対面
馬車に揺られる。
長い道を馬車で進む。
窓を開けなくても、多くの馬が進む音が聞こえてくる。
異世界何だなぁ。
何度繰り返した言葉だろう。
輪廻の輪に入り、まっさらな状態で生まれるのは、意味があるからなのだろう。
何度も何度も過去を思い出す。
そしていつも不安になる。
これは本当に現実なのだろうか?
気がつくと、私は病院のベッドの中でチューブと多くの機械に繋がれて目を覚ますことになるのでは?
いつか私も、ここになじむことが出来るのだろうか?
異世界から落ちて来たという少年。
巻き込まれたという少年に、私は少し期待をしてしまう。
その少年なら、答えを教えてくれそうで。
どんな答えを期待していたのかは、わからないけれど。
確かに何かが変化し始めている。
それだけは確かな事だと確信していた。
ミゼラブル大聖堂は、とても荘厳な建物だった。
とにかく大きい。
天井はとても高いところにあって、見上げると、天井にまで美しい絵が描かれている。
巨大な美術館でも、ここまでの絵や彫刻を集められないのではないだろうか。
どの場所にも、素晴らしい芸術作品が並んでいる。
私だけが異世界人が待つという部屋に案内された。
リリアとセレスは法王猊下との謁見に向かった。
セレスがこの事件の張本人なのに、どうして私だけ?
疑問に思いながら、部屋に入った。
目の前にいたのは、日本ではごく平凡な男の子。
すらりとした手足、ちいさな顔や、さらさらの茶髪。
いつの間にか、これが日本の子供のデフォルトになった。
私が子供の頃なら、黒髪でずんぐりむっくり。
顔が大きくて6頭身どころか5頭身ぐらいも普通だったのだけれど。
日本の子供たちは、いつの間にか美しくなった。
食べ物のが原因なのか、生活習慣か、それとも情報が豊富なせいなのか?
異世界人は黒髪・黒目、そんな事は言えなくなった。
ちょっと昔なら、アイドルでも通りそうな美形の少年。
彼が、じっと私を見つめた。
「もしかして、若くなったりした?
僕が見たのは、婆さんだったけど?」
「そうみたいね。瀕死で運ばれてずっと寝ている間に、何度も回復魔法を受けていたらしいから。
気がついたら中学生の姿になっていたわ」
「ふぅん。ロリ婆か!何でもありだな異世界。」
「言い方! 婆呼びは止めてよね。
一応これでも女なので!
私は七海。ナナって呼んで」
「おぉ、わりい。別に悪意はないんだ。
ただちょっと、リアルにロリ婆がいたのかと思ってさ。
ナナは困ったろう?
ゲームとかしていなさそうだからな」
「ええ、とても動揺しているわ。
今もね。
だって、わけわからないことばかりだもの」
「だろうなぁ。
多分ここゲームの世界だぜ。
悪い龍を精霊の力を借りて、退治する奴。
それで俺がその主人公の勇者だと思うんだ」
私は思わず食いついた。
「詳しく!」
「なんだよ。
興味あるのか?だろうなぁ。
すまねぇな。巻き込んじまって。
まぁ、お前はモブだしな。
皇国に保護されているんだろう?
この世界は俺が守ってやるから、安心しろ」
「いや、だからゲーム設定とか、裏話とかあるのでしょう?
詳しく聞かせてよ」
「なんだよ。
結構詳しいじゃないか?ゲーマーか?」
「まさか。ゲームなんて無縁の生活よ。
でも本が好きだから、ゲームだって設定とかストーリーが必要だと思って」
「へー、本なんて、たりいの読むんだ。
さすが……」
「ちょと、今、ばばあって言おうとしたよね」
「悪かったってば!つい本当は……って思っちまう。
あぁ、もう忘れる。
お前はナナで13歳。俺より2個下。
それでいいな」
私が高速で頷くと、少年はふっと笑った。
「いや、なんかお前けっこう可愛いよな」
「ありがとう。名前教えてよ。
まだ聞いていないわよ」
「えっ?そうだったっけ。
俺は水木朱空 シャアだ」
「まさか赤い彗星のシャア?」
「あぁ、親父がファンでさ」
「よく役所が受け付けたよね」
「結構いるんだぜ。妹も星羅だし」
「おー、シャアの妹セイラ。
徹底しているのね。お父さん」
「ナナも良く知っているじゃないか?」
「名前ぐらいわね。そんなに見なかったし。
戦闘シーンがあるの、苦手なんだ。
なんだか痛そうだし」
「あー。過敏ちゃんかぁ。
めんどっちい奴だ」
「シャアさぁ、全くキャラが合っていないよね」
「それ、よく言われるやつ。
俺、めんどーなの苦手。
だからぜーってい勇者は、やらないからな。
ここの法王って爺も、好きにして良いって言っていたから」
「それがいいと思うよ。
実際アストラル皇国の守護龍だし、殺されたら国が終わるし」
「どういうことだ?」
「アストラルって砂漠の不毛地帯に、黒龍が‘水源を引いて国を造ったのね。
排斥された魔法使いが、寄り集まって作った国なんだ。
今でも魔法で維持しているから、黒龍が殺されたら、数千万の人々が居場所を失くしてしまうの」
「そんなの設定になかったぞ。
人間に力を貸すのは精霊で、龍は人間を生贄に差し出させていたんだ」
「もう、それこの世界ではないと思うよ。
龍は人間を食べないし」
「でも、ここはアルフェ大陸だろう?
この教会はミゼラブル大聖堂だし、この国はルーンフェル王国。
森と精霊の国だ。
全部ゲームと同じなのに」
「不思議だねぇ。
忘れるといけないから、その話覚えているうちに書き出しておいてよ。
よくあるでしょう?
異世界で生活しているうちに、元の世界を忘れるっていう事」
「お前、マジでゲームやっていないのか?」
「あのねぇ、異世界転生ものの物語が、どれほど出版されていると思うのよ」
「本好きって、そこまでなのか?
もっと違うの読みそうだけど」
「ジャンルは問わないわ。
読めるだけで幸せなの」
「それならお前が書けよ。
書くの面倒だ。話してやるからさぁ」
「分かったわ。
面白かったら、本にしない?
売れるかもよ?」
「そんなのが、売れるのかなぁ?」
「前に異世界人が落ちてきたことがあったらしいの。
その時、その異世界人の側仕えになった人が、日記を残したのだけどね。
子孫がその日記を「異世界人マニュアル」として販売したら、ベストセラーになったらしいわよ」
「へー。よく分からないけれど、任せるよ。
俺はアストラル学院に入学するんだ。
衣食住全部タダだってさ。
爺さんが、これも縁だからって、大金をくれたしな。
俺、生活には困らなくてよさそうなんだ」
「へー、そんな大金を持っていくの?学院に。」
「いや、ほら見ろよ、この指輪。
爺さんがくれたんだ。中見せてやるよ」
シャアがそう言うと、リストが表示された。
「生活必需品から、お金や魔道具。武器や薬まで。
一生かかっても使いきれないでしょ?これ」
「だろう。俺も変だと思ったんだ。
タダより高いものは無い、が信条だからな」
「でも爺さんの私物だそうだ。
いつの間にか、こんなに貯まっていたと笑っていたよ。
子孫に美田は残さないんだと。
まぁ、みんな独立して、誰も生活に困っていないらしいし。
どうせ使わない。というから貰ってやったんだ」
私もつい負けん気がおきてしまった。
「私だって持っているもの」
ピンキーリングを見せる。
「小さいな」
「ピンキーリングだもの」
私も中身を表示させた。
中身は……サバイバルグッズの一式だった。
非常食とか、簡易ベッドとか、天幕とかの。
私が凹んでいると、シャアが慰めてくれた。
「非常持ち出し袋って大事だよ。
必要なものばかりじゃないか」
そう言いながら、目に憐憫が浮かんでいるのが見えた。
「大丈夫だよ。俺がナナを守ってやるからさ」
シャアがそう言った時、セレスがやって来た。
「それには及ばない。これは俺の婚約者だ」
「へー。ナナは異世界からの落ち人だ。
頼る人もいないから、そこに付け込んだって訳か?」
なんだか一側即発の雰囲気だ。
「違うから。彼は私の命の恩人なの。
セレスが助けてくれなかったら、死んでいたのだから、そう悪くとらないで」
「ナナ。お前が本当にそれでいいなら、引いてやる。
大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。安心してシャア。心配してくれてありがとう」
「なんだよ、ナナ。
こんな無礼な奴に礼を言うなんて」
「セレス。彼は私の同郷の人よ。
この世界に、知り合いはひとりもいないの。
だのに、私を心配してくれたのよ。
お礼を言うのは当然よ」
セレスはため息をついて首を振った。
「こういう奴だ。
俺が守っている。心得て置いてくれ」
「あぁ、お前も大変だな」
何故だか突然二人で何やら通じあったようだ。
兎も角、仲良くなったなら良かった。
「昼食は若いものだけでってさ。
リリアとエルフェンリート、それに リーゼロッテが待っている」
「そうなの。セレスこちらはシャア・ミズキ。
シャア、こちらはセレスタイト・フォン・フィクトス公爵。
友だちも来ているから会ったら紹介するわ。
行きましょう」
そう言って歩き出すと、後ろから
「マジもんの公爵かぁ。すげー」
という声がした。
私は思わず笑ってしまった。




