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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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訴訟

 今朝は元気よく目が覚めた。


「おはようございます殿下。

 お食事のお仕度はお隣の部屋に準備いたしております。

 着替えは、食事の後になさいますか?」


「ええ、そうするわ」


「それでは、軽く洗面だけいたしましょうね」


 最初は嫌だと思ったけれど、お世話をされるのにも慣れてきた。

 アンが相手だということもあるだろうけれど。


 食事の時も、アンがサーブしてくれるだけで人の気配がない。

 気を使ってくれているのだ。


「アン、着替える時にでも、私付きの侍女に挨拶したいのだけれど。

 できればメイドさんたちにも。

 規則はよく分からないから問題がなければ」


「はい。そうおっしゃると思って、今日は全員出勤しておりますよ」


「ありがとう。アンはどうして私のことそんなに分かっているの?」


「セレスタイト様さまから、散々ご注意されましたからね。

 どれだけ執着しているのだか」


「アンは少しセレスに厳しくないかしら?」


「子供のころは、私達はセレスタイト様の遊び相手でしたからね。

 立場の違いが分かる年齢になっても、セレスタイトさまは、ためぐちの方が気楽だとおっしゃるので、ついそのままになってしまったのです」


「それなら私にも……」


「なりません。姫さまは、お立場に慣れる必要がございますからね」

「え~。セレスだけなんてずるい」


「きちんと皇女として振舞えるようになれば、考えてもよろしいですよ」


「本当ね。約束よ」


 私が喜んでそう言うと、アンは苦笑した。


「なかなか先は長そうですね」


 そして化粧室にいくと、今日の衣装や化粧道具と共に、メイド服の女性が6名。

 侍女らしき女性がアンを含めると6名いた。

 侍女は、お仕着せを着ないのだ。


「まぁ。私一人にこんなに?」


「メイド達は、護衛も兼ねていますからね。

 私達も武術の嗜みはございますが、この子たちは山でもトップクラスの手練れ揃い。


 昼と夜で2名ずつ。残り2名が非番になります。

 護衛は常時2名のみ。少ないほうですね」


「あぁ、そうなっているのね。

 ご苦労様。夜勤があると体調を崩しやすいから、お休みの日はゆっくり休んでね」


「ありがとうございます。

 私達は常に2名一組で行動しています。

 侍女たちは頭脳派 メイド達は武闘派とお考え下さい」


「メイド長のアンとついになるのが私で、ドウとお呼び下さい。

 続いてトロワとキャトル。

 サンクとシスです」


 侍女たちが揃って頭をさげた。

 頭脳派かぁ。わからないことは相談しよう。

 名前が数字なのは微妙だけれど、人数が多かったなら仕方ないのかも。


「私がメイド長のアルファ 隣がバディのベータ。

 ガンマとデルタ。イータとシータでございます」


 武闘派って私とは縁遠い世界だ。

 戦うことが、そもそも苦手だから。


「よろしくお願しますね」


「畏まりました」


「では、今日非番の方はすぐに帰ってお休みください。

 皆さんのお部屋は何所に?」


「夜番の者の仮眠室は、恐れながら殿下の私室にございます。

 侍女は皇女宮の2階部分 メイドは1階部分にお部屋を頂いています」


 そうなのだ。

 基本的に宮は3階建て。


 1階部分は警護室や外部の業者が使う食料貯蔵庫とか、洗濯室とかがある。

 2階には客室や貴族の使用人の私室がある事が多い。


 1階にも2階にも食堂があるから、3階にある食事室を利用するのは、文官が多い。

 武官だって使えるのに、1階で食べることを好む者が多いらしい。

 多分量が多いからだと思う。

 2階にあるティルームの利用者は多いけれども。


 これだけ多くの人がいるのだから、外部の人の出入りも多いのだ。

 だから護衛隊も常駐している。

 警護よりも受付が主なお仕事だけれどね。

 巡回業務もあるから、それなりにやることは多いのだ。


 ともかく、この人たちは神龍が選んでセレスが付けてくれた人だ。

 だから頼って良いのだ。

 着付けが終わって、私はアンを振り返った。


「明日の当番は誰なの?」


「しばらくは私が昼番ですよ。姫がなれるまでね。

 そのうちまとめて休暇を頂きます」


「ありがとう」


「姫様は時々、とても不安そうな顔をなさいますからねぇ。

 さぁ、執務室までお送りしましょう。

 影にアルファとベータがおります。

 何かあれば、お声をあげてください」


 そう言って私はアンに執務室に放り込まれた。


「殿下、お待ちしていました」


 秘書官たちが凄い勢いで飛んできたから、私ってそんなに人気があったかしら?

 なんて呑気に考えていたら、大事件が勃発していたのだ。


「大変なのです。フィクトス公爵家が訴えられました!」


「どういうこと?

 現フィクトス公爵はセレスタイトよね?

 就任して1日で訴えを起こされるなんて!

 いったい何をやらかしたのよ!」


「いえ、訴えの内容は20年前の星の乙女の一件です。

 当時、星の乙女たちは全員拘束されました。

 多くが洗脳の上に利用されていたのですが、貴族を詐称した罪はぬぐえず、多くは神殿預かりのうえ奉仕活動に従事させられました」


「20年の間には色々ございました。

 星の乙女の中には、結婚して平穏に過ごしている者もいれば、失意のうちに亡くなったものも多くいます。

 いまだに恨みをもつ人もいますから」


「それは理解したけれど、どうしてフィクトス公爵家が訴えられないといけないの?

 その件は、ノア前公爵が処刑されて済んだ筈でしょう?」


「星の娘でありながら、罪をつぐなわず他国に亡命した者がいる。

 それが、当時のフィクトス公爵の妻アナベルさまだという訴えです。

 前フィクトス公爵であるアレクさまもアナベルさまの逃亡をほう助した嫌疑が掛けられています」


「それは事実なの?」


「はい、訴状は概ね事実に基づいております」


「でも、20年も前のことでしょう?

 どうして今頃になって!」


「当時はノア老公の死が、あまりにも痛ましかったので、フィクトス公爵を訴えようとするものはいませんでした。

 その後はシーフ公爵さまが、相当なやり手で不満が表に出る前に手を打っていたと思われます」


「つまり、セレスタイトが舐められているってことね?」


「言いたくはございませんが、セレスタイト様に、このような神経戦は難しいかと」


「分かったわ。皇太子殿下に謁見の許可を取り付けて下さい」


 どう考えたって、こんな案件皇太子だったら簡単に片付けられる筈。

 それが表ざたになるなんて、なにか考えがあるに決まっているのだ。

 あの腹黒王子!


 待っていたかのように謁見許可はすぐに出た。

 私は大急ぎで皇太子宮に向かう。


「昨日会ったばかりだと言うのに、もうお願い事かい?

 何かあったのか?

 なんでも相談するといいよ。

 君はたった一人の妹なのだからね」


「お願いごとはございませんが、質問はありますわ。

 どういうおつもりかしら?

 お答えによっては、すべてぶち壊してしまいますよ」


「おやおや。それが君の地なのかな?

 随分と勇ましいことだね」


「ええ、どうして今頃亡霊などに御用がおありなのか、私のような愚か者には、全くわかりませんもの」


「亡霊かい?」


「そうではございませんか?」


「どこまで知っている?」


「何も。だから一応聞いてこうかと」


「何もしらないのに、まっすぐにここに飛んできたと言うのだね」


「ええ、こんな真似するのは。殿下か、場合によってはシーフ様ぐらいですもの」


「おや、今度は貴方が疑われましたよ。シーフ殿」


 ぼんやりと影から姿を現した人物こそ、将来の義父にあたる前フィクトス公爵であるシーフさまであろう。


「お初にお目にかかります。

 私はアレスタイトの婚約者、ナナミと申します。ナナとお呼び下さい」


「おやおや。殿下、悪戯がすぎると、ナナは本気で皇城を飛び出してしまいますぞ。

 だからお停めしたのに」


「怒らないで、ナナ。少し頼み事があって君を呼び出したかっただけなのさ」

「呼びたければ普通に呼べば良いでしょうに。

 まぁ、どうせそんなことだろうと思ったので、ひとりで来たのですけれど」


「ホントに影を置いてきたのだねぇ。

 あいつらが君に従うなんて。

 やはり思った通りの肝の、据わったお嬢さんだなぁ」


「あの娘たちは、どうせ全部セレスに報告するに決まっていますからね。

 単細胞のセレスが知ったら、無駄に騒ぎが大きくなります。

 置いてくるしかありませんわ」


「僕たちは君に感謝しないといけないのかな?」


「御随意に」


 木で鼻を括るような返事に皇太子は鼻白んだ。


「君って、全然怒らないって聞いていたのに」


「怒っていたら、ここまで来るわけありませんでしょう」


「そうだったよね。

 申し訳ない」


 皇太子殿下が、素直に頭を下げたので、私はびっくりしてしまった。

 まさかこんなに素直に謝るなんて!


 すると皇太子がクスリと笑う。

 シーフさままでにこにこ顔だ。


 ほんと、腹黒相手はこれだから疲れるのだ。

 物事は率直が一番だとは思わないのかしら?

 ともかく、話を聞くしかなくなった。



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