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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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帰国

 昨日は色々やらかしてしまったけれども、昨日のセレスの言葉が本当なら、今日にもアストラル皇国に帰る事が出来る。

 アストラル皇国に住んで僅かなのに、帰るという言葉に違和感がないのは、やはり家族の存在だろう。

 親交があるのは皇太子殿下ぐらいだけれども、分け隔てなく妹として扱ってくれていたから、すっかり家族のつもりになっている。


 朝早く目が覚めて、準備も万端。

 いつ帰れるかとうろうろしていると。巫女たちが笑った。


「ルーンフェル王国の良い国ですよ。

 どうしてもアストラル皇国に帰るのですか?」

 そんな事を言ってからかうのだ。


 でもそれほど待たなくても、セレスが迎えに来た。

「ナナ。今から国王陛下と法王猊下にご挨拶に行くぞ。

 リリやロッテはもう挨拶を済ませて、先に転移しているから、残るのはお前だけだよ」


「セレス。どうして私が最後なのよ」

「受け入れの準備があるからだよ。

 仕方がないだろう」


 そうして私は、お世話になった方々にお別れの挨拶を済ませて帰国した。


 戻った先は懐かしい皇女宮だったけれど、すっかり模様替えが済んでいた。

 聞くと、ここは今日からシャアがここの主。ここは皇子宮になるのだって。

 私の仕事は全部シャアが受け持つのだって!

 さすがに側近や秘書官は男性になるけれどね。


 皇太子殿下って切り替え早いなぁ。

 昔なら自分の居場所が無くなるといじけてしまう所だけれど、今はそんなことはない。

 なぜだか大精霊様の守護が発現してから、人の気持ちを疑う事がなくなった。


 昔はいちいち人の顔色を読んで、勝手に落ち込んでいたのだけれど。

 だから安心して、シャアに言う事が出来た。


「お兄さま、後はよろしく頼みますね」

「しょうがねぇなぁ。まぁ任せとけ。妹よりは上手くやるさ」

 そんな会話をしていると、皇太子殿下が、来られた。


「やぁ、ナナ。お帰り。シャアを連れ帰ってくれて助かったよ。

 神殿の準備も出来たよ。

 こっちのお披露目は控えめで頼むよ」


「あれは初めてで、だからだもの」わたしが口を尖らすと皇太子殿下は笑った。


「分かったから。神殿に入ると一緒に食事もままならないからな。

 今日は家族で食事だ。

 リーゼロッテも正式にシャア皇子の婚約者に決まったからな。

 一緒においで」


 リーゼロッテがはにかんでいる。

 完璧令嬢がはにかむなんて……。

 そこまで考えて、やっと気がついた。


「ロッテ、あなた治ったのね!」

 私が叫ぶと、皆が呆れかえってしまった。


「ナナ。さっきまでロッテと話をしていただろ?

 どうしてきがつかなかったの?」

 セレスが呆れ声を出した。


 どうしてだろう?

 あんまり普通だから逆に気がつかなかったのだよね。


 それにしてもやはり、ロッテとシャアが恋人同士になったのだわ。

 よかったなぁ。

 皇太子殿下はリリアとエルフェンリートも食事に招待してくれたから、きっと賑やかな午餐になるに違いない。


 皇帝陛下も皇后陛下もとてもお優しかった。

 前皇帝陛下が亡くなってからの十年間、皇帝陛下と皇后陛下はとても苦労されたのだって。

 何でも反皇帝派閥というのが、権力を握っていて、皇帝の権威がとても弱かったらしい。


 不思議だよね。

 この国は皇帝陛下の魔力のおかげで、豊かでいられるのに。

 そう質問すると、皇太子殿下が笑った。


「世の中、ナナみたいに単純な人ばかりだといいのに」


 えーと。

 今の言葉は、褒められたのだろうか?

 それとも貶されていたの?

 私の頭にクエッションマークが飛び交っているのがわかったらしい。


 全員が面白そうに笑った。

 まぁいいけれどね。楽しいのなら。

 こんな優しい食事会になるのも、皇帝陛下と皇后陛下の人柄のおかげだ。

 だからシャアも私も、そしてロッテまで、すっかり家族の一員になっていた。


 セレスタイトが席を立った。

「ナナを神殿に連れて行きます」

「お父様、お母様、お兄さま方。ロッテ。リリ、エル。

 また学院であいましょうね」


 そう言うと、リリが笑った。

「何いっているのよ。神殿に遊びに行くに決まっているでしょう」


「本当!待っているわ。絶対よ。

 ロッテじゃなくて、お姉さま、お姉さまも遊びに来てね。

 もちろん、お兄さま方も」


 シャアが苦笑した。

「俺たちはいつもひとくくりなのか?

 シャアお兄さまとローランお兄さまと言えよ」


「はいはい。ローランお兄さま、シャアお兄さま。

 ぜひ神殿に遊びに来てくださいね」


 そうして私は神殿に転移した。

 神殿長が出迎えてくれた。


 法王様みたいにお年を召して居るかと思っていたら、とても若い。

 ローランお兄さまと同じ年位なのではないかしら。

 えーと、ローランお兄さまは17歳。

 いやいくら何でも17歳で神殿長はないわよね。


 私がそんな事を考えていると、神殿長は笑った。

「君がローランの妹だね。僕は学院でローラント同級生だったのだよ。

 それでローランから君のことを頼まれている。

 学院の事も教えてあげられると思うよ」


「ありがとうございます。猊下」

「僕のことならジュピターと」

「ジュピターが名前なのですか?」


「きみは鈍いと聞いていたのに。案外鋭いところがあるのだね。

 名前ではなく記号だね。この神殿がジュピター神殿になるのだよ。

 ミゼラブル教団の神殿は数が多いからね。

 こうして記号で管理している。神殿長もその記号で呼ばれるのだ。

 分かりやすいからね」


「だったら、わかりにくい名前は何と言うのですか」


「それはね、セドリックというのさ。セディと呼んでくれ」


「はい、セディ。私の事はナナと」


 そこにセレスが口を挟んだ。

「アルファ、ナナは俺の婚約者だ」


「分かっておりますとも、青龍さま。分は弁えております」

 セディが大人しく礼をしたので、セレスは黙って帰っていった。


「龍の執着は強いというから、君も大変だね。ナナ」


「そんな事ないわ。セレスは優しいもの」

 私がそう言うとセディは

「なるほど、確かに鈍感だ」と呟いた。


 セディが誰もいない空間に「来なさい」と声をかけると、セディと同じ年ごろの娘が現れた。


「キャロルと申します。この神殿の巫女で、この度は愛し子のさまの専任侍女になりました」

「キャロル。私はナナよ。そう呼んで」


 キャロルは困ったようにセディを見た。

 セディが頷いたので、「畏まりました。ナナさま」と言った。

 うん、なかなか順調だ。


「分からない事はキャロルに聞いてね」

 そしてセディは私の片耳に小さな宝玉を埋め込んだ。

 文字通り宝玉は耳と一体になってしまった。

 耳を触ると、宝玉が埋まった部分が、少し盛り上がっているけれど。


「それはね、守護球だよ。君はよく襲われるらしいからね。

 常に結界を張ってくれるから安心していいよ」


 私はそっと左耳に触れた。

 そこに掛かった魔法は、全方位守護だった。

 物理や魔法、それに毒や呪いまで弾いてしまう。


「凄い!これは最強じゃないですか?」

 思わず私が叫んだら、セディが笑った。

「そうだろうねぇ。何しろ青龍の宝玉だからね」


「これはセレスタイトからなのですか?」


「君はいい加減に自覚した方がいいよ。

 君が身に着ける物を他の男が贈るなんて、自殺願望者だって怖くて出来ないからね」

 とセディが嫌そうに言うけれど、それこそ被害妄想じゃないかしら。


 わざわざ言わなかったけれどね。

 それにセディは言いたいことだけ言うと、消えてしまったから、そういう所はローランお兄さまとそっくりだった。


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