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80歳のおばあちゃんは龍の溺愛に気がつかない  作者: こもれびの空


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揺れる心

 セレスと食事をしていると、ようやく緊張がほぐれてきた。


「セレス。どうしよう。

 私、ここの生活になじめそうもないよ。

 元々引っ込み思案だし」


「ナナのそれは引っ込み思案と言うより、警戒心がとても強いのだよな。

 僕の事だって、半分くらいしか信じていないだろう?」


「そこまでではないけれど、多分臆病なのよ。

 自分が傷つくことが怖いのね」


「だから結局自分の問題なのよ」


「そうやって、すぐに他人を締め出してしまうのだ。

 いいけれどね。

 懐かない子猫を懐かせるのも、楽しみだからさ」


「あら、随分な言い方ね」


「今度は、怒ったふりかい?

 君は、どんな時に怒るのだろうねぇ」


「あら、私だって怒ることぐらいあるわよ」


「違うね。君は怒る前に諦めてしまう。

 そうして、すっぱりと切り捨てるのさ。

 他人に関心も持たないし、期待もしていないだろう?」


「はぁ~。

 どうしたの?セレス。

 今日は随分辛口ね」


「何でもない。

 いや、何でもあるかな。

 二人で仲良く暮らせると思ったのに、離れ離れだから」


「皇后陛下が、私に学院生活は1年にして欲しいと、おっしゃったわ。

 卒業したら、すぐに結婚式らしいから、1年の辛抱よ」


「それは本当?

 嬉しいなぁ。でもナナはそれでいいの?

 学院生活を楽しみにしていただろ?」


「そうやって、きちんと気持ちを尋ねてくれるから、セレスといると安心できるわ。

 学院を1年で卒業する代わりに、お仕事を減らしてくれるらしいから。

 どちらにしろ、公的な身分があるから、学院生活を楽しむのは難しそうだもの」


「ねぇ、黒龍さまは、そんなに具合が悪いのかしら。

 100年どころか、復帰まで200年かかるかも。

 なんて言っている人がいたのだけど」


「クラウス殿も瀕死に近かったらしいからな。

 本来、両親から魔力を貰う龍の子も災難だよ。

 それで人化に200年かかるかもしれない。という話になっているみたいなのだ」


「仮にも龍が瀕死状態だなんて!

 精霊とは、それほど膨大な力を持っているの?」


「高位精霊は、こちらの世界では神々の分類なのさ。

 災厄の15年を引き起こした、時の女神も、正確には精霊だしな」


「あぁ、たくさんの神々がいる世界観なのね」


「本当の意味の神は、ひとりだぜ。

 天地創造の神様さ。

 龍や精霊も、神が創造したとされているからな」


「成る程。この世界の神殿は、その神様を祭っているのね」


「それにしても、人間界の長であるはずのアストラル皇国が、思いのほか不安定そうに感じるのだけれど」


「それはそうだろう。

 前皇帝陛下と前フィクトス公爵が、災厄の15年の責任を取るために、自分の身を大精霊の裁きに委ねたのだからな」


「どうしてそんなことに!」


 皇家とフィクトス公爵家を守るためさ。

 だれかが責任を取らないといけないだろう?


 皇家が倒れたら、アストラル皇国は終わる。

 皇族の魔力で支えている国だからな。


 そしてフィクトス公爵家ついえても皇国は終わるのだ。

 龍の血を入れられなくなるからな」


「皇家とフィクトス公爵家。

 この2つの柱が、この国を支えている。

 けれども、そこに疑問符がついてしまった。


 フィクトス公爵夫人も、星の娘だったのさ。

 しかも、この件の根底に追放処分になった皇国貴族が、関わっていた。

 失態では済まされないだろう?」


 信頼を取り戻すための贄となったのさ。

 皇帝とノア老公が」


「それが今から20年前なのね。

 傷跡がまだ生生しいのも当然だわ」


「皇帝陛下とフィクトス老公はどうなったの?」


「大精霊は二人に安らかな死を与えた。

 輪廻の輪から、外れて未来永劫苦しむことも覚悟していたからな。

 あのお二人は。

 大精霊にも温情があったのか?と大騒ぎになったのだぜ」


「そうなの。

 神にも情があるのね」


「違うよ、ナナ。

 彼らには罪がなかった。

 それだけのことさ」


「でも、じゃぁなぜ?」


「そうしないと、おさまらないからな。

 理が揺らぐのを大精霊は何よりも嫌う。

 きっと、ゆっくりと休んでいるさ。

 それぐらいの御褒美があってもいいはずだからな」


 高貴な身分には、それに見合う責任と代償が必要になる。

 わかってはいたけれども、それを本当に実行する人が、どれほどいるのだろう。


 何となく不安定に見えるこの国が、根底から覆ることはないだろう。

 お二人がこの国を支えていてくれるだろうから。


 なんだか、ちょっぴりセンチな気分になってしまった。

 そして苦手だと思っていたこの国が、少し好きになった。

 単純かもしれないけれども、私は誠実な人には弱いのだ。


「ナナ。いいことを教えてやろうか?

 皇女宮と漆黒の梟の本部。つまり図書館は繋がっているのだぜ。

 本部からは外宮にも、皇太子宮にも繋がっている。


 さすがに皇帝陛下と皇后陛下の宮には繋げていないけれどな。

 その代わりに、皇太子宮には皇帝と皇后陛下の宮への通路があるのだ」


「セレス。それってつまり」


「そうさ、ナナの好きな図書館に繋がっているってことだ」


「行きましょう、セレス。すぐに行くわよ」

「あのね。ナナ。

 さすがに図書館も夜は閉まっているよ。

 明日にでも行ってみるといい。

 抜け道は側近なら知っているだろうからな」


「もしかして、セレス。

 明日はこないつもりなの?」


「遅くなるぞ。

 ナナには毎日会いにくるけどさ。

 図書館の閉館時間までには来られないよ」


「セレス。隠し事しているでしょう?

 漆黒の梟の本部があるのでしょう。

 図書館に。

 それなら建前としては、閉館していても、中は24時間稼働しているはずよね」


「お前、自分の都合の良いところだけ、勘が働くのだな。

 だけど今日は初日で、自分で思っている以上に疲れている筈だ。

 ちゃんと眠れ。

 分かったな?」


「仕方ないなぁ。

 今日は、大人しくしとくから、明日は絶対よ。セレス」


「あぁ、わかったよ。寝室までおくるか?」


「隣の部屋よ。必要ないわ。

 それにアンがいるし。

 アンってあなたの部下よね」


「あぁ、そうだ。

 まだ会っていないだろうが、お前付きの侍女とメイドは全員俺の子飼いだ。

 安心しろ。

 山で父上が鍛えていたから、騎士だって足元にも及ばないよ」


「安心しただろう?

 どこにいても、お前は俺が守っている。

 いいな?」


 どうしよう。頬が熱い。

 絶対に真っ赤な顏になっているわ。

 恥ずかしいったら。

 どうして、そんなに気障なセリフをさらりというかなぁ。



 静まれ心臓。

 とうとうセレスが笑い出した。


「お前、どうしてそんなに初心な反応するかなぁ。

 ずるいだろう。そんなの」


「どうしてって!セレスが気障なのが悪い!」


「あぁ、悪かったよ。ごめんな。

 お休み、ナナ」


 そっとハグだけしてセレスは帰っていった。

 ナナが怖い顔をしている。


「もしかして、何かしやがりましたか?

 あのチャラ男!」


「何もないわ。ちょっと気障なセリフだったから恥ずかしかっただけよ」


「はぁ~、何もない?あのヘタレが」


 アンってこんな子なの?

 なんだか印象が全然違うのだけれど。


「アンは、神龍さまの元で育ったのですって?」


「そうです。

 神龍さまが、孤児を見つけては拾ってくるので、かなり大勢いたのですよ。

 今回、セレスタイト様が、ひとり立ちするにあったって、ほとんどが山をおりましたけれどね」


「そんなに。セレスも心強いわね」


「不安なのですよ。神龍様は。

 セレスさまは、少し純粋なところがおありだから」


 単細胞が純粋って言葉に変換できるのは知らなかったけれど、アンがセレスの子飼いだと聞いて、すっかり安心したのは、どうしてだったのだろう?

 私は、その答を見ないことに決めた。


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