悪夢の一分
「あの。一つ聞いていいですか?」
トウヤのその言葉にクライスは食事の手を止める。
「なんだ?」
「どうして一分間気を失っただけであんなに疲れていたんですか?」
「そ、それはだな・・・・」
トウヤの言葉にアインとクライスの顔は青ざめ、小刻みに震える。その様子にトウヤは驚くが、リズはその光景に笑う。
「教えてあげなさいよ。特にクラウスはアインと比べて良かったと思えるかもよ?」
「まさか今回は二人、違う内容なのか?・・・だから、クライスは化け物共と複数を相手にした様な言葉だったのか」
そうよ。とワインを飲み微笑むリズ。
「因みにだがアイン。俺は千匹のキマイラロードと戦ったが、お前は?」
「・・・俺は魔王だ・・・・何故だリズ!なぜ俺だけ魔王なのだ!」
「あなたが一番安全圏で何もしてこなかったじゃない。言っておくけど、私が動かなかったら今頃この国は殲滅の刃に搾取されているか、半壊させられていたわよ王子様?あなた達の対応が遅かった結果がその程度で済んでいるのだから、むしろ感謝して欲しいわね」
その言葉にアインは自棄になったようにワインを一気に飲み干し、おかわりを要求しクライスは嬉しそうにワインを飲み干し、同じくおかわりを要求する。
「あははは。本当にあなた達は変わらないわね」
「よく分からないのですが、千匹のキマイラロードと戦ったと言っても幻覚か何かの一分ですよね?百戦錬磨のお二人が震えるほどとは思えないのですが」
セイルの言葉にクライスは食器を置き答える。
「精神だけを別次元に飛ばしたとかでそこで戦ったのだが、そこでは痛みも死の感覚も鮮明で、死んでもすぐに復活されるから精神は磨り減るが肉体は死ぬことがない。仮に精神が壊れそうになれば、強制的に意識は戻りその時の記憶が無くなっている。しかもこっちの一分は向こうでは一年なんだ。その上、全て倒すことが出来なかったら受けた傷は幻痛となって、目覚めた時に反映される。だから、俺達は外傷自体は無いがボロボロの状態で目覚めたんだ。今回に関してはアインの方がきつかったろうな。なんせ魔王が相手だ。一体、一日で何度死んだことか」
トウヤ達の生唾を飲む音が聞こえる。
「私達って優しくされているのね」
ライラは引き攣った顔で呟く。
「あなた達も体験してみる?ちゃんとギリギリ勝てるかどうかのラインで設定しているから楽しめるわよ?まぁ、今回のアインはクリア不可能だったけど」
そう笑うリズにトウヤ達は声を合わせて断る。
「それは、現実世界での実力向上に繋がるのですか?」
「そうだな。神経は研ぎ澄まされ、戦い方が上手くなる。俺達はこれのおかげでメキメキと力を付けた。あの死の恐怖さえなければ素晴らしい事だけなのだがな」
アッシュの疑問にアインはそう答え、最後に一言付け加える。
「もし、やるのなら、どれだけの長さかにもよるが、少なくとも二、三日はうなされて起きるのを覚悟して臨むと良い。自分が死ぬ光景が悪夢として再現されるからな」
その言葉に食堂は静まり返るが、リズのおかわりする声に皆の気は緩んだ。
「リズさん。良かったら、魔王討伐の時の話を聞かせてください」
トウヤの言葉にリズは、いいわよ。と語り出す。アインとクライスはその話を聞きながら、その後の説教を思い出しそれを振り払うように食事に集中する。




