帰国
昨日は色々やらかしてしまったけれども、昨日のセレスの言葉が本当なら、今日にもアストラル皇国に帰る事が出来る。
アストラル皇国に住んで僅かなのに、帰るという言葉に違和感がないのは、やはり家族の存在だろう。
親交があるのは皇太子殿下ぐらいだけれども、分け隔てなく妹として扱ってくれていたから、すっかり家族のつもりになっている。
朝早く目が覚めて、準備も万端。
いつ帰れるかとうろうろしていると。巫女たちが笑った。
「ルーンフェル王国の良い国ですよ。
どうしてもアストラル皇国に帰るのですか?」
そんな事を言ってからかうのだ。
でもそれほど待たなくても、セレスが迎えに来た。
「ナナ。今から国王陛下と法王猊下にご挨拶に行くぞ。
リリやロッテはもう挨拶を済ませて、先に転移しているから、残るのはお前だけだよ」
「セレス。どうして私が最後なのよ」
「受け入れの準備があるからだよ。
仕方がないだろう」
そうして私は、お世話になった方々にお別れの挨拶を済ませて帰国した。
戻った先は懐かしい皇女宮だったけれど、すっかり模様替えが済んでいた。
聞くと、ここは今日からシャアがここの主。ここは皇子宮になるのだって。
私の仕事は全部シャアが受け持つのだって!
さすがに側近や秘書官は男性になるけれどね。
皇太子殿下って切り替え早いなぁ。
昔なら自分の居場所が無くなるといじけてしまう所だけれど、今はそんなことはない。
なぜだか大精霊様の守護が発現してから、人の気持ちを疑う事がなくなった。
昔はいちいち人の顔色を読んで、勝手に落ち込んでいたのだけれど。
だから安心して、シャアに言う事が出来た。
「お兄さま、後はよろしく頼みますね」
「しょうがねぇなぁ。まぁ任せとけ。妹よりは上手くやるさ」
そんな会話をしていると、皇太子殿下が、来られた。
「やぁ、ナナ。お帰り。シャアを連れ帰ってくれて助かったよ。
神殿の準備も出来たよ。
こっちのお披露目は控えめで頼むよ」
「あれは初めてで、だからだもの」わたしが口を尖らすと皇太子殿下は笑った。
「分かったから。神殿に入ると一緒に食事もままならないからな。
今日は家族で食事だ。
リーゼロッテも正式にシャア皇子の婚約者に決まったからな。
一緒においで」
リーゼロッテがはにかんでいる。
完璧令嬢がはにかむなんて……。
そこまで考えて、やっと気がついた。
「ロッテ、あなた治ったのね!」
私が叫ぶと、皆が呆れかえってしまった。
「ナナ。さっきまでロッテと話をしていただろ?
どうしてきがつかなかったの?」
セレスが呆れ声を出した。
どうしてだろう?
あんまり普通だから逆に気がつかなかったのだよね。
それにしてもやはり、ロッテとシャアが恋人同士になったのだわ。
よかったなぁ。
皇太子殿下はリリアとエルフェンリートも食事に招待してくれたから、きっと賑やかな午餐になるに違いない。
皇帝陛下も皇后陛下もとてもお優しかった。
前皇帝陛下が亡くなってからの十年間、皇帝陛下と皇后陛下はとても苦労されたのだって。
何でも反皇帝派閥というのが、権力を握っていて、皇帝の権威がとても弱かったらしい。
不思議だよね。
この国は皇帝陛下の魔力のおかげで、豊かでいられるのに。
そう質問すると、皇太子殿下が笑った。
「世の中、ナナみたいに単純な人ばかりだといいのに」
えーと。
今の言葉は、褒められたのだろうか?
それとも貶されていたの?
私の頭にクエッションマークが飛び交っているのがわかったらしい。
全員が面白そうに笑った。
まぁいいけれどね。楽しいのなら。
こんな優しい食事会になるのも、皇帝陛下と皇后陛下の人柄のおかげだ。
だからシャアも私も、そしてロッテまで、すっかり家族の一員になっていた。
セレスタイトが席を立った。
「ナナを神殿に連れて行きます」
「お父様、お母様、お兄さま方。ロッテ。リリ、エル。
また学院であいましょうね」
そう言うと、リリが笑った。
「何いっているのよ。神殿に遊びに行くに決まっているでしょう」
「本当!待っているわ。絶対よ。
ロッテじゃなくて、お姉さま、お姉さまも遊びに来てね。
もちろん、お兄さま方も」
シャアが苦笑した。
「俺たちはいつもひとくくりなのか?
シャアお兄さまとローランお兄さまと言えよ」
「はいはい。ローランお兄さま、シャアお兄さま。
ぜひ神殿に遊びに来てくださいね」
そうして私は神殿に転移した。
神殿長が出迎えてくれた。
法王様みたいにお年を召して居るかと思っていたら、とても若い。
ローランお兄さまと同じ年位なのではないかしら。
えーと、ローランお兄さまは17歳。
いやいくら何でも17歳で神殿長はないわよね。
私がそんな事を考えていると、神殿長は笑った。
「君がローランの妹だね。僕は学院でローラント同級生だったのだよ。
それでローランから君のことを頼まれている。
学院の事も教えてあげられると思うよ」
「ありがとうございます。猊下」
「僕のことならジュピターと」
「ジュピターが名前なのですか?」
「きみは鈍いと聞いていたのに。案外鋭いところがあるのだね。
名前ではなく記号だね。この神殿がジュピター神殿になるのだよ。
ミゼラブル教団の神殿は数が多いからね。
こうして記号で管理している。神殿長もその記号で呼ばれるのだ。
分かりやすいからね」
「だったら、わかりにくい名前は何と言うのですか」
「それはね、セドリックというのさ。セディと呼んでくれ」
「はい、セディ。私の事はナナと」
そこにセレスが口を挟んだ。
「アルファ、ナナは俺の婚約者だ」
「分かっておりますとも、青龍さま。分は弁えております」
セディが大人しく礼をしたので、セレスは黙って帰っていった。
「龍の執着は強いというから、君も大変だね。ナナ」
「そんな事ないわ。セレスは優しいもの」
私がそう言うとセディは
「なるほど、確かに鈍感だ」と呟いた。
セディが誰もいない空間に「来なさい」と声をかけると、セディと同じ年ごろの娘が現れた。
「キャロルと申します。この神殿の巫女で、この度は愛し子のさまの専任侍女になりました」
「キャロル。私はナナよ。そう呼んで」
キャロルは困ったようにセディを見た。
セディが頷いたので、「畏まりました。ナナさま」と言った。
うん、なかなか順調だ。
「分からない事はキャロルに聞いてね」
そしてセディは私の片耳に小さな宝玉を埋め込んだ。
文字通り宝玉は耳と一体になってしまった。
耳を触ると、宝玉が埋まった部分が、少し盛り上がっているけれど。
「それはね、守護球だよ。君はよく襲われるらしいからね。
常に結界を張ってくれるから安心していいよ」
私はそっと左耳に触れた。
そこに掛かった魔法は、全方位守護だった。
物理や魔法、それに毒や呪いまで弾いてしまう。
「凄い!これは最強じゃないですか?」
思わず私が叫んだら、セディが笑った。
「そうだろうねぇ。何しろ青龍の宝玉だからね」
「これはセレスタイトからなのですか?」
「君はいい加減に自覚した方がいいよ。
君が身に着ける物を他の男が贈るなんて、自殺願望者だって怖くて出来ないからね」
とセディが嫌そうに言うけれど、それこそ被害妄想じゃないかしら。
わざわざ言わなかったけれどね。
それにセディは言いたいことだけ言うと、消えてしまったから、そういう所はローランお兄さまとそっくりだった。




