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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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監禁

 人というのは慣れるものなのだなぁと、私はしみじみと思った。

 大きな天蓋付きのベッドにも、すべらかな絹の寝間着にも、感動することが無くなった。

 この世界に来た時には、あれほど感動していたと言うのに、いつの間にかこれが日常になっている。


 よくも悪くも、こうやって人は順応していくのだろう。

 ただ、この神殿は今までとは大きく異なるところがある。

 全てが魔道具によって自動化されているのだ。


 キャンディが鼻高々に教えてくれたところによると、このジュピター神殿は、神殿長の趣味で魔石が大量に使われている。

 部屋に入るときには、扉の前の魔石に瞳を登録させられた。

 これ以降部屋に入れるのは、私だけだそうだ。

 ジュピターと専属侍女のキャンディは、入ることが出来るが、その時には室内にベルが鳴る。

 私が拒否すれば入れない。返答が無ければ扉は開く。

 もしも私が室内で倒れた時の配慮だと言う。


 室内では声だけで全ての道具を扱える。

 電気をつけて。お風呂を沸かして。お茶を入れて。

 そんな命令も言葉一つだ。

 だから神殿長にも、側仕えはひとり。


 その側仕えにも仕事はほとんど無いらしい。

 だから側仕えと言いながら、秘書官の仕事をしているのだとか。

 キャンディも同じらしい。

 私が公務に就くようになれば、それを補助するのはキャンディだ。


 ジュピターが転移者ではないことは確かだ。

 転移者ならローランお兄さまが放置する筈はないから。

 でもこれは最先端テクノロジーにそっくりだ。


 ジュピターは最先端技術の記憶を持って生まれたのかも知れない。

 もしかしたら、科学者や技術者だったのかも。


 とはいえ、人がいると落ち着かない私には、神殿はとても居心地が良い。

 ほとんど人に会わないから。

 私は引き籠ることは得意だ。だから気がつかなかった。

 神殿に入って3日。誰も部屋に来ないことを。


 ひとり遊びが大好きな私は、ピアノを弾いたり、本をよんだり、魔石相手にチェスをして楽しんでいた。

 お腹が空けば、魔石が好みの食事を提供してくれる。

 私は魔石にラブと名前を付けた。


「ラブ。今日の予定は?」

「予定は入っていません。何をご用意いたしますか?」

「ミゼラブル学院で受けられる授業とそのテキストを用意して。

 入学の準備をするわ」


「入学式は本日 午前十時からです。しかしナナ様の入学は取り消されております」

「ラブ。取り消した人は誰?」

「ジュピター様です」

「ジュピターとの面会申請を」

「申請は却下されました。」


「部屋を出るわ。ドアを開けて」

「不許可です。ナナ様がこの部屋を出ることは許可されていません」

「通信を。相手はセレスタイト。フィクトス公爵を呼んで」

「通信は許可できません。手紙や面会も許可されません」


「いいわ。勝手に出ていくから」

「この部屋では魔法は使えません」


 私は急いで小さな灯りの魔法を使った。子供でも使える魔法。

 だけど魔法は発動しない。何かが魔法の生成を阻んでいる。


 身体がガタガタと震える。手先が冷たくなっている

 落ち着け、落ち着くのよ。ナナ。私は自分を叱咤した。


「ラブ。どうして私が閉じ込められたか教えて」


「ナナは大精霊の愛し子。危害を加えることは許可できません。

 だが、ナナは龍の番。龍と龍の番は抹殺対象。

 よって、ナナは無期限監禁となります」


「誰が、誰がそれを命じたの?ジュピターの上司は誰?

 まさか、ミゼラブル法王なの?」


「ミゼラブル教団は無能。

 真実世界の理を統べるのは、わが聖なる精霊のみ。

 我らは聖霊団。聖霊団に意向に従いなさい。ナナ」


 信じられない。ここは牢獄だったのだ。

 豪華な牢獄。私はこの牢獄に死ぬまで閉じ込められてしまったのだ。


 どうして疑問に思わなかったのだろう。

 あのセレスが、毎日顔を見せないことに。

 セレスは毎日、会いに来ていたのに。

 私は、便利な機能を使いこなすことに夢中になっていたのだ。


 多分私が理を使えば、大精霊の所までは行けると思う。

 理は私の中にあるものだから。

 けれど、精霊界に行ったとして、もう一度人間界に戻れるのだろうか?

 私には確信が持てなかった。


 だから待つことにした。自分で決めた期限はひと月。

 もしも私が病気だと言い繕っても、セレスが耐えきるのはせいぜいひと月も無いだろう。


 ひと月たってもセレスが来なければ、セレスにもこの結界が破れないと言う事だ。

 そうなったら私は精霊界に赴いて、中から結界を破壊するしかない。

 そう決めたら、すっきりとした。私はいつも通りの声で言った。


「ラブ、勉強はここでするわ。

 アストラル学園のテキストを全部出して。

 分からないところはラブが教えて」


「了解しました」


 次の瞬間、部屋は本で溢れた。全てではなく基本と言うべきだった。

 私は情けない声でラブに言った。

「一年生が習う基本のテキストと教科書を残して、他は収納して頂戴」


 教科書とテキストは十冊ずつになった。

 ノートとペンも用意して、私は予習を始めるのだった。

 共通語・数学・古代語・薬学・魔法学・礼儀・地理・歴史・ダンス・護身術または武術


 この十科目にそれぞれ得点が最高で十点付く

 四点以下は赤点で再試験。再試験に落ちたら落第で翌年もその科目を取ることになる。

 合計得点九十点で、飛び級を使って二学年に上がれる。


 学期は前期と後期に分かれているから、早いと一年学ぶだけで翌年は三学年に進級できることになる。

 三学年までで、卒業することも出来るし五学年まで学ぶことも出来る。更に学びたい人のために十学年まで用意されている。


 十学年を卒業するのは、日本で言えば博士課程を修了したのと同等だろう。


 上級生に成るほど選択科目も増えるようだ。

 最初は一年で卒業して結婚するつもりだったけれど、誓約で三年間勉強することになる。


 それなら、しっかり勉強してみたい。

 学ぶことは楽しみでもあるから。


 ジュピターから通信があった。


「ナナ。一人で勉強しているようだけれど、無駄だよ。

 君はそこから出ることは出来ない。

 その結界は龍でも壊せないのだからね」


「関係ないわ。学問は牢獄でも出来るもの。私は学び続けたいの」


「御立派なことだな。そんな事を言っていても、皆絶望して自暴自棄になるのさ。

 まぁ、せいぜい足掻くがいいさ」


「どういう事、ジュピター。他にも監禁している人がいるの?」


「人の心配をしている場合ではないとおもうけれどもね」


 そう言って一方的に通信が切れた。


 もしも他に監禁されている人がいるのなら、助けてあげないと。

 もうこうなったら大精霊様だけが頼りだけれど、私は自分が決めた期日までは待つと決めたのだ。

 揺らぐな。落ち着け。相手は私を動揺させたいのだ。


 平常心で。淡々としているのだ。

 敵わないときに、無駄に足掻くのは、自分を消耗させるだけだ。

 これは神経戦でもある。


 相手も焦っているのだ。わざわざ通信を使ったのだから。

 自分のターンは必ずくる。焦っては駄目よ。

 私は、黙々と静かに戦っていた。


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