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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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自由

 私は多分怒っていた。

 本当に腹を立てたという意味ではない。

 腹を立てても許されると思ったのだ。


「ラブ。セディに通話を繋いで。必ず私と話しをするはずだと言って頂戴」


 すぐにセディの姿が現れた。


「本物?それとも幻影?」


「どちらでもいいじゃない?少なくとも会話は出来る」


「あなた、精霊界に行く気はないかしら?

 大精霊に会ってみたくはない?」


「冗談だろう?僕を大精霊に引き渡すって言うのか?」


「その狼狽ぶりを見る限り、本物みたいね。

 座って。少し話をしましょう」


 セディは「おっかねぇ女」と、呟いたけれど聞こえているからね。


「なぁ、セレスタイトは馬鹿だが龍だ。

 僕はセレスの参謀役だ。

 だからもうすぐ聖霊団を追い詰める筈さ。

 君はここで、のんびりしているだけでいい。

 何が問題なのだ?」


「何が問題か?ですって?

 それを聞くことがすでに問題だと気づいていないのが問題なのよ」


 私がそう言うとセディはうんざりした顔を隠そうとしなかった。


「ねぇ、愛し子様、君は転移者だと聞いているよ。

 教えてくれないか?

 セレスタイト公爵閣下の参謀が、どうして女の気分などで作戦を変更する必要があるのかをさ。

 それに君は拗ねているだけで、怒ってもいないじゃないか。

 つまりは、君は僕に八つ当たりをしているのさ」


 それは全くその通りだったので、私はぐっと詰まってしまった。

 私が何も言えなくなったのを見て、セディは少し口調を緩めた。


「ごめんよ。きつい言い方をしたね」


「ええ、全部あなたの言う通りよ。

 セレスは自分の弱点をよく知っているのね。

 違うわね。セレスはそんな事に頭を使わない。

 ローランお兄さまね。黒幕は。

 貴方とローランお兄さまは気が合いそうだもの」


「あぁ、僕らは親友だ。ローランは兄弟にならないかと言ったが、僕が断ったのさ。

 あんなところに閉じ込められるのはまっぴらだったからね。

 その代わりに潜入捜査員になった。

 実力で神殿長になった。なかなかだと思わないか?」


「ええ、たいしたものだわ。もしかして技術者だったの?」


「単なるIT奴隷にすぎなかったけれどね。

 おかげで過労死してここに転生した。

 でも面白い世界だよね。龍が実在するなんてさ」


「そうよね。しかも龍があれほど単純だとは思わなかったけど」


「セレスも可愛そうに。恋人にまでそんな事を言われるなんて」


「悪口じゃないわ。私も単細胞だもの。

 私達は似ているのよ。だから気があうのね」


 セディは、私が本気かどうか確かめるように私を見つめた。

 そして本心だと見て取ると、深いため息を吐いた。


「なるほど。ローランが言っていたことが、ようやく腑に落ちたよ。

 転移者の自己評価は、かなりいびつらしい」


 失礼な奴だ。

 私の分析は当たっているのに。


「ねぇ、転生者の貴方から見て大精霊の役割って何だと思う?」


「さぁ、あまり考えたことは無いけどね。裁定者なのだろう?」


「私はね、閻魔大王ではないかと思うのよね」


「閻魔大王だって、閻魔大王って、まぁ裁判官と言えなくもないけれどね。

 なんだってそんな突飛な考え方になるんだ。

 しかも君は大精霊の愛し子なのだぜ。閻魔大王の愛し子と言われたいのか?

 随分と変った趣味をしているのだね」


「そうじゃないけれど。

 閻魔大王は浄玻璃の鏡でその人の一生を裁定すると言われているでしょう?

 死ぬことも生きることも出来ずに囚われる大精霊の裁定って、結局は本人の記憶なのでしょう?

 歪められない事実だけを積み上げた記憶。

 それって浄玻璃の鏡のことではないのかしら?」


「成る程。言われてみれば。君って本当に面白いね」


「楽しんでくれたなら、自由を許可してよ。

 何もしないわ。学院に行って一学生として勉学に勤しむから」


「君がそれを要求するとは思っていたけれど、こんな風に持ってくるとはね。

 確かに楽しませて貰ったよ。

 君は自由さ。明日から通学して。これを渡しておくね」


「装身具。イヤーカフね。転移装置なのかな?

 もしかしてラブとも繋がっているの?」


「大正解。説明もしなくていいのは助かる。

 それじゃぁ。最後の休暇を楽しんで!

 明日から忙しくなるだろうからね」


 そう言ってセディは消えた。

 やったね。これで自由だ。

 ふふん、セレスの邪魔にならなければいいのだわ。

 私は、密かにほくそ笑んだ。


「ラブ。通話をリリア王女に繋いで」


「ナナミ。ナナなの?

 ナナ何していたのよ。入学式にも来ないで」


「ゴメン、色々あってさ。

 明日から通学できることになったの。

 だから、それを報せたくて」


「そうなの?

 こっちはもう授業は終わったのよ。

 そのまま私の部屋に来ない?

 今夜はこっちに泊まって、明日一緒に学校に行きましょうよ」


 なんて素敵なお誘い。


「いいわ。

 それじゃ転移するから座標を頂戴」


「ラブ、リリアから座標が届きしだい転移を開始して!」


 私が命令した瞬間、転移魔法が発動し、目の前には懐かしい友がいた。


「リリア」

「ナナミ」

 声をあげたのは二人同時だったから、私たちは一緒に噴き出してしまった。

 そのまま笑い転げて、お腹が痛い。


「ナナ。心配させないでよ。

 お騒がせ娘なのだから」


 そんなリリアのお小言も懐かしくて私は素直に謝った。


「ゴメン。実はセレスが悪いの」

 私がこれまでの事を委細漏らさずに話すと、リリアは首を振った。


「私からすると、やっぱりナナがお騒がせ娘だとしか思えないわ。

 どうしてかしら」


 うーん。リリアにそう言われるとそんな気がする

 どうしてだろう?不思議だ。


 二人で不思議だねえと言い合っていると、リーゼロッテの訪問が告げられた。


「ロッテと仲良くなったのね」


「まぁね。ロッテはシャアの婚約者になったからね。

 この学院の女子では、私と同等の立場なのよ」


 成る程、王家の王女と、皇家の皇子妃になる予定の姫。

 確かに同等だろうなぁ。


 リーゼロッテは入ってくるなり私を見て、驚いた。


「皇女殿下」そう言って畏まろうとするのを、私が遮った。


「お姉さま。今では身分はお姉さまの方が高いぐらいですよ。

 畏まらないでください」


 そうなのだ。皇女と皇子の婚約者。

 結婚前は私の身分が高いけれど、結婚したら皇子妃の方が上になる。

 皇女なんて、いずれ皇家を出ていくけれど、皇子妃はずっと皇家の人間だから。


 リーゼロッテはすぐに理解を示した。

 そして、私達、名前で呼び合いましょう。

 お姉さま呼びは照れるからと言った。


 と、いう訳で、この瞬間、学院のお騒がせ3人娘が誕生したのだった。

 リリはニコニコとその様子を見ていたが、話しが落ち着いたところで、お茶会をすることになった。


 それはとても素敵な考えだ。

 私はピクニックのブランチから何も食べていなかったし、今は丁度ティータイムだったから。


 それなら男の子たちも呼びましょう。

 と言うことになって、伝令が大急ぎで、シャアとエルフェンリート、そしてセレスタイトの所に送られた。


 お茶会の時間通りに現れた男たちは少しくたびれているように見えた。

 まぁ、伝令が届いてから、三十分も経たないうちに駆け付けたらそうなるだろう。

 彼らは皆公職についているのだから。


 特にセレスタイトの顔色は悪かった。

 セレスは何か言いたそうに私をみたが、すぐに諦めたようだ。


 私は意趣返しに、少し揶揄ことにした。

「セレス、お久しぶりね。婚約者を一人にして何をなさっていたのかしら?」


 セレスはグッと唇を引き締めて、笑顔を作った。

「失礼しました姫。お心をお静め下さい」

 そう言って、グローブをした私の指先にキスを落とした。


 私はそっと指を引いた。

 やっぱり慣れない。

 ちょっと頬が染まったと思う。


 それでセレスが笑ったのが見えたけれど、今度は悔しくなかった。

 代わりに心が軽くなっている。

 おかしな私。

 セレスの表情一つで気持ちがかわるなんて。


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