夜半の雑談
夜も更け、リズ・アイン・クライス・アッシュ・トウヤの五人はバルコニーへと移動し、月明りの下飲みなおしていた。
「トウヤ。別に私達に合わせず他の子達と一緒に寝ていても良いのよ?」
「いえ、大丈夫です。こんな場に参加できるのはもう二度とないでしょうから」
「そう。それなら、酔いが回って危なく感じたら言いなさい。解毒してあげるから」
トウヤはお礼を言い、アッシュは口を開く。
「ところでリズ様。どうして私を助けたのでしょうか?さすがに気まぐれでは納得が出来ません」
「気まぐれよ。ただ、あなたは剣士としての伸び代があるし、アインに劣らない程の魔技の濃度、そして奥義である天地剣が使えたでしょう?それに、あなたの記憶を見た限りだと元から悪かったわけではない事も分かったし、操られただけで殺すには勿体ないと思ったのよ。まぁ、正気に戻っても変わっていなかったら殺していたけどね」
「アッシュ!お前、天地剣が使えるのか!?俺ですら最近使えるようになったのに!」
驚くクライスにアッシュは短く、まぁ。と答え、トウヤはその凄さが分からず困惑していると、それに気付いたアインが話しかける。
「トウヤは御剣流という流派は知っているかな?」
「確か、何代か前の魔王を討伐した勇者様が使っていた破邪の剣だったような」
「その通り。その流派の奥義が天地剣なんだ。私が使えるようになったのは魔王戦の前だけどもね」
「そんなに難しいのですね。アッシュさんは誰に剣を教わったのですか?」
「誰にも教わってはいない。が、強いて言えば剣だな」
剣?とトウヤは疑問を返す。
「なんと言えば良いのか分からないが、別に魔剣を使ったとかではないのだ。剣を使っていると、その剣が最も力が発揮される使い方が剣から伝わってくるというか・・・すまない。上手く言葉に出来ない」
「剣から使い方が伝わる・・・難しいですね。でも、独力で剣鬼とまで呼ばれるほどですから才能と修練の積み重ねですね。今度、良ければ手合わせしてください」
「剣鬼か・・・その剣鬼が殺す気で放った本気の剣を軽々と受け止め、その剣を握り潰す者は何と呼べばいいのか・・・。私はあの時、自分の弱さを知り先ほどのアインさん達の戦いで自分の非力さを思い知らされた。私などまだまだだが、それでも良ければ稽古を付けよう」
「ありがとうございます。あの、聞き間違いですかね?剣が握り潰されたって」
動揺を隠せず、そう聞くトウヤにアッシュは頷く。
「確か、報告にあったのはクレイモアだったな。まぁ、リズならやりかねんな。なぁ、アイン?」
クライスの言葉にアインは、あぁ。と頷く。その光景を見てトウヤは愕然とし、リズを見る。
「リズさんって何者なんですか?ただの魔法使いではないですよね?」
その言葉にアッシュとトウヤはリズを見、アインとクライスは琥珀色の酒を飲む。
「私は、どこにでもいる勇者を育てた美人な魔法使いよ」
「本当の事を話すつもりは?」
トウヤの真っすぐな瞳にリズは微笑み返す。
「私は不老の魔法使い。伝説に語り継がれる物語などに現れる殆どは私がモデルって言ったら信じる?」
「伝説に現れるほどの人物って、それは不老不死じゃないですか。矛盾していますよ」
「あら、そこに気付いちゃったか」
と笑うリズとトウヤ。
「・・・今の話、どう思う?」
「リズならあり得ると思う。昔聞いた時は全く答えなかったのに、今回は不思議と真実味を感じた」
「クライスもそう思うか。俺も同感だ。だが、聞いてもまたはぐらかされるから真相は靄の中だがな」
「違いない」
「アイン、クライス。何をこそこそ話しているの?」
「な、なんでもない!」
リズの言葉に慌てる二人は、酒を飲もうと全員に促す。
「あっ、そうそう。あなた、剣の声が聞こえるって言っていたわね。それならこの剣はどう?」
とリズは空間魔法で、魔剣ソーサリオンを取り出しアッシュに渡す。
「これは、グラドが持っていた魔剣ソーサリオン。どうしてこれをリズさんが?」
「そのグラドって奴を倒したら何度も目の前に現れて、私を次の所有者にしたがっていたから空間収納の中に放り込んでおいたの。どう?何か聞こえる?」
「そうですね。芯が仄かに温かく感じますが、私の力不足か魔剣と言うには力が弱く感じます」
「そう。因みに、新しく手に入れた剣の声が聞こえるようになるにはどれぐらいの期間が必要なの?」
「大体一週間ぐらいですかね」
とアッシュは気を失い、椅子に凭れかかる。
「おい、リズまさか」
クライスがそう言ったと同時にアッシュは目を覚ます。
「はっ!ここは?ドラゴンの群れはどこに?・・・まさか、今のが精神だけの修行」
目を見開くアッシュの手の中で魔剣は仄かに光を放つ。
「そんなにはっきりと声が聞こえるのね。その子の使い心地はどう?」
驚く三人をよそにリズはアッシュに問いかける。
「魔剣と言うよりは聖剣と呼ぶべき剣ですね。はっきり言って、今まで使ってきた中で最高の剣です」
「そう。どうして聖剣だと思うのかしら?」
「この剣は太陽の力を利用していますよね?日中では常に強化魔法を掛けられているような力を、夜は日中に蓄えられた力を転用出来る。しかもその一撃は魔を祓い、自動回復機能まである。これは魔ではなく聖なる力かと」
「・・・(次の主人はあなたの良き理解者になりそうね)なら、それはあなたにあげるわ。大事に使いなさい」
その言葉にアッシュは狼狽える。
「えっ?はっ?よ、よろしいのですか?恐らくですが、私よりもリズ様が使う方がこの剣には良いかと思いますが」
「私は魔法使いよ?剣で戦ったら動き回らなきゃだめじゃない。疲れるわ。良いから貰っておきなさい」
「はっ、はい。ありがたく頂戴いたします」
とアッシュはリズの前で片膝を付き、立ち上がり腰に佩いた剣をトウヤに向ける。
「トウヤ。この剣は俺がずっと使い続けていた剣だ。操られている時も捨てる事なくずっと傍にいた相棒だ。君をこの剣に見合うだけの男に育てよう。受け取ってくれるか?」
トウヤはその言葉に立ち上がり両手で受け取る。
「そんな大事なものを・・・ありがとうございます!絶対にこの剣に相応しい実力を身に付けます!」
「あぁ、お互い目指す頂きに向かって修練に励もう」
「さてと、お酒も無くなったし私はそろそろ寝るわ。それじゃあ、お先に」
と欠伸をしながら立ち上がり、ソーサリオンを一瞥し歩き出す。その言葉にアイン達はお休みと言葉を交わす。
「リズさん。今日は色々と勉強になりました。おやすみなさい」
トウヤの言葉にリズは微笑む。
「うん。おやすみ。明日はそこの三人にパーティー皆で鍛えてもらいなさい」
そう言い部屋へと戻る。
「また勝手なことを」
「まぁまぁ、良いじゃないか。後進を育てるのも前を歩く者の仕事だぞ」
呆れて酒を一口飲むクライスに、アインはクライスのグラスに自身のグラスを当てる。
「ところでアッシュさん。この剣めちゃくちゃ軽いんですけど、何で出来ているんですか?」
「あぁ、それはコカトリスの羽根とアダマンタートルの甲羅それに鉱竜の鱗を魔導合成で素材に変え、打ったものだ。だから、軽くて堅くそして魔法伝導率が良いから付与効果も跳ね上がる」
「そ、そんなAランクやSランクの魔物の素材で出来ていたなんて。本当に俺が貰っても良いんですか?」
「勿論だ。聞くところによると、リズさんが誰かに定期的にものを教えるのは珍しいみたいだからな。きっとこれは運命と言うやつなのだろう。それに、俺には感じる。トウヤ、君ならいつかSランクになれると」
アッシュの真っすぐな言葉と気持ちにトウヤは頭を下げ、礼を言う。
「そういえば、お二人は誰に剣を教わったのですか?御剣流なんて伝説の流派を教えられる方がいたという事ですよね?」
「・・・あぁ。いたな。それも近くに」
「その上自分は魔法使いだから、前衛のあなた達が私に楽をさせろと言いながら教わったな」
アインとクライスは遠い目でそう言い酒を一口飲む。
「まさかそれって・・・」
「リズだ」
クライスの言葉にトウヤは驚きの声を上げる。
「しかも、御剣流を編み出したのは自分で過去の勇者に教えたのも自分だとも言っていたな」
アインの言葉にクライスは笑いながら同意するが、アッシュとトウヤは驚きのあまり言葉を失う。




