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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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金の瞳

 私が目を覚ました時、私は寝椅子に横たわっていて、セレスは近くの安楽椅子に座ったまま眠っていた。

 そっと寝椅子からおきてセレスの傍に近づいた。

 セレスの髪が目に掛かっている。


 それでは鬱陶しいだろう。私がセレスの髪に手を伸ばした時、セレスがパッと私の手を掴んだ。

 一瞬だけれど強い力で掴まれたので、私はびくりと身体をすくませてしまう。

 セレスはすぐに私だと分かると、力を抜いて私を引き寄せた。


「ごめん、反射的に掴んでしまった。

 手を見せてごらん」


 私の手首には、セレスが掴んだ後が、赤くくっきりと浮かんでいる。


「あぁ、痛かったろう。ごめんね。

 今日はとても怖い思いをさせたのに、またこんな……」


 私はセレスの口に、自分の人差し指を当ててセレスを黙らせた。


「謝るのは私の方よ。困らせてごめんなさい」


「ナナは悪くない。

 悪いのはナナを攫おうとした奴だから、ナナが謝ることは何もないのだよ」


「でも、きっとこの世界の人なら、あんなふうに悲鳴をあげたり、泣いたりしないのでしょう?」


「うーん。ナナは安全な国で暮らしていて、暴力を受けることがなかったのだね」


「それもあるかも知れないけれど、どうしても痛いのや、大きな声や、乱暴な所作が怖くなってしまうの。

 臆病なのだと思うわ」


「そう言えばシャアが君を、過敏な猫だと言っていたな。

 あいつ、見る目だけはあるようだな。


 ここだとナナを守るのに不安がある。

 ただロッテの体調もあるし、今回の事件の調査もある。

 君だけを、転移門で帰そうと思うのだけれど、構わないか?」


 ナナは少し考えた。

 怖いものは怖いのだ。

 けれども危険なのは、ロッテやリリア、それにメイド達も同じだろう。


「ごめんね。セレス。自分だけ逃げるのは嫌なの。

 私、魔法を何も使えないでしょう?

 キャンセルだって、おきていないと使えないし。

 自分を守る魔法を教えて貰える?」


「あぁ、確かにナナには魔法を教えていなかったよね。

 いっそ試しの儀を受ければどうだろう?

 ナナの魔法適正が分かれば、使う魔法も選びやすい」


「確かこの世界の子供達が受ける適性試験のようなものよね。

 魔法を使えなくても、適正が分かるとかいう」


「そうだ。自分の固有魔法の種類や使い方も理解できるようになる。

 先ぶれをだすから、今から法王猊下の所にいくか?

 猊下はいま、ロッテの所にいらしている筈だ」


「はい。でも、もう少し身なりを整えないと」


 セレスはクスリと笑った。


「確かに目がウサギみたいに真っ赤になっているね。

 それも可愛らしいけれど」


 セレスが素早く、魔法を重ね掛けしてくれた。

 浄化・治癒・洗浄・ヒーリング・リペア

 一度の魔法でこれだけ重ねるなんて、さすがに龍だわ。

 私がセレスの魔法を理解したのに気づいたセレスは、少し驚いたようだ。


「君の目はいったいどうなっているのだ。僕の魔法が何かわかったのだね」


「ええ、浄化・治癒・洗浄・ヒーリング・リペア。

 一度にこれだけの魔法を重ね掛け出来るなんて、セレスは凄いのね」


「凄いのはナナの方だ。

 気がつかなかったのか?ナナの目が金色に染まっていたよ。

 僕が魔法を使った時」


「そうなの?それは珍しいことなの?」


「あぁ、とても珍しい。何しろ君は龍の番だ。

 それなのに、どうやら精霊の加護を受けているようだ」


「精霊の加護?どうしてそんな……。

 もしかして金目は精霊の加護持ちの印なの?」


「聖女を知っているね。皇后陛下も聖女だ。

 皇后陛下や前代の聖女は精霊の加護で治癒が使える。

 彼女たちも、加護を使う時は、瞳が金に染まるのだよ。


 元々彼女たちは、ルーンフェル王国の出身なのだ。

 この国は精霊の国でもあるからね。

 つまり精霊魔法と龍の使う魔法は違うのだ。


 君は僕の番で、既に逆鱗を受け入れて龍の一族になっている。

 その君が精霊の加護を受けるのは奇妙なのだよ。

 しかも君は他人の魔法が読めるようだしね」


「なんだか奇妙な事が起きているのは、分かったわ。

 すぐに法王猊下に相談した方がいいわよね。

 精霊魔法はセレスも知らないのでしょう」


「黒龍がいればなぁ。

 黒龍は古代からの知識を代々、受けついでいるから、君の事も分ると思うのだけれど」


 そう言っているうちに、法王猊下から面会の許可が頂けたので、私たちは猊下がお使いのお部屋に伺った。


 猊下のお部屋に入ると、猊下はお茶の準備までして待っていてくださった。

 無礼講だと言うように、先にテーブルに案内される。

 サンドウィッチがメインだけれども、しっかりとした食事がとれるようになっている。


「大変だったと聞いたのでね。ナナは昨日からほとんど食事が出来ていないだろう?

 食べながら話そう」


 法王猊下は優しくそう仰った。


 ありがたい。食事のことなどすっかり忘れていた。

 緊張の連続だったからだろう。

 けれど美味しそうな匂いを嗅ぐと、途端にお腹が空いてきた。


「猊下。ありがとうございます」


「挨拶なんていいから、先に食べなさい。

 人間食べれば何とかなるものだから」


 私は素直に食事に専念した。

 お腹がびっくりしないように先ずはスープから。

 私が食事に夢中になっているのを確認してから、セレスは猊下と真剣に話し始めた。


 私が、ようやく人心地ついて、ではそろそろデザートでもと考えていると、猊下がおっしゃった。


「明日の朝。神殿に来なさい。

 心当たりがある。私が説明するよりも、読んでもらう方が早いだろう。

 用意しておく。その時に魔力顕現もするといいだろう」


「猊下は神殿にお帰りになるのですか?」


「私が出来ることは、もう無いからね。

 回復魔法で出来ることは行った。

 失った機能の回復は神聖魔法の領分ではないのだよ」


「ありがとうございました。

 おかげでリーゼロッテの命が助かりました。

 心よりお礼を申し上げます」


「何、たいしたことは出来ておらぬ。

 だがシャア、あの子なら機能の回復もできるかもしれないよ。

 実際にロッテは少しずつだが、身体が動かせるようになっている。

 何でも、神経を繋げるとか言っておったが……」


 私たちは、明日を約束して、法王の部屋を後にした。

 猊下の言う通り、お腹が落ち着くと、心も落ち着いてきた。

 それでも私は、自分の部屋に帰るのが嫌だった。


 セレスの服の裾を、少し引っ張る。

 きょとんとしてセレスが立ち止まると、私は言った。


「お部屋に帰りたくない」


 セレスは真っ赤になった。


「なに言っているのだ。まだ早いよ。

 嬉しいけれど、いや、やはりそう言うことは結婚してからだなぁ……」


 私も真っ赤になった。


「違うから!そう言う意味じゃないから!

 あのお部屋に帰るのが怖いだけなの」


「なんだ、そんな事か。

 確かに不安になるのだろうなぁ。

 よし、しばらくリリアの部屋にお世話になるか?

 何日も泊まる訳でもないし」


「リリアは迷惑じゃないかなぁ」


 お伺いをたてると。リリアから喜んで泊まって頂戴と返事が来た。

 部屋に行くとき、セレスは綺麗なリボンを手首に巻いてくれた。


「ただのお守りだよ。

 怖い仕掛けは施していないから、安心して」


 私はリボンを見た。

 リボンには守護結界が組み込まれているだけだった。

 危害を加えると、このリボンが弾いてくれる。

 本当にただそれだけの仕掛け。


 しかもセレスは、私が貴金属に忌避感を持ったかもしれないと、柔らかいリボンにその結界を付与してくれたのだ。


 セレスお瞳と同じ青いリボン。

 私が手を振ると、リボンもゆらゆらとゆれる。

 私は嬉しくてセレスに抱き着いてお礼を言った。


「素敵なリボンだわ。ありがとうセレス」


 セレスは私の瞳の色が変化したので、自分の魔法を私が確かめたのが分かった。


「安心できる魔法だっただろう?

 これからも、ナナを怖がらせる魔法は使わないよ。

 では、明日一緒に法王猊下に会いに行こうね」


 セレスはそう言ってにっこりと笑ったから、私も思いっきりの笑顔で言った。


「ありがとう、セレス。

 また明日迎えにきてね」


 そしてリリアのお部屋に入っていった。


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