ダンジョン攻略
翌日、Aランクパーティー殲滅の刃が何者かに潰された話がギルド内でもちきり中、リースはいつも通り依頼を受けに来ていた。受付を済ませ、ギルドを出ようと歩き出すと目の前に呪いから解放された戦士が立っていた。リースは嫌な予感がしてしかめ面になり、目線を合わせぬ様下を向き通り過ぎようとするが、向こうから話しかけられ立ち止まる。
「失礼。お嬢さんお名前を伺っても?」
「すみません。クエストがあるので失礼致します」
「ま、待ってください。リズさんですよね?」
通り過ぎようと歩き出すリースはその言葉に再び立ち止まり、笑顔で振り向く。
「いえ、人違いですね。あまりしつこいようだと、ギルドの方に報告しますよ?」
戦士はその笑顔に冷や汗を流す。次にその名を出したら殺す、とそう言っているようだったからだ。
「も、申し訳ない。どうやら人違いだったようだ。知っている方に似ていたのでつい」
「いえ、分かっていただけて何よりです」
戦士は受付へと足を運び、リースは出口に手を掛ける。その時、受付嬢がクライスを呼ぶ声が聞こえた。
(殲滅の刃の一人だって事で呼ばれたのでしょうね。まぁ、クライスはああ見えても人を見る目はあるし、悪くはしないでしょう。そういえば、昨日は人数が足りない事で話しに来ると思っていたけれど、来なかったわね。まぁ、いいわ。とりあえず今はトウヤ達の元に行きましょうか)
昨日のお詫びと晴天の絆達を特訓する事にしていたリースはギルドを出て、待ち合わせ場所のダンジョンの前で合流した。
「はぁ!」
トウヤはオークを切り伏せライラの治療を受ける。
「うん。良いわね」
その言葉にトウヤ達は歓喜の表情を浮かべる。
「皆の体力も魔力もまだまだ余裕だし、今日はこのまま最奥まで行こうと思うのだけど、どうかな?」
トウヤの言葉にライラ達は頷き全員でリースを見る。
「無理だと思ったら直ぐに撤退する事。いい?」
はい。とトウヤ達は返事をし、奥へと進む。
(この子達、思っていたよりも安定して戦えているわね。このダンジョンは初めてって言っていたのに。もうそろそろボスの間に着くけど、どう攻略するのかしら)
順調に大きな怪我もなく進み、ボスのいる部屋の前でトウヤは皆の体力と魔力の確認をした後、問題ないと判断して扉を開ける。
中に入ると、後ろの扉が閉まり辺りは光の射さない暗闇に包まれるが、突如壁に沿って環状に火が灯り見渡せる程の光量を得る。
「広いな・・・ん?何かいるな。あいつがボスか」
トウヤがそう言ったと同時にそれは玉座から立ち上がる。
「オォォォォォォ!」
(ミノタウロスか。まぁ、このダンジョンなら妥当ね。さて、彼らがあの大きさの魔物にどう対処するのか見ものね)
リースはトウヤ達から離れ、近くの壁に凭れかかる。
ライラは身体強化魔法を三人に掛け、捕縛の呪文を詠唱しセイルはミノタウロスに向かい走り出す。歩きながら近づいていたミノタウロスは向かってくるセイルに呼応するように駆け出し、棍棒を握り締め振り下ろす。
「ぐっ」
それを受けたセイルの足元の地面にヒビが走る。その瞬間、ミノタウロスの顔に火球が炸裂する。
「うそ、無傷?」
ミノタウロスはマリを見据え、走り出そうとした瞬間後ろからトウヤが脹脛を切りつける。
「よし!腱を切れた!」
片膝を付き、咆哮を上げながら棍棒を横薙ぎするが、セイルは既に距離を取っており難なく避ける。突如ミノタウロスの下から黒い鎖が現れ、捕縛する。
「よし、マリ!俺とセイルで意識をこっちに向けるから、その隙に後ろから攻撃してくれ!ライラは水魔法を頼む」
了解。と三人は返事をし、セイルは盾で視界を遮りその隙にトウヤは右手首を切りつける。
「くっ、やっぱり力を籠めている所は堅いな。武器を落してくれると思ったんだけど」
その時、ミノタウロスの咆哮が再び響く。
「まずい!トウヤ、離れるぞ!」
セイルの言葉に従い距離を取るトウヤの耳に、何かが壊れる音と風を切る音が近付いて来るのが聞こえ、トウヤは咄嗟に前に飛び退く。その瞬間、大きな音を立て地面が割れミノタウロスの咆哮が響く。
「大丈夫か?」
前に立ち、盾を構えながら背中越しに聞くセイルの言葉に、何とかな、と返しトウヤは立ち上がり振り向くと、そこには砕けた地面と上半身の鎖が引き千切れた状態のミノタウロスの姿があった。
「あれ、下半身の鎖が取れていたら俺、死んでいたよな?」
「多分な」
トウヤは頬を伝う汗を拭い、セイルと共に走り出す。ミノタウロスは両手で棍棒を持ち、振り上げた瞬間、真上から水が勢いよくミノタウロスの全身を打つが、それをものともせず振り下ろされた棍棒がセイルに襲い掛かる。セイルは攻撃を逸らすがその衝撃に膝を付く。軌道を変え、セイルの横に振り下ろされた棍棒は地面を割るも、勢いは止まらずミノタウロスは力任せに横薙ぐ。
「がはっ」
セイルは構えた盾ごと吹き飛び、攻撃を加えようとしていたトウヤを巻き込み飛ばされる。
「セイル!」
ライラは急ぎ二人の元へと走り出すが、セイルの足は衝撃を完全に逃がすことが出来ず骨折していた。
マリはこの隙にミノタウロスの背中に飛び、そのまま短剣を突き刺す。ミノタウロスは咆哮を上げ、マリを掴もうとするも既にそこに姿はなく数メートル離れた場所から、トウヤが切りつけた足の傷にナイフを投げつける。下半身が固定され後ろを向けないミノタウロスは足に刺さったナイフを抜き取り、トウヤ達に向かい投げつける。トウヤはそれを剣で弾き、剣を構える。
「ライラ、セイルの傷は治せそうか?」
「私の力だと時間が掛かる上に魔力が足りるかどうか・・・」
「すまん。もうちょっと俺が上手く攻撃を捌けていたらこんな事には」
「気にするなセイル。生きていれば、問題ない。折角だからそこで俺がミノタウロスを倒すところを見ていろ」
「分かった。だが、一言だけ。あいつは咆哮を上げるたびに攻撃力が増している感じがする。一層気を付けてくれ」
了解。とトウヤは腰袋から黄色く光る球を取り出し、剣に擦り付ける。すると光は徐々に薄れていき、黒い球へと変化した。
「よし、付与完了。悪いライラ、もう一度俺に身体強化と魔法耐性を追加で掛けてくれ」
魔法を掛けられたトウヤはミノタウロスに向かい走り出し、ライラはセイルの治療に戻る。この間もマリは死角からの攻撃を続けていた。
「マリ!離れてくれ!」
マリは即座に距離を取り、数本のナイフをミノタウロスの背中に投げつける。左手でナイフを取ろうとするが、向かってくるトウヤに気付き咄嗟に攻撃に変え棍棒を振り下ろす。トウヤは棍棒を刀身に滑らせ、攻撃を逸らせそのまま剣を振り上げ右腕を切りつける。ミノタウロスは咆哮を上げ、左手で拳を作り振り下ろす。トウヤは回転しそれを避け、その勢いのままに脇腹に剣を突き刺す。その瞬間ミノタウロスの体に雷が駆け巡り、体中から煙を上げる。同時に捕縛の呪文の効果が切れ、ミノタウロスはそのまま前に倒れ込んだ。
トウヤは光が消えた剣を抜き取った瞬間、ミノタウロスの指が微かに動いたのが見え、素早く剣を首に突き立てようと振り下ろす。剣がうなじに数センチ入った瞬間、左腕がトウヤを握りつぶそうと掴み更に両手で掴もうと上体を上げる。トウヤは骨が軋む音を聞きながらも剣を貫こうと、力を籠める。
「うあぁぁぁぁぁ!」
肉を貫く感触と、骨を断つ音が両腕から伝わり剣が地面に突き刺さる感触を感じた瞬間、ミノタウロスの状態は倒れ、左手からは力が抜ける。
「がはっ」
絶命したミノタウロスの手の中で血を吐き、指に凭れながらセイルに向かい親指を立てる。
「ダンジョン攻略おめでとう。良い戦いだったわ」
と、拍手をしながらトウヤの元に歩み寄るリース。マリに救出されたトウヤは笑顔でお礼を言う。
「見たところ、あばらが数本と手足の骨に骨折とひびが入っているわね」
実はトウヤの勝利は死との紙一重だった。あの時トウヤが咄嗟に剣を首に突き立てていなかったら?身体強化の魔法が切れていたら?掴まれたときに攻撃個所を腕に切り替えていたら?その一つが欠けていたら、トウヤは全身の骨を砕かれ、最悪晴天の絆は全滅していた。
「ところで、あなた達はこの状況でどうやって町に帰るつもりなの?」
その言葉に、無言で返すトウヤ達。少しして、トウヤは口を開く。
「と、とりあえずここである程度の傷を癒してから帰ります」
「ライラの力では、骨折は完治出来ないわよ?魔力ポーションは確かあと一つよね?仮にそれで治せてとしても、トウヤの傷はどうするの?外傷はポーションで治せるけど、骨はあなた達が持っているポーションじゃ無理よ?」
「それは・・・」
言葉に詰まるトウヤにリースは尚も続ける。
「両足が使えないタンクと、全身ボロボロのアタッカー。これで来た道を戻れるの?」
「そ、それなら私が町に行って応援を呼びます」
「あなたが一人で?マリ、あなたはダンジョンの仕組みを忘れたのかしら?一度ボスの間から出て次に入るとボスは再び現れるのよ?その応援のパーティーはあなた達にこれ以上の被害を出さずにミノタウロスを倒して、ダンジョンを出られるのかしら?そもそもCランクパーティーを救うのに今の条件をクリアできるのは少なくともBランクパーティー以上の実力が求められる。万が一、あなたが応援を呼びに行けたとして、そんな都合よく相応の実力を持ったパーティーがいるかしら?」
「そ、それは・・・」
「・・・今回の事を教訓として、次回からはその辺の対策も取る事。今回は初めてのボス撃破のお祝いとして、治してあげるわ」
そう言いリースは、先程までの厳しい顔から一転して、いつもの優しい笑顔で三人の傷を癒し、ライラには魔力を分け与えた。
「あの、リースさん。私は大丈夫ですよ」
「何言っているの。一回ミノタウロスの攻撃が掠ったでしょ?後ろ向きとはいえ、あなたの防御力では打撲ぐらいにはなっているはずよ。お祝いなのだし、遠慮しない」
「そんな所まで見て・・・ありがとうございます」
頭を下げるマリの頭を撫で、リースはライラを見る。
「魔力は足りるかしら?」
「は、はい。ほぼ全快しました、ありがとうございます。でも、こんなに魔力を分けて大丈夫なのですか?」
「魔力切れの事?それなら大丈夫よ、これぐらいなら一割も使っていないし」
平均よりも魔力量の多いライラはその言葉にショックを受けたのと同時に、リースに尊敬の眼差しを向ける。
「リースさん。ありがとうございます。正直、このダンジョンから出られるのは賭けになっていました。本当にありがとうございます」
「ダンジョン攻略はした後が難しい事をその身で知れたのなら、それで良いわ」
頭を下げるトウヤにそう返す。
「ありがとうございますリースさん。こんなに早く骨折を治せるなんて、実はリースさんは神官様よりも凄いのでは?」
「・・・こんなものは慣れよ。そんな事より、宝箱を回収してきた方が良いんじゃない?」
とリースは玉座の前に現れた宝箱を指さす。トウヤ達は駆け寄り、全員で嬉しそうに開ける。
(無邪気に喜んで、可愛いわね。そう言えば、アイン達が初めてボスと戦った時は負けるし瀕死だしで散々だったけど、この子達の方がセンスあるんじゃないかしら?あの時はあまりの不甲斐なさにその後のしごき・・・いえ、特訓で腑抜けた根性を叩き直したのだっけ。懐かしいなぁ)
と懐古していると、トウヤが声を掛けてきた。
「リースさんお待たせしました」
「それじゃあ、帰りましょうか。折角だし、帰りはトウヤ一人で進みなさい。勿論、行ける所までね。ライラ達は私の指示があるまで手出し無用。良いわね?」
「ひ、一人でですか?援護なしで?」
「大丈夫よ。ミノタウロスの脇腹を刺した時の体捌きがあればなんとかなるわ。ちゃんと使えればね」




