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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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愛し子のお披露目

 翌朝、私は巫女に起こされて、目を覚ました。

 いつもは自然に目が覚めるまで、寝かせて貰っていたから、眠くてたまらない。


「あと、少し。もう少し寝かせて」


「なりません。愛し子さま。お仕度が間に合わなくなりますよ。

 それに朝食をご一緒したいと、セレスタイト公爵閣下がお見えです。

 公爵様は昨夜も来られていたのですよ」


「えっ?セレスが来たの?昨夜も?」


 私は一瞬で目が覚めた。

 まずい!昨日部屋を出る時、来てくれるように目配せしたのは私だ。

 それなのに寝てしまうなんて、セレスはきっと怒っているはず。


 私が飛び起きて、すぐに部屋を飛び出そうとしたところで、巫女たちに捕まった。


「何を考えていらっしゃるのです。寝間着のまま、寝室から出てはなりません」


「でも、セレスが」


 私が言い訳をしている間に、巫女たちによって洗浄魔法で身ぎれいにされ、頭からすっぽりと被るだけの簡易な服に綺麗な帯飾りを締めて、あっという間に支度を終わらせてくれた。


「ありがとう」


 私はお礼だけいうと、すぐに隣室の扉を開けた。

 隣が食事室の筈だ。夕べ寝室の隣の部屋で食事をしたのだから。

 セレスがゆっくりとお茶を飲んでいた。


「セレス。昨夜はごめんなさい。私寝ちゃって」


 セレスはクスリと笑った。


「なんだ、そんな事を気にしているの。

 ずっとまともに寝てなかったのだから当然だよ。

 よく眠れたみたいだね。おはようナナ」


「おはようございます。セレス」


「食事にしよう。ナナ。君はすぐにお披露目に出るのだから、時間がないだろう?」


「お披露目って、何をするのかしら?」


「たいしたことないさ。ナナはいるだけでいいのさ」


 セレスは物事を簡単に考えすぎではないかしら?

 それはセレスにとっては簡単かもしれないけれど、私は人前に立つのは苦手なのに


 それでも時間がないのは本当だから、せっせと朝食を終わらせる。

 珈琲を貰って、やっと人心地ついた。


「セレス。それで昨日私を襲った人って、いったいどういう人達なの?」


 セレスはすっと立ち上がった。

 かすかに汗の匂いがセレスから立ち上る。

 洗浄魔法をかける余裕もなかったの?

 もしかして昨夜も寝ていないのではないかしら?


 私が昨日は温泉を満喫していたのに、セレスはきっと犯人を捜していたのだろう。

 私の心配そうな顔を見て、セレスが苦笑した。


「大丈夫だよ。ナナ。もう終わった。

 安心しなさい。君が愛し子として正式に認定されたら、アストラル皇国に帰ろう。

 皇太子殿下もお待ちかねだ」


 皇太子殿下!

 大変だ、私が神殿に住むとなったら、私の宮やお仕事はどうなるのだろう?

 皇太子殿下と聞いて慌てだした私を見て、セレスが愉快そうな顔になった。


「大丈夫だよ。大精霊の愛し子はナナしかいない。

 ナナの仕事は、元々、皇后陛下がなさっていたのだから、元に戻るだけさ。

 ナナの側仕えや侍女たちも、皇后付きになる。

 まさか神殿に仕えさせる訳にはいかないからね」


 私は凹んだ。結局私は役立たずでしかないのだろうか?


「ナナは少し考えすぎ。ナナが皇女なのは変わらない。

 お仕事の種類が少し変わるだけのことだ」


「でも愛し子といっても聖女さまみたいに治癒や浄化が出来る訳でもないのに、私に何が出来るのでしょう」


「それはこれから学院で学ぶことだ。

 理以外にも、固有魔法があるかも知れないだろう?」


「ねぇ、ナナ。何か特別な力がないといけないのかな。

 僕はナナが、毎日元気に幸せに暮らしてくれるだけで、嬉しいのだけれど。

 よく考えてみて。

 人々は大精霊の愛し子がいると言うだけで安心しているのだよ」


 私はつい、笑ってしまった。


「それじゃぁまるで、私はただのお守りみたいね。

 持っていると守られると決まっている訳ではないけれど、なんとなく安心できるお守り」


「お守りかぁ。いいじゃないか。 

 人々が安心できるなら、それはとても良いことだと思うよ」


 そう言われて私は、もうくよくよしないことにした。

 だってくよくよしても、何も良いことはないもの。

 もしも、お前は役立たずのお守りだと言われれば、


「そうよ、お守りってそう言うものよ」って言ってやろう。

 

 私はニコニコの笑顔でセレスと別れた。

 セレスは、明日も一緒に朝ごはんを食べようねと言って帰っていった。


 セレスが帰ると、巫女たちは待ちかねたように、私を風呂に連れていった。

 昨日のあの大きなローマ風呂ではなくて、お部屋にあるお風呂場だ。

 それでもかなりおおきかったけれどね。


 そこで私はたっぷりと磨きあげられて、綺麗にお化粧をしてもらった。

 髪は結わないでそのまま、自然に流すだけ。

 だって私の髪、きらきらしてとても綺麗なのだもの。

 結っちゃうなんて勿体ない。


 それから、真っ白なアイラインのドレス。

 その上にふんわりとしたシフォンのドレスを重ねる。

 シフォンドレスは透けているから、中の白いドレスは絶対に必要だった。

 ふわふわのシフォンドレスは、まるで羽衣みたいに身体にまとわりついて綺麗だった。


 姿見に映る私は、本物の精霊みたいに神秘的で美しい。

 なるほど、これなら一見の価値はあるかもしれない。

 モデルさんになったみたい。


 私は鏡の前で、くるくると回った。そうしたら、シフォンのドレスがふわふわと漂う。

 うん、なかなか良い感じ。

 私がドレスで遊んでいるのを見て、巫女さんたちもニコニコの笑顔。

 うん、皆が笑顔なのが何よりだよね。


 そこに聖女様がお迎えにきた。

 聖女の資質はゼロの聖女なのに、やっぱりとても偉そうだ。

 私を上から下までじっと見て、仕方なさそうに言った。


「まぁまぁ、それなりには見えますね。

 神殿の祈祷室に行きますよ。

 そこで法王さまが、愛し子を紹介されます。

 そのあと、神殿に入りきれなかった民の為に、テラスでお目見えをしますからね。

 どちらでも、神に祈りを捧げて頂きますから。そのおつもりで」


 そんなこと聞いていない。

 ワザと教えなかったのだろうなぁ。

 どうしよう。私は御祈りの言葉なんて、幼児用のご挨拶集しか知らないのに。

 私が慌てていると、フィーネ聖女は、馬鹿にしたような顔で笑っている。


 何だか悔しい。

 私は何もしていないのに。

 どうしてこんなに意地悪なのだろう。


 いいわ。こうなれば出たとこ勝負よ。何とかするわ。

 そう、何とかなるではなくて、何とかする。

 そのまま神殿に行くと法王猊下が出迎えて下さった。


「お綺麗ですよ。愛し子さま。

 このまま一緒に壇上までご案内しましょう」


 どうやら、説法はもう終わっていて、私の出待ちだったらしい。

 法王が、私の手を取って祭壇にあがると、人々のどよめきが聞こえる。


 天窓からは柔らかい光が降り注いでいるし、法王が祝福をなさった後らしく、光粒がまだ煌めいている。

 そこで法王猊下が私を紹介して下さった。


「大精霊の愛し子、ナナミ・フォン・アストラル皇女殿下でいらっしゃいます」


 近くにいたフィーネの口があんぐりと開いている。

 もしかしたらフィーネは、私を平民だと思っていたのかしら?


 私は、壇上の際まで、まっすぐに進み出た。

 そして、これだけはロッテによって徹底的に磨きあげられた美しい礼を披露する。

 ことさらゆっくりと丁寧に。だって、他に芸もないしね。


 それだけで神殿内はシーンと静まりかえった。

 そして私はそのまま跪き、神に祈りを捧げているようなポーズを取る。

 祈り方なんて習ってないしね。敬虔に見えればそれでよしとする。


 そして体内の魔力を総動員して、魔法を使う。

 イメージはあの魔力顕現だ。

 お願い、魔力顕現をもう一度、ここで皆に見せて頂戴。


 あの時はかなり綺麗な光麟が飛び交ったと思うのだ。

 それを見せれば納得して貰えるかも?

 私としてはそれだけのつもりだった。

 誓って他意なんかなかったのだ。


 そうして、光の魔力が凄まじい勢いで神殿中を満たしてしまった。

 その光が、あまりにも強いので、外にいる人々まで跪いてしまったらしい。

 かなり離れた王城からでも、神殿で光の柱が立ったのが見えたというから、かなりのすさまじさだった。


 気がついたら、全員がひれ伏していた。


 お隣で法王さまが、

「やりすぎないように注意しておけばよかった。

 常識のある娘だと思ったのが、そもそもの間違いだ」

 と、呟いておられる。


 法王様、誤解です。

 私はちゃんと常識を持ち合わせております。

 ただのパフォーマンスのつもりだったのです。

 まさか、こんなことになるとは思わなかっただけで……。


 その後の事は言いたくない。

 女神様みたいに崇められて、巫女たちからは距離を取られてしまった。

 一応テラスには出たのだが、皆は歓迎どころか畏怖しているようにしか見えない。


 どうすればいいのだろ。

 私が声を掛けようとすると、皆が跪いてしまうのだ。

 私はすっかり涙目になってしまった。

 巫女たちが恐る恐る近づいてくる。


「愛し子さま。どうかなさいましたか?」


「みんなが、私を避けてしまうの。

 誰もお話してくれない。どうしたらいいの」


 言いながら、段々悲しくなってきた。

 最後は泣き声になったから、巫女たちは仰天した。


「大丈夫ですよ。愛し子さま。みんな恐れ多いと思っただけで、誰も愛し子さまを嫌っていませんよ」


 成る程。泣き落としに弱いみたい。

 最初は本当に涙が落ちて来たのだけれど、泣き落としが有効ならば話は別だ。


「だって、誰も名前を呼んでくれないの。」


「ナナさま。ナナ様。泣き止んでください。

 私達はナナ様の味方ですからね」


「本当?」


「本当でございますとも」


「じゃぁ、今日も一緒にお風呂に入る?」


「勿論ですとも」


「やったぁー」


 飛び跳ねたら呆れられてしまったけれど、恐れられるよりずっといい。

 後で、泣きまねは禁止ですよと叱られた。


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