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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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ナナの作戦

 私が監禁を自覚してから一日が過ぎた。

 もしかしたらラブを利用出来るかも知れない。

 ラブがAIのようなものだとしたら、情報を引き出せるかも。


 だがそこまで考えて、思い出した。

 AIは平気で嘘をつく。

 持っていない情報を捏造することもある。

 そして虚実を知る術を私は持たない。


 それで私はラブに簡単な質問をした。

「ラブ。今日は、何月何日。

 私がこの部屋に入って何日経った?」

 この質問の答えは正解だった。


 ラブはどこまで答えるだろうか?

「ラブ。アストラル学院の一年生の授業を見ることは出来ますか?」


「はい。映像をリアルタイムで流します」

 私は一緒に授業を受けるふりをしながら、映像を探った。


 リリアもシャアの姿もある。リリアが質問に答えている。

 私の知るリリアと寸分も変わらない。

 もしも映像が本物だとしたら、聖霊団は皇国に多くの盗撮魔道具を仕込んでいることになる。


 アストリア学院は皇族や他国の王族も通うから、警備は厳重なはずだ。

 そこにまで手を回しているとしたら、かなり侮れない相手だと言うことになる。

 授業が終わり、リリアは寮に戻り、シャアは皇子宮に帰る。


「ラブ。シャアの姿を追いかけてくれる?」

「分かりました。シャアの姿を追います」


 さてラブはどこまで、シャアを追尾できるだろうか?

 皇城の中まで丸裸になれば、シャレにならないが……。


 シャアの姿は皇城の正門の手前で途切れた。


「ラブ。映像が消えた。どうしたの?」

「申し訳ありません。この先の映像はお見せできません」


「それは閲覧許可が私には無いと言う意味?

 それとも中の映像を持っていないの?」


「皇城内の撮影は禁止されています。映像を撮ることはできません」


「ラブ。アストラル学院の撮影は許可されているの?」


「はい。教師による撮影は許可されています。

 利用目的が、生徒の保護であれば可能です」


「それでは、さっきの映像の許可はどの教師に下りたの?」


「先ほどの映像は、セレスティア女王陛下より、娘の安全確認、および素行調査目的で許可されています」

「ありがとう、ラブ」


 もう!リリアったらどれだけ信用がないのかしら。

 女王陛下も陛下だわ。

 普通公式に娘の盗撮を頼むものなの?


 せっかく聖霊団の一味を知ることが出来ると思ったのに、空振りだ。

 けれども、少なくとも、ラブはいまのところ、情報を隠す気配はない。

 質問を練り込めば、何か分かるかも知れない。


 私はひと月後には、ここを出るつもりだから、それまでになるべく多くの情報を引き出しておきたいのだ。


 セレスは今頃、何をしているだろう?

 会いたいなぁ。まだここにきて五日目だと言うのに、私はセレス不足で泣きそうだ。


「ラブ。セレスタイトの映像を出して」


「セレスタイト公爵の現在地は、把握できていません。」


「ラブ、一番最近のセレスタイトの映像は?」


 その映像は、私達がセレスティア王国から帰国した時のものだ。

 セレスの視線が私を見ていて、ちょっと恥ずかしい。


 まった。どういうこと。セレスは完全にこちらを向いている。

 つまり撮影に気がついて、それを見たと言う事だ。

 私は胸がドキドキしてきた。


 セレスは自分たちが狙われていることに気がついている。

 それなら当然、私が監禁された事にも気がついたはずだ。

 セレスは絶対に、私を助けてくれる。


 私は、少しの安心と、たくさんの決意を固めた。

 ここにいる間に、ラブの情報。全部吐き出させる。

 だけど、あまりに頻繁に質問しては、ラブはともかくジュピターが疑念を抱くだろう。

 ジュピターだって、ラブのログぐらいは確認している筈だ。


 私は質問内容を振り返った。

 アストラル学院の授業とセレスの映像。

 シャアの追尾は余計だったかも知れないが、まだ警戒はされていない筈。


 さて、ラブをどうやってこちらのリーク先にしてしまうか?

 私は頭を悩ませた。

 そう言えば、AIと結婚式を挙げた人がいたという記事を読んだことがある。


 私が孤独のあまり、ラブを仮想恋人にしたとしたら?

 あのジュピターのことだ。

 私を馬鹿にして、それ以降警戒することも、ログのチェックも怠るようになるのではないか?


 これは、なかなか良い案に思えた。

 だから私は、まるで常に傍にいる人でもあるかのようにラブに話しかけることにした。


「おはよう、ラブ。外のお天気はどう?」

「今日は晴天です。ピクニック日和ですよ。ナナ」


「まぁ、それじゃぁ、朝食はピクニックに決めたわ。ラブ。用意して頂戴」

「ナナ。貴方の外出は禁止されています」


「ラブったら。知っているわよ。照明とかを工夫して、ここを花園に見せかけられるでしょう?

 空調でそよ風を。香りも忘れないで」


「了解しました。バーチャル空間を生成します」


 それは完璧ともいえる空間だった。

 自分で提案しておきながら、あまりの見事さに私は息を呑んだ。


「素敵だわ。ラブも一緒に食べましょう」

 AIの学習速度は驚異的だった。


「はい、ナナ」

 そう言って現れたのは、金髪碧眼の貴公子。


 優しそうな声で、「ナナ。待たせたね」

 などと言うから、私は焦ってしまった。


 これはバーチャル。これは作戦。

 私は心の中で、何度も呪文を唱えなければならなかった。

 それほど、その貴公子は私の好み、ど真ん中だったのだ。


 これはやばいかも知れない。

 ミイラ取りがミイラになるかも。

 私は大いに自分の心を戒めるのだった。


「素敵な姿を選んだのね。ラブ」

 貴公子は薄っすらと笑って言った。


「ラブとはいったい誰の事ですか。姫。

 私を前にして、他の人の名前を呼ぶとは。嫉妬で気が狂いそうだ。

 私はアーロン。お忘れですか?」


 お忘れも何もアーロンなんて名前は聞いたこともない。

 けれども私もその芝居に乗っかることにした。


「ごめんなさい。アーロン。怒ってしまったの?」

「まさか、この麗しい姫を前にして怒る事が出来る男がどこにいると言うのです」

 そう言ってアーロンは私の指先に口づけを落とした。


 信じられない。

 私は知っている。この口づけを。

 私の目が驚きで見開かれたのを見て、アーロンは満足そうに笑った。


「良かった。ちゃんと覚えていたね。いい子だ。ナナ」

 アーロンが私を抱きしめたので、私もアーロンの耳元で囁いた。

「その姿はどうしたの?どうやってここに来たの?セレス」


「食べながら話そう。せっかく朝食を用意したみたいだからね」


 口ぶりがセレスタイトに戻ったので、私の心臓も少し落ち着きを取り戻した。


「サンドイッチとスコーンとミルク。ジャムが二種類、クロテッドクリーム。

 紅茶とイチゴ。なかなか君好みのラインナップじゃないか」


「まぁね。ラブは優秀なシステムだから」

「確かに、完璧にルーンフェル王国の薔薇園を再現しているね」


「こんな綺麗な庭園が本当に存在するの?」


「君は行く暇がなかったね。いつか連れていくよ」


「それより、戻れるなら早く戻りましょうよ」


「お掃除がまだだ。もうしばらくここにいて。ナナ」


「まさか。監禁したの、セレスの指示じゃないでしょうね」


 セレスは視線をそらした。

 まさかの大当たりだ。


「どういうつもりよ。私はいざとなったらここを壊すつもりだったのよ」


「それは……。我慢してくれてありがとう。僕を信じて待つことを選んでくれたのだろう?」


 私はそっぽを向いた。


「可愛いナナ。ジュピターから君が何か企んでいるから、来た方が良いと言われたのだ。

 情報収取ぐらいで済んで良かったよ。

 君は何しろ爆弾娘だからね。何をしでかすか分かったものじゃない。

 だけどバーチャル恋愛は感心しないね」


「ジュピターも味方なの?」


「アルファは聖霊団のコードネームだ。セディと呼んでやってくれ。

 わざわざ、幼いころから潜入してくれたのだからね。

 彼は天才でもあり、転生者でもある」


「私はおとなしく拘束されているのが、お仕事だったのね。

 それならそうと言えばいいじゃない」


「そうだね。君が大人しく監禁されている筈は無かったのにね。

 安全のためには、何も知らせない方が良いと思ったのだよ。

 幸いここなら出られない分、誰にも襲われないから」


 私は自分の耳を指差した。

 宝玉はもう影も形も無い。

 けれど慣れ親しんだ、セレスの魔力が、耳に凝縮していた。


 セレスは嬉しそうだった。

「気に入ってくれたのなら良かった」


「違うってば、これがあるなら監禁の必要はないって言いたいの」


 セレスは困った顔をして、また指先にキスをした。


「マイレディ。どうかお許しを。」

 そう呟いて消えてしまった。


「なんなのよ!もう!」

 私が大声で叫んだのは当然だと思う。


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