ケーキ
私が、ゆっくりとケーキを堪能しているとアンが不思議そうに聞いてきた。
「姫様は、リーゼロッテ様が御心配にはならないのですか?
仲は悪くないように見えていたのですが?」
少し出過ぎた質問だけれども、アンとしては知っておきたいのかもしれない。
「ねぇ、アン。私たちが皇国から完全に放置されることはないよね。
だったらこの事件は、ほぼリアルタイムでお兄さまに報告されているわ。
そしてロッテは、エーテル公爵の第一公女。
その公女に何かあっては、皇国にとってもかなりまずい事態じゃないかしら?」
「皇帝って基盤が盤石ではないのでしょう?
私だって空気は読めるのよ。
皇帝はエーテル公爵を信頼しているのよね。
そうでなければ私の側近にするとは思えないもの。
その大切な公女に万一のことがあったら、どうすると思う?」
アンは理解したみたいだった。
「すぐにでも転移門を開いて回収するでしょう。
セーラ皇后は聖女。
本当に危険と判断したなら、聖女が動く。
そう言う事ですね」
「そうよ。
私が瀕死の時、お兄さまはわざわざ聖女様を伴って現れたと聞いているわ。
まさか聖女さまが、皇后陛下だとは思ってもいなかったけれど。
あら嫌だ。私、お母様に命を救って貰ったお礼を言ってなかったわ。
帰ったらお礼を言わないと。」
「そういう事をすぐに考えついてしまわれるのですね、姫様は」
「嫌な性格よね。普段はそんなこと全然ないのよ。
だけど不思議なことに、危機感が強いほど頭が冴えるの。
人がパニックになる場面で、生き生きと働きだすのね。
私のポンコツ脳は。
その代わり、安全な場所だと、完全に考えることを放棄してしまうの。
逆の方が、ずっと役に立つと思うのだけれどねぇ」
「そういう特性の方もおられますよね。
昼行燈タイプかと。
平穏なら穏やかな人生を過ごされますわ」
「そうね。平穏って大事だと思うわ
今頃は、法王様が聖力を使ってロッテを覚醒させている筈。
伝言をお願い。
ゆっくりと休むように。
あの娘はきっとお役目を気にしてしまうと思うから。
私がいくと、気を遣うでしょう?
ロッテは損な性分なのよね。完璧主義者だし。
アン。貴方が行くのよ。
ロッテが余計な気を回さないように、よくよく言い聞かせてきてね。
それからよく見ておいてね。
精神的に落ち込んでいないか?
もしギリギリの精神状態だと思ったら、すぐに知らせて。
それならセレスに四の五の言わせないわ。
すぐに治癒させるから。
無駄に苦しめないで。お願いよ」
アンはにっこりと笑って出て行った。
アンなら任せて大丈夫。
身体だけでなく、精神面も合わせてサポートしてくれる人だから。
私は、やる事リストをざっと考えてみた。
大丈夫。今すぐやることはない筈だ。
そうして、またいそいそとケーキの攻略に取り掛かった。
今は、たまたまセレスが忙しくて、私を放置してくれた。
わざわざ好物まで用意して。
でも普段のセレスは、かなり厳しい。
ケーキ食べ放題なんて、もうないかもしれないのだ。
チョコレートだって、くれたのはたった5粒。
しかも食べることが出来たのは2粒だけ。
芳醇な珈琲。
柔らかく口の中で溶けてしまうケーキ。
最高だ。
あれ?
どうしたのだろ?
凄く眠い。
寝てはだめ。
ケーキをまだ1つしか食べていないのに……。
そして、そのまま意識が途絶えた。




