アッシュとシン
屋敷に入ると、執事やメイドが呆然と立ち尽くしていたがリズは笑いながら話す。
「大丈夫。直ぐに起きるから気にせず準備してくれていいわ。私は手を洗って来るから、トウヤ達は、先に座って食べられるなら食べていて。欲しいもの言えば多分持って来てくれるわよ」
そう言い、歩いて行くリズを見てセバン達は仕事に戻りトウヤ達は食堂に向かって行く。
数分後、リズが食堂に戻るとそこには椅子に力無く凭れるアインとクライスがいた。
「ありがとうアッシュ。二人共久々の一分コースはどうだった?」
「あんな化け物共と一分は旅の時よりきつかったぞ」
「それだけ鈍っているって事じゃないの?」
その言葉にアインは、水を飲み干し答える。
「いや、クライスの言うとおりだ。あれは今までで一番きつかった」
リズは溜息を吐き答える。
「だらしないわねぇ。まぁ良いわ、食事にしましょう。トウヤ達は飲んだ事のない高い酒や食べ物でも頼みなさい」
「い、いやでも・・・」
トウヤはちらりとクライスを見る。クライスは視線に気付き水を飲む。
「かまわん。好きなだけ飲め。だがリズ、その前にアッシュの話が先だ」
「本当にしつこいわねぇ。あなたが酒場で口を滑らせても誰も反応しなかったでしょ?だから大丈夫よ」
「それは確かに・・・だが、たまたま知らなかったという事も」
「それはないわ。あの酒場は操られる前のシンがよく行っていた酒場だし、色んな情報が飛び交う酒場でシンを知らないなんて新人ぐらいよ。あの時、中にはまだ他の冒険者もいたでしょう?それに、酒場にいた殆どの人はシンがアッシュだって事は知っているわ。その顛末もね」
「何故顛末を知っているんだ?現に晴天の絆のメンバーは未だによく分かっていないようだが」
アインの言葉にトウヤ達は頷く。
「シンとしてクエストを受注に行った際にクライスはギルドで事情を聞き、私達との話し合いで決めたとおりに魔法薬で変装し別人として生きる事を提案した。でもシンはその姿で私に感謝と謝罪の言葉を伝えたいからそれまでは、別人としては生きられないと断ったけど、シンの身の危険を案じたクライスの言葉に圧され魔法薬を飲み、一先ずアッシュと名乗る事にした。ここまでは合っているかしら?」
あぁ、とクライスは答える。
「その続きは私が。その後、受付嬢にリズ様の行きつけの酒場を聞いた私は、席で一人晴天の絆達を待っているリズ様を見かけた。私は近くに行き、クライスさんとの会話を伝えたが、リズ様に「確かに殲滅の刃に傷つけられた人達は、あなたを見るとその所業を思い出すかもしれない。それなら、謝罪をするべきは私ではなく他にいるでしょう?」と。私はその言葉を聞き、リズ様に魔法薬の効果を解除して頂きその場にいる全員に聞こえるように顛末を話し、憎いものは殺してくれてかまわない、と土下座をしたが不思議と私を傷付ける者は無く許された形になった私は、リズ様の魔法で今の外見へと変わりリズ様に同行させていただけるよう頭を下げていた所を、晴天の絆達に見られたという訳だ」
「だから晴天の絆の誰も知らなかったのか」
アッシュの言葉にアインは呟く。
「あの場にいた人達は目の前でこの姿に変わったのを見ていたから、何も思わなかったのよ。ちなみに、明日にでもギルド内で顛末を話すみたいだから対応よろしくね」
とリズは料理を口に運ぶ。
「すまないクライスさん。勝手なことをした」
アッシュはそう立ち上がり、クライスに深々と頭を下げる。
「丸く収まったのならそれで良いさ。責任感の強いお前が自分を偽って生きるのは辛いだろうから、俺としては文句ない。座ってくれ」
とアッシュが椅子に座ると、クライスは一つの疑問を口にする。
「そう言えばリズ。それならどうして俺達は戦わされたんだ?最初から説明してくれたら戦わなくて済んだだろう?」
「あなた達の対応が遅いのと、偉そうに座っている感じがむかついたから。あっ、これ美味しい」
クライスを見ることなくそう言うリズに、アインとクライスは反論するがそれを無視して料理を食べ続けるリズ。
「そう言えば、クライス達に変装がバレるのは百歩譲って仕方がないとして、どうしてアッシュは私に気付けたのかしら?」
「恐らく、魔技を使えるものならリズ様の底知れぬ魔力とその質に気付けるかと。リズ様は独特ですから」
その言葉にアインとクライスは頷く。
「まさかそんな欠点があったなんて、魔技の使い手がそもそも少ないから気付かなかったわ」
とリズは食事を再開する。




