれた。

 それになによりシャアをぶっ飛ばしてくれたからね」


 今度は一斉に皆の視線がシャアに集まった。


 シャアは少し怒ったようなぶっきらぼうな口調で言う。

「あれは俺が悪かったから、エルの制裁を甘んじて受けただけさ。

 お詫びのつもりだったんだ」


 それで全員が納得した。

 参謀タイプで荒事には不向きなエルが、本当にシャアをぶっ飛ばしたのだと。

 それはなかなか凄いことだったから、リリーが折れたのも分る気がする。


 それからは皆でエルとリリーにおめでとうと言った。

 誰もシャアの事には触れない。

 どんな風にぶっ飛ばしたのか、大いに興味があったけれど、それは男の子のプライドに関わることだから触れてはいけないと、皆わかっていた。


「シャアはロッテと正式に婚約したの?」


「別に婚約式はしていないけれど、婚約証書は作成したし、神殿への届けも済んでいる。

 俺とロッテは正式に婚約者になった」


「改めておめでとう、シャア、ロッテ。

 結婚はやはり卒業してからになるのね」


「あぁ、学生の間は学業優先さ。それに俺はまだ皇子って役に馴れていないからな」


 そうだった。シャアは皇子になって、まだひと月も経っていない筈だ。


「ローランお兄さまに、こき使われているのね。皇太子殿下は厳しいでしょう?」


「そうでもないさ。俺はあいつが好きだぜ。すっぱりとものを言うからな。

 他の貴族の奴らときたら、何が言いたいのかさっぱりだ」


 私は驚いてロッテを見た。

 完璧令嬢は完璧にポーカーフェイスを保っていたけれども、僅かに首を振って遺憾の意を示していた。

 色々大変そうだけれども、ロッテが付いているから、何とかなるだろう。


 ところで、セレスが大人しすぎるようだけれど。


 そう思ってセレスをみたら、セレスは居眠りをしていた。

 そう言えば、顔色も悪かった。

 寝ていないのだ。


 リリーを見たら、すぐ近くの東屋に視線を走らせた。

 そこにはゆったりとした寝椅子があるし、日差しも遮る事が出来る。


 私は、なるべくセレスを起こさないように、浮遊の魔法を使ってセレスを、寝椅子に寝かせた。

 この時点でお茶会は終了だ。

 恋人たちはそれぞれで楽しんでいるだろう。


 私はセレスに軽い誘眠魔法をかけた。

 もしもセレスに予定があったら、きっと困るだろう。

 催眠ではないから、熟睡はしていない。

 必要なら起きるはずだ。


 風がどこからともなく優しい香りを運んできた。

 学院には香木もあるし、ハーブも植えている。

 そのどれかの香りだろう。


 日差しはすこし暑いくらいだけれど、屋根が日を遮っているから、気持ちがよい。

 人の寝息は眠気を誘う。

 このままでは私まで寝てしまいそうだ。


 それで私は探知魔法を使うことにした。

 ちょっとした魔法の練習のつもりだった。

 意図したことではなかったのに、引っかかった人がいたのだ。

 確実に害意を持っている人が。


 此処は学院の中だったから、学生がどこかに潜んでいてもおかしくはなかった。

 だから探知魔法に指向性を持たせた。

 害意を持つ者という縛りを付けた。


 悪意ではない。悪意を持つ人はきっといるだろうから。

 皇女だの公爵と聞くだけで、悪意を持つこともあるのだ。

 それは仕方がないことだ。


 私は全ての人を愛することなど出来ない。

 好きな人も嫌いな人もいる。

 だから私やセレスが嫌いな人がいて当たり前だと思っている。


 全ての人に嫌われない。そんな事はあり得ない。

 人の心は自由だし、縛りたくもないから。


 だけど害する意図を持って潜んでいるとなると、話は全然違ってくる。

 さてどうしよう?


 殺したいと思う事と、実際に殺人を犯すことは全く別だ。

 心のなかで、何人殺そうと。実際に行わなければ問題ない。


 潜んでいる人は実際に行動をおこすのだろうか?

 私は目に魔力を集めて、その人を見た。


 学生だった。しかも女の子。とても暗殺者には見えない。

 まぁ、暗殺者だったら、探知魔法を使った時点で逃げるか、襲うか、しているだろう。


 女の子だとしたら狙われているのは私なのだろうなぁ。

 そう思うと気が重い。

 これから学院生活をおくるというのに、初日から殺したいほど嫌われていることを知るなんてね。

 なんの罰ゲームだろう。


 さて、彼女は一体誰なのかしら?

 私は耳にあるイヤーカフでラブに聞いた。


「私の視線の先にいる女性の情報をお願い」


『彼女はミエル十五歳。 

 正式な爵位はありませんが、イグナイト伯爵家が猶子として彼女を保護しています。

 彼女は没落した宰相家の末裔で、寄子だったイグナイト家が彼女を保護したようです』


 没落貴族。

 成る程、どんな理由で没落したか知らないけれど、恨む理由がありそうだ。

 そんな事を考えているとセレスがじっと私を見ていることに気がついた。


「セレス。起きたのね」


「何を呑気な。あれだけ悪意をぶつけられて寝ていられるわけがないだろう」


「へえー。凄いねぇセレスは。悪意に敏感なんだ」


「お前だって気がついていただろう。で、どうするつもりだ」


「どうもしないわよ。まだ何もしていないのに」

 セレスが目を剥いた。


「お前は!何か会ってからでは遅いんだぞ」


「じゃぁ、とりあえず監視でもつけておいて。それで十分でしょう?

 女の子なのよ。何が出来るって言うの?」


「あぁ、もう。仕方ない。だが何かあったら、庇うなよ。

 約束しろ」


「うーん。この世界に情状酌量の余地は?」


「ない」

 きっぱりと言われてしまった。


 仕方ない。嫌だけれど、後で彼女とお話合いをしよう。

 そうしないとセレスに処理されてしまいそうだ。


「約束するわ」


「何か企んでいそうな顔で約束されてもなぁ」


「じゃぁ、約束しない」


「わかった。約束だからな」


「ええ、それよりセレス。凄く疲れているよね。

 もう少し寝た方がいいと思うけど」


「悪いが時間がない。今夜はリリーの部屋に泊まるのだって?

 護衛は付けるが、夜はなるべく神殿に帰るようにしろ」


「分かったわ。今夜だけよ。これからは神殿から通うわ」


「そうしてくれ。悪いがもう行くよ」


 そう言うなりセレスは消えてしまった。

 じゃぁ、私も行くとしますか。



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