魔法使いの体術
トウヤは最後の言葉に戸惑いを覚えるが、リースに強制的に前に立たされる。ちくしょう!とトウヤが戦い始めて少しすると、10体程のゴブリン達に囲まれる。
「師匠!このままではトウヤが!」
「トウヤ。円の動きよ。私達には認識阻害の魔法を掛けているから、魔物達が私達に向かって来る事は無いから安心して戦いなさい」
リースの助言にトウヤは戸惑いの表情を浮かべる。
「円の動きと言われても・・・くっ」
ゴブリン達の攻撃を掠らせながらも、辛うじて回りながら反撃を試みるが、それも決定打にはならずゴブリン達が遊んでいなければ、既にトウヤは死んでいた。
「それじゃあ動きが大きいわ!もっと小さく動いて、大きく攻撃してみて!そうしたら、ゴブリン程度なら怯むわ」
「簡単に言いますけど、魔法職のリースさんには分からないかもだけど、外から見るのと実際にするのとでは全然違うから、そう簡単には」
その言葉にリースは溜息を吐き、呆れたように話す。
「どうして前衛は直ぐに魔法職だから分からないとか言うのかしらね・・・まぁ良いわ。見本を見せてあげる。トウヤ、その場に止まりなさい」
その言葉にトウヤは攻撃を受ける覚悟で止まる。その瞬間、リースとトウヤの位置が入れ替わる。
「よく見ておきなさい」
ゴブリン達は突然女が現れた事に発情し、襲い掛かるがリースはそのうちの一体を蹴り飛ばす。数匹ほど巻き込みながら吹き飛ぶ様子に、周りのゴブリン達の目が変わり棍棒を握る手に力が籠められる。
「まずい。今の攻撃でリースさんを敵と認識して殺そうとしている」
セイルの言葉にリースは笑顔で答える。
「そうじゃないと、勉強にならないでしょ?」
その時、後ろから棍棒が振り下ろされるがリースは見向きもせず、前に軽く飛び棍棒を躱す。体勢を崩したゴブリンの顔をリースは振り向きざまに回し蹴りを入れる。顔が変形し即死したゴブリンは近くのゴブリンを巻き込み倒れ、落ちた棍棒を蹴り上げ掴み取ったリースは襲い来る攻撃をいなし、体勢が崩れたゴブリンの後ろに回り込み背中を蹴り、狼狽えるゴブリン達の顔を棍棒で殴り、その勢いを利用して背中を蹴られ体勢を戻したゴブリンの頭に投げつける。そのまま、前にいたゴブリンを巻き込み壁にぶつかると頭は弾け、巻き込まれたゴブリンは胸骨を砕かれ絶命した。
立っているのは残り五体、その全てのゴブリンは悟る。逃げなければ死ぬ、と。ゴブリン達は鳴き声を上げながら逃げ出す。その声はまるで命乞いをしているかのようだった。が、それを読んでいたリースは新たに掴んだ棍棒を近くのゴブリンの頭に振り下ろす。振り下ろされたゴブリンの頭蓋が変形し、血を吐きながら倒れるがその衝撃に耐えられなくなった棍棒は折れる。リースは仕方なくそのまま走り、逃げ出しているゴブリンの背中を蹴り、吹き飛ばされたゴブリンは二体を巻き込み壁に衝突し倒れる。リースは回転しその勢いを利用して折れた柄を逃げていく残りの一体に投げたそれは、うなじに突き刺さりその勢いのまま倒れ込み絶命する。リースは壁に衝突した二体の元に歩き出す。
「あなた達の大好きな人間の雌を前にしてどうして逃げるのかしら?」
逃げられない事を悟った二体は同時に棍棒で殴り掛かって来るが、それを回転して避けその勢いのまま踵を延髄に入れ首の骨を折る。隣にいるゴブリンは驚きの表情を浮かべるも、耳元で囁かれる声に血の気が引く。
「あなたはどうやって死にたいの?」
恐怖に引き攣り、棍棒を投げ捨て走り出すゴブリン。リースはそれを拾い上げ、忘れ物よ、と投げつけ背骨を折り絶命させる。リースはトウヤ達の方を向き笑顔を向ける。
「こんな感じだけど、分かった?・・・って何その顔?」
トウヤ達は舞の様に流麗かつ苛烈な攻撃の数々に唖然としていた。
「い、いや、リースさんがまさかここまで接近戦をこなせるとは思っていなくて」
トウヤの言葉にリースは笑顔のままで近づく。
「で?分かったの?分からなかったの?」
「な、何となく分かった気がします」
「そう。なら良いわ。」
と最初に吹き飛ばされたゴブリン達の元へと歩いて行く。
「死んだふり?それとも気絶したふり?どちらにせよ、もう逃げられないわよ?逃げ出そうと機を伺っている傍で仲間が死んでいったのだから分かるでしょ?」
その言葉にゴブリン達は一か八か逃げ出そうと上体を起こすが、その瞬間ゴブリン達の頭部を光の槍が貫くと、ゴブリン達は絶命し同時に光の槍は消えた。
「それじゃあ、私は先に帰るから、ゴブリンの討伐報酬はあなた達の軍資金にでもしなさい」
とリースは後ろ向きで手を振り出口へと歩き出す。
「・・・なぁ、あのゴブリン達が生きていたのを気付いていたか?」
「僅かに動いた気はしたが、体が重なっていたから単純にずれただけだと思っていた」
トウヤの質問に唯一セイルはそう答える。
「あれが、私達が戦っている敵だとしたら今頃油断した私達の誰かが奇襲を受けて死んでいてもおかしくはないわね。いえ、この前みたいに仲間を呼ばれることも・・・」
「そうね。そうじゃなくても、ゴブリンは人質に取る事もあるみたいだから、最悪私達は慰み者でトウヤ達は殺されるかも」
ライラの言葉にマリはそう返すが、想像し全員の背筋が凍る。
「俺達って、まだまだだな・・・」
「でも、勉強にはなったわ」
セイルの言葉にそう返すマリだが、トウヤは驚きながら問う。
「マリが?どこら辺が勉強になったんだ?」
「あの体捌きよ。あの動きを覚えたら反撃をくらいそうになっても、無傷で距離を取れる可能性が上がるわ」
「それを言うなら俺だってそうだ。攻撃の捌き方は完璧だった。あれをボス戦で出来ていれば、怪我無くいられたのに」
「私だってそうよ。最後のゴブリンへの攻撃は的確に一撃で仕留められるようにしていたわ。しかも動き出している相手の頭に。あのタイミング、あの精度はさすが師匠」
「俺の為の戦闘が、皆が見習う行動がそんなにあったんだな。本当にリースさんは凄い」
「そんなリースさんに魔法職には分からないって言ったのは誰だった?」
トウヤが関心していると、セイルはそう冷ややかに言う。
「と、とりあえずゴブリンの耳を切ろうぜ。帰りはまた俺一人でやらせてくれ。勿論、やばいと思ったら直ぐに助けてくれよ」
トウヤの最後の言葉に三人は、やっぱり助けが欲しかったんだと笑いながら、了解。と作業に取り掛かる。




